こんなのばっかりか
この世界にも、前世における『穢れ』に似た考えはある。
いくら山賊の犠牲者とはいえ、遺体を触ったからには『穢れ』てしまった……と、考えるのが普通の人間らしい。
かくいう私も腐肉のこびりついた手や、腐臭が鼻を突く現状は中々に辛いものがあったので……ここは魔法を使うことにした。
「――浄化」
呪文を唱えると、まずは私の身体が光に包まれ、浄化された。手にこびりついていた腐肉も、身体に纏わり付いていた腐臭も消え失せている。
続いてライヒさんや他の騎士さんたちも浄化していく。これで本物の『聖女』であれば全員一気に浄化できるのだろうけどね。私はそこまでの存在ではないので一人一人するしかない。
「……いえ、浄化とは本来重要な儀式を前にして場を清めるために使われる神聖な魔法にして、解呪系の最高峰魔法ですわよね？ それを扱えるだけでも規格外と言いますか……、お姉様は魔力欠乏症になっていましたわよね？ まさかもう魔力が回復したのですか？ いくら浄化の消費魔力が少ないとはいえ……」
なぜかミアからドン引きされてしまった。あのミアから。不可解なこともあったものである。
「…………」
遺体の埋葬を手伝ってくれた人たちを浄化したあと。私はブレスレット――うたかたの恋に視線を移した。
よく見ると装飾の溝や隙間などに赤黒いものがこびりついているし、あの光景の通りなら山賊に利用され殺された子供たちの血なのでしょう。
「――浄化」
うたかたの恋に対しても浄化の魔法を使ってあげる私であった。このブレスレットは二分割されていて、蝶番でそれぞれをつなぎ合わせて開閉できるようになっている。ブレスレットを開いて、裏側とか細かいところも浄化していき――
「うん？」
うたかたの恋が独りでに動いた。威嚇するようにカチャカチャと開閉したあと、私の左手首に噛みついたのだ。
いや、噛みついたという表現は少し違うか。
私の左手首を包むように。ブレスレットとして装着するように。うたかたの恋は私の手首に巻き付いたというか、装着されたまま動かなくなり――
あら？ 開かないわね？
うたかたの恋に触れて外そうとするけれど、まるで元々分割などされていなかったかのようにカッチリと組み合わさっていてびくともしない。
……もしかして、一度装備したら外せない系の呪いのアイテム？
…………。
勝手にマスター認定して魔力を吸い取る聖剣アズベインや、勝手に手首に巻き付いて剥がれないうたかたの恋……。
王家の宝はこんなのばっかりか。
思わず突っ込んでしまう私であった。
