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召喚された理由

今日はルリさんがお休みで、いつもなら代わりのメイドさんも一人しかいないのに、朝起きると三人もやって来た。


「お支度を整えますね」


そう言われて、なぜだかお風呂に入れられた。


いつもなら一人で入るのに、今日はどれだけ断っても聞いてもらえなくて


「ご遠慮なさらないでくださいませ」

「わたくしたちにお任せください」


美容師さんにしてもらうみたいに、頭を丁寧に洗われたあとマッサージまでされる。


それだけじゃなくて、身体だって全身を丁寧にピカピカになるまで磨かれて、保湿クリームみたいなものもしっかり塗りこまれていく。


(恥ずかしいっ!!)


恥ずかしくて顔が真っ赤になるけれど、メイドさんたちは気にする素振りすらない。


お風呂から上がってぐったりしたわたしに、「これは体型に合わないわ」、「これは色がちょっと」と、メイドさんたちは持って来たドレスをわたしにあてて、なんだか気合を入れて選んでいる。


(・・・・・・・・昨日、レオンさんと会ったから?)


今日も会うことになっているから、ルリさんもお休みだし着飾らせたいのかな?


わたしの意見を聞かずに勝手に盛り上がっているのを見ていて、なんだかモヤモヤして


鏡越しに眉間にしわが寄っているわたしが見えるけれど、メイドさんたちは気にすることなくドレスを決めて、髪を結っていく


「お化粧させていただきますね」


何の説明もないままメイクまではじめられて、さすがにイラっとしながら尋ねる。


「あの、何かあるんですか?」

「国王陛下への謁見ですわ」

「え!?」


もったいぶることなく、あっさりと返ってきたのは意外な答え


(なんで!?)


たしかにレオンさんは「近いうちに会わせる」って言ってくれたけど、昨日の今日


(いくら何でも早すぎない!?)


そんな偉い人に急に会うだなんて、それだけじゃなくて、ここに召喚された理由を説明してくれるんだろうけど、急すぎて何を話して良いのか分からない


(せめて前もって言ってくれれば、ちゃんと何を話すか整理できたのに)


心の準備なんて全然できてない


(まあ、『国王陛下』ってくらいだし、忙しいから急でも仕方ない・・・・・・・かな?)


どうにか自分を納得させようとしたけど、そこまでしてあげる必要ある?


急に会うことになったのはまだ良いけど、なんの説明もなしに、勝手にいろいろされるのは面白くない。


わたしがここに来たかったんじゃないのに


(これって、怒って良いよね?)


急に会うことになったとしても、メイドさんたちが来た時に教えてくれたら良かっただけ


そうすればお風呂だって、メイクして着飾られることだってちゃんと受け入れたし、ここまでイライラする必要だってなかった


(こっちから尋ねないと教えてくれないって、どうなの?)


メイドさんたちは、また楽しそうに相談しながら仕上げに入っている。


はっきりいって不愉快で


イライラしながら黙ってされるがままになってると、メイドさんの一人が気づいたのかばつが悪そうな顔をする。


「急遽、陛下のご予定が空きましたので決まりました。事前にお伝えしておらず、申し訳ありません」

「・・・・・・・・そうですか」


丁寧に謝罪されたけど、すぐに気持ちは切り替えられない


だけど、謝ってくれたからそれ以上は何にも言えなくて


曖昧に頷くことしかできなかった













メイドさんたちに着せられたドレスは薄いラベンダー色で、裾に細かな刺繍が入っているもの


はじめて着る色だから似合うのか気になったけれど、姿見の鏡で見せてもらったら不思議とわたしに似合っていた。


メイクされたから、鏡に映るわたしはいつもより大人っぽくて


髪もハーフアップにして、髪飾りがついてる。


「よくお似合いですわ」

「・・・・・・・・・・そうですね」


やり切った感で満足そうなメイドさんたちに、どうにかイライラをぶつけないように


タイミングをはかっていたのか、メイドさんたちが片づけをはじめたころ、レオンさんが部屋に来た。


「今日は朝早くからすまない」

「いえ・・・・・・・」

「聞いたと思うが、会わせたい者たちがいるんだ。急だが良いだろうか?」

「・・・・・・・・・はい」


(教えてくれないんだ・・・・・・・)


「会わせたい者」はきっと国王陛下。だけど、レオンさんもそれ以上何も話してくれない。


(レオンさんなら、話してくれるかと思っていたのに)


なんだかがっかりしていると、レオンさんはわたしをじっと見つめて


「・・・・・・・良く、似合っている」

「あ、ありがとうございます」


レオンさんに優しく微笑まれると、恥ずかしくなって俯く


「エスコートさせて欲しい」と、手を差し出されて


昨日と同じようにレオンさんに手を引かれて、謁見するための場所まで案内してもらう。


慣れないヒールで、転ばないようにゆっくりしか歩けないわたしに、レオンさんは嫌な顔もせずに歩調を合わせてくれる。


(ほんとに、お話のなかの王子さまみたい)


実際、王子さまなんだから当然かもしれないけど、ごく自然にするから嫌味がない


目覚めてから、何かと気を配ってくれる優しい人


それがわたしのレオンさんの印象だけど


(どうして、こんなに親切なんだろう?)


ふっと沸き上がった疑問に、ちらっと見上げてレオンさんの顔を見る。


わたしの視線に気が付くと、穏やかな笑顔を向けてくれる


それだけではなく、なんだか嬉しそうにも見えて


にこ


つられるように笑うと、また歩くことに集中する


(ちょっと引きつっちゃったよね)


気にしたかな?


そんなことを考えているうちに


「ここだ」


案内された場所は、わたしのいる部屋からそう離れてないところ


天気が良いからか、お庭の四阿に小さなテーブルと椅子が4つ用意され、テーブルの上にはお茶とお菓子が置いてあった。


レオンさんに椅子を引いてもらい、腰かけたタイミングで一組の男女がやって来る。


「そのまま座ってて。兄上も座って、ツィーアはこっち側ね」


立ち上がった方が良いか迷うと、男性がさっと女性を椅子に座らせ、その隣に自分もさっさと座ってしまう。


わたしの正面に男性。両サイドにレオンさんとツィーアと呼ばれた女性が座る形だ。


給仕の人がすぐにお茶を出してくれて、そのまま会話の聞こえない距離まで下がると、男性が口を開く。


「僕はアランディール。アランと呼んで。彼女はシスツィーア」

「ツィーアと呼んでね」


少し怒ったような顔をして自己紹介してくれた男性がアランさんで、ふわっと笑ってくれた女性がシスツィーアさん


(あれ?国王って・・・・・・・?)


「あの、メイドさんから「国王陛下と謁見」って言われたんですけど」

「・・・・・・・・はぁ!?・・・・・・ちっ」


アランさんが思い切り嫌そうな顔をして舌打ちをする。


(え?なに?)


そんなことしそうにない上品な雰囲気なのに、もの凄く嫌そうな顔をされて、ただでさえイライラしてるのに、なんだか気分が悪くなってしまう


「余計なことを・・・・・・・・・・・・」

「アラン。優愛が怖がるわ」


そんなわたしの様子に気が付いたシスツィーアさんが、ぼそっと歯ぎしりしながら言うアランさんを窘めてくれる。


レオンさんも呆れたようで


「アラン。品がないぞ。それに、アランが指示したんじゃないのか?」

「なにが?」

「優愛のことだ。連絡を入れたら、もうメイドたちが準備していると言われた。アランが指示したのでは?」

「僕はしてないよ」

「えっと・・・・・・・?」


話が見えなくて戸惑っていると


「ごめんなさい、優愛。アランはね、今日はレオリード殿下の異母弟(おとうと)として会うつもりだったの」


シスツィーアさんが申し訳なさそうに教えてくれる。


「どうしても『国王』だと、緊張しちゃうでしょう?だから、今日は本当に顔合わせのお茶会のつもりだったのよ。メイド長にもそう伝えておいたはずなのに・・・・・・こんなことなら、最初から話しておけば良かったわね」


しゅんと肩を落とすシスツィーアさん。


それなら、メイドさんたちが先走ったってこと?


半信半疑でアランさんを見ると、はぁっとため息を吐いてアランさんも頷く。


「最初から身分明かして、警戒して欲しくなかったんだよ・・・・・・・・・騙すつもりはなかったんだ。一応、僕がこの国の王。だけど、畏まる必要ないから」

「ええ。わたしにも、お友だちみたいに話してくれると嬉しいわ」


アランさんは不機嫌そうなままだけど、シスツィーアさんはにこっと笑いかけてくれる。


レオンさんも「すまない」と、申し訳なさそうにしてくれて


少しだけ、イライラしていた心が落ち着いて来る。


「初めまして・・・・・・・・篠崎 優愛です」

「・・・・・・・・・・・・・生活、なにか不自由してない?兄上が気を配ってると思うけど、欲しいものがあったら言って」

「・・・・・はい」

「本当は、もっと早くに会うつもりだったんだけど、ちょっと予定合わなくて。それに、今日は単に顔合わせだけのつもりだったんだけど、こうなったら仕方ない。君も気になってるだろ?いろいろ話さなきゃいけない事あるんだけど、何から話そうか」


レオンさんとシスツィーアさんは黙っていて、この場はアランさん(こくおうへいか)に任せるみたいだ。


陛下の口調も、さっきよりはとげとげしさがなくなって、わたしの話を聞く姿勢を見せてくれる。


「・・・・聞いても、良いですか?」


思い切って口を開く


(聞かないことには、先に進まないしね)


「良いよ。なに?」

「なんで、わたしが呼ばれたんですか?わたしに、何をさせたいんですか?」


じっとわたしを見つめて、陛下がゆっくりと口を開く。


「やっぱり、そこが気になるよね」

「はい」


理由がなければ、召喚さ(よば)れるわけない


わたしも陛下から視線を逸らすことなく見つめて


「君には兄上と結婚して、この国に『女神の祝福』を授けて欲しいんだ」

「え?」

「そのために、召喚した」


心の片隅では予想していたけれど


真剣な顔で陛下は私を見つめて、ファンタジー小説?ラノベ?みたいなことを告げた。




最後までお読みいただき、ありがとうございます

次話は 6月21日投稿予定です。

お楽しみいただけると幸いです。

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