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正統王家の管財人 ~王家の財産、管理します~  作者: 九條葉月


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??? とある男の――


 いつものようにリリーナとの朝食を終えたあと。


 呼吸すら苦しくなってきたオースファルト・ギュラフ公の部屋に、長年公爵家の家令(執事長)を務める男がやって来た。


「お呼びでございましょうか?」


「うむ。例の遺言についてだ」


 ギュラフ公の言葉に、委細承知とばかりに家令の男が現状を説明し始める。


「すでに手はずは整えております。旦那様が天に召されましたあと、奥様リリーナにはケイタス様と御再婚していただきます。アイラ嬢につきましては妾としての立場を与え――」


「その遺言だが、破棄する」


「……どういうことでございましょう?」


「リリーナであればあのバカ息子を支えられると思ったが、とんだ見込み違いだ。後継者教育のための授業すらできない女が、妻としてケイタスを支えられるはずがない。――儂の死後、リリーナは公爵家から放り出せ」


 表面だけ聞けば辛辣な評価。

 だが、長年の付き合いである家令の男はギュラフ公の真意を察していた。


「――惚れましたか?」


 容赦のないその言葉に、ギュラフ公はゆっくりと頷いた。


「あぁ、惚れた」


 最初は便利な駒に過ぎなかった。

 王位継承権争いの結果として、最高の教育を施された女が王都から追放されることとなった。――誰もいらないのなら自分がもらおうと。まずは王太子の望み通りに我が妻として迎え入れ、噂通りに優秀ならケイタスに譲ろうと考えていた。


 それが、どうだろう?


 女とは思えぬ頭の良さに。

 その気位の高さに。

 無理やりの結婚だったというのに、それでもなお自分を恨まず、『親子』として支えてくれたリリーナに。


 ギュラフ公は、いつしか恋に落ちていたのだ。


 無論、遅咲きにもほどがある初恋を伝えるつもりなどない。せめてあと二十年若ければと何度思ったことか分からないが、年齢ばかりはどうしようもない。


 自分は良き『父親』として。綺麗な思い出としてリリーナの中に残ろう。


 ……だが、許せぬこともある。


 ケイタス。

 あのようなバカな男に、リリーナのことを任せられるものか。リリーナの人生を狂わされてなるものか。


 ゆえにこそギュラフ公はかつての弟子に手紙をしたためた。リリーナの優秀さを喧伝し、できることなら王太子の妻にと。それか、リリーナに相応しい男の元へ嫁入りさせて欲しいと。


 あの男であればギュラフ公の愚かな恋心を察するだろう。察してくれれば、せめて良き縁談をまとめてくれるはずだ。


 すでに『覚悟』を決めた主の姿を目の当たりにし、家令の男が静かに問いかける。


「ギュラフ公爵家を、終わりにするのですか?」


「本来であれば嫡男が死んだ時点で諦めるべきだったのだ。……ケイタスが公爵になれば、この領地だけではなく王国にまで害をなすだろう。――建国以来の忠臣として、それだけは避けなければならぬ」


「公爵家が潰れるとなれば、召使いたちの再雇用先を準備していただくことになりますが」


「すでに紹介状は書いてある。それぞれの能力に相応しい職場だ」


「……個人的な見解を述べれば、奥様に任せて欲しかったのですが」


「くくっ、言ってくれるではないか」


 喜ばしいことである惜しいことでもある。リリーナはたった四年でここまで使用人たちからの信頼を勝ち取ったのだから。もしもケイタスがもう少しまともな人間であったならば、この公爵家はさらなる飛躍をしていただろうに……。


「何年持つと思う?」


 ギュラフ公の問いかけに、家令の男はゆっくりと首を横に振った。


「年単位で維持できるとお考えですか? そもそも、諸侯会議で後継ぎとして承認されない可能性もあります」


「手厳しいな」


 だが、正当な評価なのだろう。ギュラフ公はどうしても『自分の息子』という目でケイタスを見てしまうが、使用人たちは『この主の元で安心して働けるのか』という視点で評価するのだから。


 彼らからすればリリーナの元でなら働けるが、ケイタスの元では無理なのだろう。


「お前はそれなりの歳であるが、優秀だからな。いい再就職先を紹介してやろう」


「謹んで辞退させていただきます。この年で新しい環境に馴染むのは難しいですし――ギュラフ公爵家が滅んだあとも、旦那様の墓守をする人間は必要ですから」


「……苦労をかけるな」


「今さらでございます」



 誰も知らない、二人だけのやり取り。


 ギュラフ公が亡くなる数日前の出来事であった。




コンテスト応募のため、これにて一旦完結とさせていただきます。


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