表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
9/52

召喚された理由 ②

「え・・・・・っと・・・・」


小説みたいな展開でも、実際に言われると現実味がない。


と言うか、なんでわたしの結婚相手を勝手に決めるんだろう?


冷静に考えると、ううん、冷静に考えなくても、とっても失礼だよね


「おこと」

「とりあえず、話すから聞いて」


イラっとしながら断ろうとすると、陛下はわたしを制するように軽く手を挙げて、話しはじめた。


「この国・・・・と言うか、この世界は魔力がないと生きていけない世界なんだ」


真っすぐにわたしを見て、真剣なまなざしで


「この世界・・・・・・・この国は不毛な大地だった。作物は育つことなく、海も荒れ果てて・・・・・・人々は生きることすらやっとの日々。そんななか、『女神』・・・・・・・そう呼ばれる存在を、初代国王が見つけ出した」


薄暗い湖の底にいた『女神』を初代国王が助けて、『女神』は初代国王に恋をした


愛しい人を助けたいとの『女神』の想いで、この国は肥沃な大地へと、温暖な気候と、穏やかな海が創られ、人々は平和な日々を享受できるようになった


「この国は、近隣の国に比べて豊かだ。それは、『女神』に愛された国だからだと言われている」

「・・・・・・・・・・・・・それで、それが、わたしとどう関係するんですか?」


陛下はどこか他人事のように淡々と話してくれたけど、わたしが召喚されたこととの繋がりが見えない


「・・・・・・・・・・『女神』は、自分の『力』を扱うことができなかったんだ。初代国王への『想い』があるから、この国を平和にしたい。だけど、『力』を扱うことができない・・・・・・・・だから、『女神の力』を扱える者を定期的に召喚して『女神の祝福』を受けてもらい、この地を治めてきた」

「え!?」

「・・・・・・・・・・・・・この国の者は、『女神の力』を扱えないからね」


(なに・・・・・・・・それ・・・・・・・)


ぞわっと背筋が一気に冷たくなって


わたしにとってはろくでもない話だと予想はしていたけれど、とてつもない嫌悪感が湧きだして


「あなたたちに利用されるために、わたしは呼ばれたってこと?」

「・・・・・・結果としては、そうなるね」


絞り出すように声を出して、軽蔑するように陛下を見ると、陛下は気まずいのか少し伏目がちに言葉を続ける。


「君たちには迷惑な話だと思う。僕たちにとっても、自分たちの行く末を異世界の他人に委ねざるを得ない、情けない話だよ」


そっと、シスツィーアさんが陛下の手に自分の手を重ねる。


陛下はシスツィーアさんに少し微笑んで、またすぐに引き締めた表情で話してくれた


「そして、『女神の祝福』を受けた異世界の女性との間に子孫を残すことで、召喚ができない間も『女神の祝福』を少しでも扱えるように、国を安定させることができるようにした。それが僕たち王族」

「じゃ、3人は兄妹ですか?」


シスツィーアさんと陛下の顔立ちは似ていなくても、同じ髪の色をしている


(兄妹って言われても不思議ではないけど・・・・・・・・)


でも、シスツィーアさんはレオンさんのことを「レオリード殿下」って呼んでいた。


(兄妹じゃなくて、親戚なのかもしれない)


そう思っていたけれど


「ツィーアは違う」

「わたしは一応貴族だけど、王族との繋がりはないわ」


きっぱりと陛下が否定して、シスツィーアさんも困ったような顔をしながら首を横に振る。


(違うの?)


だったら、なんでシスツィーアさんはこの場にいるんだろう?


首を傾げそうになるけれど


(あ!)


シスツィーアさんが陛下に触れていた手が、いつのまにか陛下としっかり繋がれている。


「・・・・・シスツィーアさんは、陛下の」

「恋人だよ」

「夫婦じゃなくて?結婚は?」


(陛下がもう結婚しているなら、シスツィーアさんとは)


心がざわざわとざわついて、さっきよりも嫌悪感が激しくなって


シスツィーアさんがオロオロと陛下とわたしを交互に見ているけれど、陛下はまっすぐにわたしを見つめ続けて


「してない。ツィーアがいるからね」

「自分は好きな人といるのに、わたしには会ってすぐのレオンさんと結婚しろってよく言えますね!!」


バン!!


きっぱりと言い切る陛下に堪らなくなって間髪入れずに叫ぶと、両手をテーブルに叩きつけて立ち上がる。


「しんっじらんない!わたしのことも勝手に呼びつけておいて、「結婚しろ」とか勝手なこと言うくせに自分は恋人がいる!?人を何だと思ってんのよ!ほんと、何様!?」


言いながらも、「王さまか」ってどこか冷静にツッコミを入れる自分がいて


「だいたい、頼んでないのに呼びつけて、そっちの都合押し付けて、わたしのこと利用するって言うし・・・・なんなの・・・・・」


じわっと、視界が歪んできて、鼻の奥もツンとしてきて


(ヤバい・・・・泣きそう)


けど、この人たちの前で泣きたくない。


唇を噛みしめて、両手を握りしめて下を向く


さっきテーブルを叩いたからか、紅茶が跳ねてテーブルクロスを汚しているのが視界に入るけれど、目の前にあるのに遠くにあるように感じて


「ごめんね、優愛。もしかして、将来を約束した人がいた?」


シスツィーアさんの言葉に、「はっ」と空気が緊張するのが分かる。


「・・・・・・いたらどうするの?元の世界に戻してくれるの?」

「・・・・・・召喚の儀式はあっても、帰すための儀式はないんだ」

「っ!だったら!聞いてどうするのよ!」


陛下がシスツィーアさんを庇うように言うのがムカついて、思い切り陛下を睨みつける。


「ごめんなさい、無神経なことを聞いたわ」


陛下の隣でシスツィーアさんが目を伏せて言うことも、余計に苛立ちを増すばかりで


いつの間にかレオンさんが倒れた椅子を起して、わたしをそっと座らせる。


「放して!」


勝手に触れられたことが堪らなく嫌で、今度はレオンさんを睨みつける。


「すまない」


言いながらも、レオンさんは身を屈めて片膝を地面につくとハンカチを取り出して、わたしの右手に触れる。


気が付かなかったけれど、わたしの手にも紅茶が跳ねていたみたいで、ハンカチでそっと拭ってくれると、そのまま私と視線を合わせて


「優愛、まずは君に謝罪したい。勝手に召喚し、こちらの都合を押し付けてすまない」


そう言って深く頭を下げると、また視線を合わせて


「そして、君に協力をお願いしたい。君が受ける『女神の祝福』を、この国に分け与えて欲しい。俺との結婚は、しなくて良い。だが、この国の為に力を貸して欲しい。お願いする」


切なげな視線でわたしを見つめると、また深く頭を下げる。


「兄上!?」

「アラン、彼女の意思を無視して召喚したのは俺たちだ。違うか?」

「っ・・・・・はい」


陛下は頭を下げたレオンさんに驚いて立ち上がりかけたけれど、シスツィーアさんがそっと手を握ると腰を下ろす。


(・・・・・・・・・・・・)


わたしはぎゅっと胸が締め付けられて、レオンさんが触れたままの手を振り払うことも出来なくて


わたしが黙ったままでいると、レオンさんは顔を上げてまたわたしと視線を合わせる。


「優愛、まずはこの世界のことを知って、ここでの生活にも慣れて欲しい。そして、ゆっくりでいいから、なぜ我が国がこんなことをせざるを得ないのかを、君たち異世界の女性に犠牲を強いるのかを知って、そして協力するか決めて欲しい」


真っすぐに見つめられて、ゆっくり伝えられた言葉は、ゆっくりわたしに染み込んで


「君の、身の安全と衣食住の、待遇の保証はする。だから、」

「少し!考えさせてください・・・・。あたま、おいつかなくて・・・・」


レオンさんの言葉を遮る。


(これ以上は、聞きたくない!)


また視界がぼやけてきて、鼻の奥も痛くなって


レオンさんから視線を逸らして、泣かないように唇をぎゅっと結ぶ。


「もちろんだ。今日はすまなかった。部屋まで送ろう」


レオンさんが立ち上がり、わたしのことも立たせてくれようとするけれど


「ひと・・・りで、大丈夫・・・です・・・・・ひとりに・・して・・・」

「・・・・・・・分かった」


今すぐに一人になりたくて、誰にも触れられたくなくて、レオンさんの手を借りずに立ち上がる


陛下が控えていたメイドさんに部屋まで送るように言ってくれているけど、どこか遠くに聞こえて


「ひとりで・・・・・・・・・大丈夫・・・・・・・」


早く立ち去りたくて、俯いたままその場を離れた。


最後までお読みいただき、ありがとうございます

次話は6月23日投稿予定です。

お楽しみいただけると幸いです。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ