また魔導具か……
「さて、どうする? さすがにあんな遠くに行っちゃった二人と一緒に転移することはできないし……」
≪いえマスターならできるのでは?≫
遠く離れた場所にいる人間も転移させることができると? なにそれチートじゃん。
≪いえ、マスターの場合力加減をミスって下半身だけその場に置き去りに、などの可能性も≫
フレイルはそろそろ私を『不器用ポンコツ女』扱いするの止めてもらえないかしら?
≪実際その通りなのでは?≫
アズからの容赦ないツッコミだった。
というか、この前みたいにフレイルが転移のサポートをしてくれればいいのでは?
≪できないことはないですが、遠くの人間を転移させた経験はほとんどないので……やはり上半身と下半身がサヨウナラする可能性はあるかと≫
不器用ポンコツ女扱いは断固として止めないらしい。なぜだ。
ま、あまり無茶をしなくてもいいか。なんだったら私たちがガースさんのところに転移してから、みんなで一緒に転移すればいいし。
そんなやり取りをしているうちに、ガースさんとミッツさんは獣人軍団の前に到着。なにやら言い争いを始めてしまった。
身体強化魔法で視力と聴力を強化。……獣人たちの目に感情がないというか、生気を感じられない。俗な言い方をすればレ〇プ目とか、瞳にハイライトがないとか?
≪公爵令嬢がレ〇プとか口にするのはどうなんです?≫
口にはしていません。考えただけです。アズが勝手に頭の中を読んだだけで。それにこの世界でそんな単語は通じないはずだし。……いやもしかしたら通じる? なんか変なところでカタカナ語が使われているし。私の他にも転生者が居たんだろうなぁ。
「おっ」
交渉が決裂したのか、バトル開始。獣人軍団がガースさんとミッツ様を包囲し始めた。
「そもそも。ガースさんは族長でしょう? なんで勝手に軍勢が動いたり、交渉が決裂したり、バトル開始しちゃうの?」
事情に詳しそうなセナちゃんに尋ねてみるけど、彼女も困り顔だ。
「最初は私たちが誘拐されたので探索のために軍を動かした……と考えていたのですが、どうやら違うようですし……。一番可能性が高いのは謀反ですが、叔父上はうまく統治していましたので、謀反を起こされるほど不満が溜まっていたとは考えがたいのですが……」
やっぱりセナちゃんって歳不相応にしっかりとした考えをしているわね。むしろ怯えて涙目のリッファ君が年相応と言えるでしょう。
しかし、謀反、謀反ねぇ……? あの生気のなさからは、そんなアグレッシブな理由は読み取れない。どちらかと言えば誰かに操られているような……?
「……アズとフレイル。心当たりはない?」
≪何か変なことがあると魔導具を疑うのはどうかと思います≫
≪いえ、今回はおそらく魔導具が原因ですが≫
とぼけようとするアズと、そんな彼女をズバッとぶった切るフレイルだった。
心当たりがありそうなフレイルからさらに話を聞く。
≪魔導具の名前までは分かりませんが、おそらく精神操作系の魔導具でしょう。有名なものでは魔王が使っていた魔導具がありますが……今の獣人たちは自由意思が制限されていそうなので、おそらくはもっともっと格下の魔導具でしょう≫
ふ~ん? 精神操作系の魔導具ねぇ?
鑑定眼を使って獣人族の軍勢を視て、それっぽいものを捜索してみる。……お、あった。軍勢の最後尾にいる獣人が『杖』を持っているわね。あれがきっと魔導具でしょう。
「……あれだけの遠距離で、しかも軍勢の最後尾ということは透視も併用していて……。お姉様は優秀な御方ですわねぇ」
なぜかため息をつかれてしまう私だった。なぜだ。




