うたかたの恋
「――転移魔法が使える魔導具、ですか?」
「鑑定結果はそうなるわね」
「……転移魔法となりますと、転移に必要となる膨大な魔力の保持はもちろんのこと、空間と空間の座標指定や、異なる空間の接続などもそのブレスレット一つで行えるとでも?」
疑わしげなミアだった。まぁ転移魔法なんてよほどの魔術の才能があるか≪塔≫において長年の修行をしてやっと習得できるかできないかというレベルの魔法なので、それがブレスレット一つで可能になるというのは疑って当然の話ではある。
「……どう考えても『神代遺物《アーティファクト》』クラスよねぇ」
本来ならこれも証拠品として騎士団に提出するべきものなのだろう。
でも、街の騎士団にこの魔導具を渡すのは危険すぎる。とてもではないけど保管しきれるとは思えないのだ。
「お姉様が空間収納に保管しておいて、しかるべき場所に提出するべきかと」
「あ、やっぱりそう思う?」
王家か、≪塔≫か。聖剣と一緒に報告してもいいし、魔導具ということを考えれば≪塔≫に相談してもいい。たしか今の≪塔≫の最高責任者はあの子であるはずだし。
しかし、転移魔法の魔導具かぁ。
これを使えば、獣人の自治区から子供を攫うことも可能よね。
まぁ、可能というだけで、実際に使われたとは限らないけど。それでもこの魔導具を使うのが一番成功確率が高いと思う。
ただ……。この魔導具に必要なだけの魔力を充填するためには、複数人の魔術師が必要となる。
この盗賊たちの中には魔法使いがいなかったので、魔力の充填をするならそのためだけに複数人の魔術師を雇う必要があるし、となれば莫大な資金が必要だ。
魔術師を複数人雇う予算なんて、獣人の子供二人を売り払ったお金ではとてもではないけど補填できないから、『可能だけどやる意味がない』お話となるのだ。
私の魔力の大部分を吸い取ったアズもそうだけど、強力な魔導具はそれだけ大量の魔力を必要とするものなのだ。……いや、アズには必要以上の魔力を吸い取られた気がするけれど。
「……そういえば、アズにはこういう魔導具の知識はあるのかしら?」
≪実際目にしたものであれば、名前や外見的特徴、性能などを記録してあります。――その魔導具の名前は『うたかたの恋』。かつて国と国との争いのせいで引き裂かれた恋人が、逢瀬を遂げるために作られたという伝説があります≫
なんだかロマンチックないわくのある魔導具だったみたい。




