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正統王家の管財人 ~王家の財産、管理します~  作者: 九條葉月


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閑話 ざまぁああああ!(ミア視点)


 ――ざっまぁあああぁああねぇええぇええええぇえですわぁあああぁあああああっ!


 即答でフラれた王太子殿下を見て、わたくしは『ざまぁ』を止めることができませんでした。あらまぁ固まっちゃってお可哀想に! ざまぁねぇですわ!


 ちなみに『ざまぁ』とは最近流行りの小説で使われている、因果応報を指す言葉らしいですわ。


 それはともかくとして。第一王子は語るに値しないほどの愚か者でしたが、どうやら第二王子の方もアホだったみたいですわね。不敬罪になるので口にはしませんが。


 ……いえ、しかし。本当に、何を考えているのでしょう?


 お姉様は王家の命令で第一王子の婚約者になりました。それは貴族であり公爵令嬢であるのだから仕方ないと言えるでしょう。支持基盤は強いのにアホなあの男を支えられるのは、幼いながらもすでに『天才』として名を馳せていたお姉様がぴったりだったのですから。


 未来の王妃となるため。

 あのアホな第一王子を隣で支えるため。

 元々天才であったお姉様は、寝る間も惜しんで勉学に励んだと聞きます。――努力した天才。それがどれほどの逸材となるかは故ギュラフ公が領地経営の大部分を任せていたことや、今でもなお複数の言語を扱えることが証明しているでしょう。お姉様は国一番の才女であるために――国一番の才女が王妃となるために個人としての時間を犠牲にしてきたのです。


 ――そんなお姉様に、王家は何をしたのでしょう?


 あのバカは庶民の血を引く男爵令嬢と結ばれるために、冤罪を仕立て上げたうえでの婚約破棄。しかも、他の貴族の注目が集まる中で。


 貴族としての誇りがどれほど傷つけられたことでしょう。


 わたくしであったならばその場で剣を取り、第一王子を討ち果たしていたはずです。その後自身がどうなろうが、家族がどうなろうが、関係ありません。誇りを傷つけられたなら自らの手で始末を付ける。たとえ国王であっても容赦はしない。それこそが『貴族』という人種なのです。


 ですがお姉様は耐えました。しっかりと反論し、自らの潔白を証明してもなお、その場での報復は行いませんでした。


 無用な混乱を『未来の王妃』として抑えようとしたからこそ。


 お姉様はきっと予想していたのでしょう。こんな茶番劇は第一王子の暴走であり、他国での式典に出席されている国王陛下・妃陛下が戻ってくれば取り消してくださると。


 自らの名誉を自らの手で守った上で、未来の王妃として、これ以上の混乱を起こさぬよう一旦引く。


 なんという気位の高さでしょう。


 だからこそわたくしは、お姉様を『お姉様』と呼び慕うようになったのです。


 ――そんなお姉様に、王家は何をしたのでしょう?


 婚約破棄後。まるで最初から(・・・・・・・)予定されていた(・・・・・・・)かのような手際の良さでお姉様は馬車に詰め込まれ、着替えることすら許されずにギュラフ公の元へと追放されてしまいました。


 お姉様を受け入れたギュラフ公がどういうつもりだったのか、それはわたくしには分かりません。最初から『反お姉様勢力』に協力していたのかもしれませんし、お姉様を哀れんで保護してくださっただけかもしれません。……少なくとも、ギュラフ公は腫れ物扱いされるお姉様を無下に扱ったりはしませんでした。


 しかしギュラフ公がお姉様との『白い結婚』を貫き通し、まるで本物の親子のように領地経営の術を教え込んでいる間。――王家はなにもしませんでした。


 いいえ。王家に言い訳をさせるならば、騒ぎを起こした第一王子を廃嫡し、真相を調べてお姉様の無実を証明。ギュラフ公との婚姻取り消しを打診し、さらには公式に謝罪するために王城へと招いたのに……。となるのでしょう。


 しかし、だからどうしたというのでしょう?


 お姉様の名誉を傷つけた第一王子から直接の謝罪はなし。反省もなく、辺境伯の協力で王城を抜け出して傍流王家(・・・・)を立てる始末。


 真相を調べて無実を証明? そんなもの、あのときお姉様が自分でやったことではないですか。


 すでにギュラフ公爵家に馴染み始めていたお姉様に婚姻取り消しを打診するのなんて喧嘩を売っているとしか思えませんし。


 なによりも。謝罪をするために王城に呼び出すなど――舐めているとしか思えません。


 謝罪をするときは相手のいる場所に赴いて。それは王であろうとも変わりません。むしろ、貴族という誇り高い人種に謝罪するというのに、相手を呼び出すなど宣戦布告にも等しいのです。


 公式の謝罪が無理ならば避暑や療養、あるいは老臣をねぎらうためという名分を立ててギュラフ公爵領へ行けばよかっただけのこと。……たったそれだけの苦労すら惜しんだのです。王家にとって、お姉様はその程度の価値しかなかったのでしょう。


 そしてそれはお姉様も理解なさっていて。


 王家からの要請を断り、お姉様が王城への召喚に応じなかったのも当然。舐めた態度ももちろんですが……一度『国王陛下』から謝罪をされてしまえば、あとはもう許すしかないですから。


 お姉様を舐め腐っている王家。


 いま目の前にいる第二王子の態度からもそれを察することができます。


 ここで最初に「兄がすまないことをした」とでも謝罪しておけばお姉様からの心証も違っていたでしょう。第二王子は直接関係ないものねとなったことでしょう。


 ですが、あの男がしたのは心のこもっていない哀悼の言葉と、ペラペラとしたお喋り、そして喧嘩をふっかけること。そんな態度の男からの求婚を、お姉様が受けるはずがないのです。


 そもそも、本当にギュラフ公の死を悼んでいるのならば、未亡人を口説くようなことはしないはずですし。お姉様のことを本当に想っているのならば、夫を亡くしたばかりのお姉様に求婚などしないはずです。


 どこまでも自分勝手な男。


 さらに呆れるのは口説き文句。


 お姉様が優しい?


 野郎共は口を揃えてそう言いますが、失笑するしかありません。


 お姉様は確かにお優しい。


 ですが、それは奴らが想像するように甘いからではありません。心根の穏やかさから来るものではありません。――気位が高いからこそ、優しいのです。


 良く言えば統治者としての慈悲。

 悪く言えば『上』の存在としての義務。


 貴族としての血と。公爵家令嬢としての誇り。なによりも国母たらんとした女の意地。


 お姉様は真に気位が高いからこそ、優しいのです。それこそが貴族と(ノブレス)しての義務(・オブリージュ)なのですから。


 そもそも、ただ単に優しいだけならば、かつての試合でわたくしやお兄様をあそこまでボコボコにはしません。いい感じに手加減をしてくださったことでしょう。それをしなかったのはわたくしかお兄様が将来国王の護衛役になると思っていたからこそ。護衛をするならば当然強くなってもらわなければならないという判断から。


 お姉様は優しいですが、その優しさを理性で制御できる御方なのです。国のために。王家のために。


 それを理解せず、お姉様の誇りを傷つけ、優しさに甘えようとする男など……求婚を断られて当然なのです。


 あぁ、なんてお可哀想なお姉様! 王家の連中からは散々に誇りを踏みにじられ! 言い寄ってくる野郎共は表面的な優しさと強さしか見ていないだなんて! あんな野郎共にはお姉様は任せられません! ……お兄様も、思っていた以上にポンコツでしたし。


 …………。


 ならば、いっそのこと……。






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