エピローグ そして一年後
一年ほど前の出来事を思い出し、私は小さく微笑みを浮かべた。
あー! あの頃に帰りたいなー! そしてすべてを放り投げて国外逃亡しておくんだったなー! 今では管理している魔導具やら何やらが多すぎてー!
そう嘆いてしまうのには理由がある。お大臣様が持ち込んできたいわくつきの宝箱を厳重封印したあと、私はカイン殿下に呼び出されたのだ。
向かった室内で待っていたのは、かつて私に求婚してくださった面々。つまりはリチャードさん、ガースさん、ミッツ様、レオ、そしてカイン殿下だ。
あとなぜかミアまでいるけれど……それはまぁ見なかったことにして。
皆様が集まった理由を何となく察しつつ、それでも誤魔化してみた私である。
「あ、あははー、皆様おそろいでどうしたのですか?」
「うん。喪が明けたことだし、リリーナ嬢の答えを聞きたくてね」
ですよねー!
あーあ、喪が明けた途端にこれですか。結局カイン殿下はさほど成長しませんでしたね。と、八つ当たりするわけにもいかず。
……どうしよう?
リチャードさんは旧公爵家を乗っ取るような形で勢力を拡大しているし、いずれは伯爵から侯爵になるだろうという話もある。元々私も旧公爵家の領地経営をしていたので、もし結婚しても問題なく回していけるはずだ。
ガースさんとはあの後もなんだかんだで交流していたし、何度か協力して魔導具の捜索やら制圧やらをしたので仲も深まったと思う。
ミッツ様は相変わらず。ただ、悪い人ではないし公爵夫人やミアといったご家族との関係も良好なので、このまま自然とゴールインというのも悪くないと思う。
レオは……この場にいるということは、やっぱりあれは求婚だったと判断していいのね?
実家であるリインレイト公爵家に嫁入りという形なら、この中で一番気楽だとは思う。あとはずっと弟だと思っていたレオを『男』として見られるのかという問題だけど……まぁ、彼の言うように、無理して夫婦にならなくても姉弟として一緒に暮らすという手もあるのか。
……いや、ほんとにどうしよう?
正直言って嫌いな人間はいないし、誰と結婚しても幸せになる未来は容易に想像できてしまう。そして引き延ばしをできる雰囲気ではない。
え~?
う~ん?
お~ん……?
どうすれば……?
…………。
………………。
…………………………。
「――いっそのこと全員私が面倒見てや――るぅ!?」
ぱしこーんと後頭部を叩かれてしまった。ミアとアズ(メイドの姿)から。
「言うに事欠いてなにをほざいていますのお姉様は!?」
「いや『ほざいて』って。もう少し公爵令嬢として相応しい言葉遣いをね……?」
「いくら混乱しているからって! この場にいる全員と結婚しようとしたアホに! 公爵令嬢うんぬんを注意されたくはねーですわ!」
それもそうですね! すみませんでした!
私が縮こまっていると、ミアは続いて大人しく座っている男性諸君を順番に睨め付けた。
「情けない野郎共ですわね! 大人しく椅子に座って『待て』をしているとは! 力ずくで奪うような気概は見せられませんの!?」
いやそんな気概を見せられても困るのですが? 私が。
「――あなた方のような情けない男共に、お姉様は任せられません!」
ミアが私の二の腕を掴み、強引に立ち上がらせる。
そのまま私の腕に抱きつき、一緒に部屋を出ていこうとするミア。
「ではごきげんよう! お姉様はわたくしがいただいていきます!」
「……いや、どういうことよ?」
「ご安心をお姉様! すでにお母様から許可はいただいておりますわ!」
「どういうことよ!?」
ミアは私の言葉など聞き流しながらどんどんと廊下を進み……やっと事態を理解したのか、部屋にいた男性たちが慌てて追いかけてきた。
「待つのだミアイラン嬢! それは協定違反だ!」
協定って何ですか!?
「力づくというなら容赦はしない!」
いや容赦はしてくださいガースさん! あなたとミアが戦ったら王城が破壊されます!
「まさかミアと戦う日が来るとはな!」
なんでちょっと楽しそうなんですかミッツ様!?
「……強引な手を取っていいのなら、私も容赦しませんが」
リチャードさんは腹黒い笑みを浮かべないでくださいよ!?
「……それもそうですね」
弟よ、お前もか……。
ミアに引っ張られ、求婚男性ーズから追いかけられ。もはやカオスすぎる状況に私は天を仰ぎ、小さく呟くのだった。
「どうしてこうなった……?」




