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閑話 リチャードという男



 葬儀の準備で疲れているだろうし、王都に向かうのは明日にするべき。


 その説得が功を奏し、リリーナを伯爵家で一泊させることに成功したあと。


 なんとも微妙な結果になったプロポーズを終えたばかりのリチャードは、執務室の机に肘をついて深くため息をついた。


 そんな彼の様子を見て、腹を抱えて笑う男性が一人。伯爵家の騎士団団長を務めるライヒ・グラントだ。

 幼い頃からリチャードの剣の師匠をやって来た男なので、こういうときにも遠慮がない。


「はっはっはっ! 坊ちゃん、見事にフラれましたな!」


「……まだフラれてない。一年待つだけだ」


「そういうのを『(てい)よく断られた』と言うのでは?」


「……いや、リリーナ嬢はそんな遠回りな断り方をしないだろう。本気で私が『浮気野郎』と批難されないよう配慮してくれたはずだ」


「なんともまぁ。恋は盲目と言いますが、あの腹黒い坊ちゃんが、ねぇ……」


 くっくっくっと存分に笑ってから、ライヒが真剣な表情を作る。


「坊ちゃんがあそこまで押すとは。リリーナ嬢はそこまで優秀なのですか?」


「勿論。あの元王太子(大馬鹿野郎)を隣で支えることを期待された女性だ。まず間違いなく、この国の女性としては最上級の能力を持っている。男を合わせてもトップクラスだろう」


「ははぁ、公爵閣下の後妻は優秀とは聞いておりましたが、坊ちゃんがそこまで評価するほどですか」


「その通り。しかもこの国一番の美少女だからな」


「へいへい」


 惚気を受け流すライヒ。

 そんな彼にリチャードが一つ命令を下す。


「――明日、旅立つリリーナ嬢に同行して、王都まで護衛せよ」


「伯爵家の騎士団長である自分が、ですか?」


「それだけの価値がある女性だ。いや、彼女なら山賊程度なら返り討ちにできるだろうが、ここで重要なのは『騎士団長を護衛に派遣するほど大切に思っている』と示すことなんだ」


「そういうもんですか……。そこまで大事なら、坊ちゃんが付いていけばいいでしょう? 王都出張とでも理由を付けて。そうすれば護衛に騎士団を連れて行くのも当然のことになりますし」


「私はこれから分家筆頭・カフラン伯爵家の当主として新しい公爵を締め上げ――いや、色々と言って聞かせないとならないからな。しばらくここを離れるわけにはいかないのだ」


「左様で」


 また何か腹黒いことをするんだろうなぁと疑うライヒの肩を、リチャードがガッシリと掴む。わざわざ机から立ち上がって。


「いいか? リリーナ嬢が誰かから言い寄られたらすぐに妨害するんだ。こちらへの報告には早馬――いや、ワイバーン便を使っても構わん」


 ワイバーン便、とは言っても本物のワイバーンではなく、調教しやすい超小型竜を使用した郵便・宅配制度のことだ。この領地から王都までも半日で飛んでいくが、その分かなり高めの値段設定となっている。


「さっきリリーナ様本人も似たようなことを言っていましたが、そこまでモテるんですかあの人は? いやとんでもない美人だというのは認めますがね」


「少なくとも王太子殿下はこの隙を見逃さないだろう。なにせ兄の婚約者だった頃から虎視眈々と狙っていたくらいだからな」


「はぁ……」


 ここで言う『王太子』とはリリーナと婚約破棄後に廃嫡された元王太子ではなく、その後新たに王太子として任命された弟の方だ。


 元王太子の婚約者だったのが4年前だから……12歳くらいだろうか? その頃から兄嫁となるべきリリーナを狙っていたというリチャードの推測が本当なら、たしかにこの『好機』を逃さないだろう。


 ということは、自分は王太子殿下相手に『言い寄られたらすぐに妨害』するよう命じられたのだろうか?


 …………。


 ま、若者の色恋沙汰に大人が口を出すものじゃないな。と心の中で言い訳をして、放置することにしたライヒであった。




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