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8.基本の9の魔法

 朝食を食べ終わり、片付けが終わった後、母は『ファイアーヒール』という魔法を教えてくれた。

これは回復の魔法で、小さな傷くらいなら即座に治すことができるという。


それで私は、はっと気づいた。

今まで、ちょくちょく小さなケガをしてきたけど、その都度母が魔法で治療してくれた。

それは、この魔法だったのだ。


 肝心の魔法の使い方は、治したい傷のあるところに手を触れて、またはかざして魔力を込め、傷を塞ぎ痛みを取るイメージを浮かべながら詠唱するだけ。


魔法の詠唱自体が4回目ということもあり、イメージがつきづらいとかということもなく、すんなり唱えられた。

「『ファイアーヒール』」


 特にケガはしていないので、左腕に手を当てて詠唱した。

すると、手を当てているところがほんのり暖かくなり、軽くなる感じがした。


「なんか、暖かい・・・」

すると、母が言ってきた。

「これは炎の回復魔法だからね、回復した箇所はほのかに暖かくなるの」


「そうなんだ。寒い時に使ってもいいかも」


「それなら、別途で体を暖める魔法があるから、そっちを使うべきね」


「それは、わたしにも使えるの?」


「使えるわ、基本魔法・・・この世界で最低限の魔法の一つだから。いずれ教える」

 それを聞いて、安心した。


同時に、新たな疑問も出てきた。

「基本魔法って、全部でいくつあるの?」


「そうね・・・炎魔法には、全部で9つの基本魔法がある。どれも日常生活で使う場面が多々あるものでね、この世界で生きていくには必須の魔法よ」


 まあ基本というくらいだから、最低限覚えていなければならないものだろう。

それくらいは、最低でも覚えておきたい。


ただ私の場合、基礎魔力が低いのが不安材料だ。

何しろ私は、昨日今日で教わった基本の魔法でさえ、2回も使えば魔力が切れるのだ。


「9つか・・・あれ?昨日今日教えてもらったのって、基本魔法だよね?」


「ええ。だから、あと6つ。でも、今日はもう終わりよ。アリアの魔力は、2つの魔法でちょうど使い切ったでしょう?」


 確かに、朝食を作る前に使った『ソロファイア』とさっき使った『ファイアーヒール』でちょうど魔力がゼロになった。

後者も、消費する魔力はぴったり50であるらしい。


 昨日もそうだったけど、1日に2回までという制限はきつい。

魔法を何度も唱えて練習する必要はないが、たった2回しか使えないというのは・・・何というか、ロマンが崩れるというか。


「そしたら、次の魔法は明日までお預けかあ」


「そうね、仕方ないわ。でも、大丈夫よ。これから少しずつ、魔力が伸びていくはずだから」

 それはそうだろうが、いくら「未来が大丈夫だから」と言われても、今が大丈夫でないのだ。

もっとも、こんなことは今までに何度となくあったが。


「魔力を伸ばす、って結局どうやるの?」


「それはまあ・・・とにかく魔法の経験を積むことね。何度も何度も魔法を使っていると、そのうちに魔力の上限が上がっていくの」


「そうなの?」

 何気に魔力の上げ方は、これまでに読んだ本には詳しくは載っていなかった。

でも、母がそう言うのなら、そうなのだろう。


「ええ。私もそうやって、10万まで伸ばしたのだから」


「えっと・・・母さんの魔力って元々、500って言ってたよね?」


「そう。私は6歳から魔法を学び始めたのだけど、そこから20年あまりの間、地道に努力を重ねてここまできた。そしてあなたは、そんな私の娘。

だからね、アリア。きっと、あなたにだってできる。私のようにはなれないかもしれないけど、それでも・・・」


 そこまで言って、母は言葉を詰まらせた。

そして場をごまかすように作り笑いをして、「そうだ。これからちょっと出かけてくるから、いい子にしててね?」と言った。




 母が出かけて帰ってきた後、私は残る6つの基本魔法の名前を聞き、それらを実際に母に詠唱して見せてもらった。

その際わかったのだけど、さっき母が言っていた体を暖める魔法とは、『ウォーム』という魔法のことであったようだ。


 それから、ものを乾燥させる魔法や水を瞬時に沸騰させる魔法。

これらはそれぞれ『ドライア』、『シェイド』というらしい。


あと、周囲の空気を暖める『ヒーティア』、手に辺りを照らせる明るさの火の玉を出す『インフティーラ』。

そして、手から炎を噴き出す『レブトーネ』。

これら6つの魔法を、母に実践して見せてもらった。


 いずれも確かに日常生活で役立ちそうだ・・・というか、 実際に母が使っているのを見たことがあるものもあった。


『ドライア』なんかは雨の日や冬場の洗濯物が乾かない時に、『シェイド』はお風呂を沸かす時によく母が唱えているし、『ヒーティア』も寒い時にはよく使っている。


唯一、『レブトーネ』に関しては、使っているのを見たことがない。

聞いたところ、これは魚などを焼く時に使うことがあるそうだ・・・母はあまり使わないらしいが。




 すべての魔法を見せてもらい終わったのとほぼ同じタイミングで、雨が降ってきた。

洗濯物を外に干していたので、2人で急いで取り込んだ。


ちなみに、母はその気になれば洗濯物を取り込むどころか、日常生活の大半の作業を魔法でやれるらしい。

でも、敢えてそれはしないという。


「魔法は、あくまで私たちの生活を豊かにしてくれる道具の一つに過ぎない。道具に頼りきりになってしまったら、体は堕落していく。

だから私は、普段の生活は可能な限り自分の手で行っているの」


 だから、わざわざ洗濯した衣類を魔法で乾かさずに干しているのか。

一瞬、なんだかロマンのない話だ、と思ってしまったが、理由を聞いたらなんか納得した。

確かに、動かなければ体がなまってしまうだろう。


とはいえ、母はまだまだ若いのだし、多少はだらけてもいいような気がする。

少なくとも私なら、今の母よりはだらけると思う。


 それに、母は今まで色々と頑張ってきただろう・・・特に私を産んでからは。

なのに、敢えてひとときも楽をせず、頑張り続けているなんて。


私も、見習わなきゃなと思った。



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