いいところがないなぁ
私が即答でバッサリと求婚を断ると、カイン殿下は固まってしまった。
あ、なんというか年相応の少年感。こうして見るとやはり可愛いのだけれどね。するべきことをしないままの求婚など受けられるはずがないわよね。
今にも泣きそうになりながらも、それでも平常心を保とうとする殿下。
「い、嫌……?」
「はい。残念ながら」
「り、理由を聞いてもいいかな?」
気丈にも『王太子っぽい口調』で話すカイン殿下を見ているとついつい絆されそうになってしまう。
でも、ここで絆されると王妃ルート直行だからなぁ。
「まだ夫が亡くなったばかりですし」
「あ、あぁ、たしか一年は喪に服すのだったかな? では、そのあとになら……」
「今はまだ夫を亡くして傷心しておりまして。そんな先のことをお約束することなどできません」
「そ、それもそうか……」
項垂れるカイン殿下。そんな彼を見て、「ざまぁないですわね!」とばかりにガッツポーズを決めるミアだった。どこでガッツポーズなんて習ったのやら。
あと、よく見ればリチャード様が護衛に付けてくださった伯爵家の騎士団長・ライヒさんも(声には出さないまでも)大喜びしていた。なんでそんなに喜んでいるの……? あぁ、主であるリチャード様の恋のライバルが轟沈したからか。
「…………」
まるで雨に濡れた子犬のような目で私を見つめてくるカイン殿下。いやそんな目をされると私が悪いことをしているみたいじゃないですか? も、もう少しくらい話を聞いてあげても――
「殿下! お帰りはこちらですわ!」
満面の笑みで手ずからドアを開けるミアだった。貴族が自分の手でドアを開けてはいけません。というツッコミは今さらか。
この屋敷の人間であるミアにそう言われてしまっては、カイン殿下としても拒否するのは難しいらしい。大人しく立ち上がり、ドアに向けて歩いて行く。
……いや『王太子殿下』にそんな態度を取るのは不敬だし、カイン殿下も本来なら拒否できるんだけどね。大人しく帰ってくれるのだからそんな指摘もしなくていいか。
「で、ではリリーナ嬢。また来ます」
「え、ダメです。じゃなかった、お構いなく」
「…………」
また即答してしまう私だった。でも今回ばかりは私は微塵も悪くない。そんな何度もアイルセル公爵家に王太子殿下が通ったら、アイルセル公爵家の年頃の令嬢・ミアと『いい仲である』と誤解されちゃうし。
そもそも王太子というお立場なのだからその辺も考えて行動して欲しいものだ。
「…………」
すごすごと退散するカイン殿下。そんな彼の背中を見守っていると、一つ思いだしたことがあった。
「そうでした、殿下」
「! 何かな!?」
ぱぁあ! っと顔を輝かせる殿下。そんな彼に対して私は空間収納から手紙を取りだした。
「お父様――故ギュラフ公から国王陛下へのお手紙を預かっておりまして。このようなことを願うのは不躾にもほどがありますが、陛下に直接お渡しできる機会などないでしょうし……」
手紙を手渡すと、殿下はあからさまにがっかりした様子になった。
「あ、そうか。手紙、手紙か……」
「…………」
お父様との最後の思い出である手紙を、軽んじられるのは面白くない。
たしかに王太子を郵便扱いするのは不躾だけれども、それでお父様の手紙が軽んじられていい理由にはならない。
「ちなみに。そのお手紙を陛下に差し上げることは我が夫の最後の願いでしたので。ぞんざいに扱うことは故人への侮辱だとお考えください。――必ずや、届けてくださいね?」
と、少し嫌味を込めてしまったのは大人げなかっただろうか?
≪いいところないですねこの王太子≫
≪マスターも少し大人げないと思いますが……≫
≪まぁ、王家からの仕打ちを考えれば、優しい方じゃないですか?≫
≪……それもそうですね≫
王家と王太子に厳しい二人だった。元々は王家所有の魔導具だったはずなのにね。
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