表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
正統王家の管財人 ~王家の財産、管理します~  作者: 九條葉月


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

66/75

公爵夫人


 国王陛下が余計なことをする前に、王城に行って謝罪を受け入れましょう。


 と、基本方針はそれで決まったのだけど、やはり問題はドレスか。


 本来なら高級仕立て服(オートクチュール)の有名店に向かい、採寸。謁見に相応しいドレスをオーダーして、それが到着してから――というのが一般的な流れとなる。


 ただでさえオートクチュールの服を作るのには時間が掛かるのに、今はデビュタントの直前。仕立屋はきっと予約品の作製で手一杯で、新規の受付を停止しているはず。


「どうしたものかしらねぇ」


「わたくしのドレスはお姉様には小さいでしょうし……」


 悩みに悩む私とミアだった。


 多少のサイズ違いなら調整もできるのだけど、私とミアではそもそも身長が違いすぎるのだ。ミアが小さい――というよりは、私がデカすぎるだけ。


 実家のリインレイト公爵家に戻って、母親が残していったドレスを物色する? ……いや無理だ。あの人のドレスは無駄にキラキラしていて下品過ぎ。とてもではないけど謁見で使えるようなものではない。


 私が使っていたドレスはどうせ父親か母親が売り払って金に換えているでしょうし。


「……あ、そうですわ! お母様のドレスならお姉様でも着られるはずですわ!」


「公爵夫人の? それなら確かに謁見の場でも大丈夫でしょうけど……でも、夫人からドレスを借りるのは申し訳ないというか……」


「お母様! ドレス! ドレスを貸してくださいませ!」


 私の遠慮など最後まで聞かずに部屋を出ていくミアだった。





「あらあら、それは大変ね」


 と、穏やかに手のひらを頬に当てたのはアイルセル公爵夫人。ミアとミッツ様のお母様だ。


 穏やかそうに垂れ下がった目。年頃の子供が二人もいるとは信じられない若々しさ。そしてなによりアイルセル公爵家の人間とは思えないほどの落ち着き。いや嫁入りしてきたのだからそれは変じゃないのか。


 ――アイルセル公爵家と交渉したくば、まず夫人に話を通せ。


 それが貴族社会の共通認識というか、暗黙の了解であるらしい。


「申し訳ありません夫人。宿泊させていただいているだけではなく、このような――」


「あら、いいのよ。リリーナちゃんにはシャペロンとして娘がお世話になる予定だし。なにより……悪いのはあのバカ共なのだから」


「…………?」


 あのバカ?

 あのバカ共って言いました? え? もしかしなくても国王陛下とか、王太子殿下に向けたお言葉ですよね?


 私が思わず凝視すると、公爵夫人は優しそうに微笑み返してくださった。私が子供の頃からよく知る夫人の顔。なぁんだやっぱりさっきのは幻聴か聞き間違い――


「――調子に乗りすぎだから、そろそろ痛い目に遭わせなきゃいけないかしらね?」


 にっこりと。

 菩薩のような微笑みでとんでもないことをのたまう夫人であった。あれ、これあれですか? 『夫人に話を通せ』というのは交渉できる穏やかな人間だからという意味ではなく、実質的なボスだからという意味ですか?


 というか、代々騎士団長を務めるアイルセル公爵家が痛い目に遭わせるとか、ちょっと冗談にならないのでは? 下手をすれば革命なのでは?


「い、いえ、国王陛下からは直接謝罪していただく予定ですので……」


 冷や汗をダラダラと流しながら、なぜか陛下をフォローする私であった。ほんとになぜ私が……。


「あら、さすがはリリーナちゃん。優しいのね。でもこの場合の慈悲の心(やさしさ)は不必要よ? 自らが謝罪するべき人間をさらに困らせているのだから。相応の報復をして思い知らせないとまた繰り返すことになるわよ? 実際、四年前にあれだけのことをしでかしておきながら反省もしていないのだし」


「あ~、いや~、その~……」


 正直、今の私に王家の味方をする義理はない。

 でもなぁ、王家の力が弱まると、あのバカが神輿になった傍流王家の力が増してしまうからなぁ。それだけは回避しなければならないのだ。


 まぁつまり、敵の敵は味方理論。


 私の考えなど公爵夫人にはお見通しらしい。


「……では、いったんは保留しておきましょうか」


 くすくすと笑う公爵夫人だった。からかわれていた気がしないでもない。





評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ