せめてもの鎮魂
うたかたの恋の記憶を頼りに、洞窟の外へ。
少し離れた茂みの中にあったのは、子供の遺体だったもの。
野生動物にとっての御馳走である内臓は食い荒らされていたし、その他の肉部分も大部分が食われていた。漂う腐臭の中、今は残った肉片を昆虫たちが『処分』している。
「…………」
私には時間を巻き戻すことなんてできないし、死者を生き返らせることもできない。聖女のような奇蹟も起こせないし、魂の救済なんてもってのほか。
少し魔法が得意で。ちょっと前世の知識があるだけの無力な人間。
それが私。
そんな私だからこそ、せめて、できることをするしかない。
近くの地面にうたかたの恋の記憶にあった子供と同じ数の穴を掘る。子供が横たえられるくらいの、野生動物が掘り返せないくらいの規模の墓穴を。
その墓穴の中に、子供の遺体を埋葬していく。骨や肉片を手に取り、一人ずつ。
「……リリーナ様。そのようなこと、我々がしますので……」
ライヒさんとしては気を遣ってくれたのでしょう。貴族の子女がやるようなことではないことは、私にも分かっている。
でも、『そのようなこと』という物言いに、私は少しだけ不機嫌になってしまった。
子供の小さな頭蓋骨を抱き抱えながら、ライヒさんに目を向ける。
「私は鑑定眼でどれが誰の部分か分かりますけれど、ライヒさんには分かりますか?」
「……いえ、それは……」
「それとも、遺体が混ざったまま、全員纏めて同じ墓穴に放り込んでしまえばいいと?」
「…………ご無礼を、お許しください」
貴族に対する無礼を挽回するためか。あるいは人間としての良心が黙って見ていることを許さなかったのか。ライヒさんたちも遺体の運搬や墓穴への安置を手伝ってくれた。
魔法で穴を埋め戻し、近くにあった岩を墓標代わりに。この世界風に腕を組んで鎮魂の祈りを捧げる。
「――ゆく道に幸福を。ゆく先々に安寧を。転生輪廻の終焉で、いつか再び見えましょう」
ここで友人である『聖女』なら本当に魂の安らぎを与えることができるのでしょうけれど。凡人である私には幸せな転生を願うことしかできない。
でも、私みたいな毒にも薬にもならない人間が転生できたのだ。
こんなにも辛い目に遭った彼らは、きっと、もっと幸せな世界に転生できるはずだ。
きっとそうであると、私は信じることしかできなかった。




