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謝罪

レオンさんのお見舞いの翌日から、お部屋には「レオリード殿下からの贈り物です」と、毎日お花が届けられるようになった。


(気を使わなくて良いのに)


そう思いながらも、朝から届くお花が楽しみで


「優愛さまはお花がお好きですか?」

「えっと・・・・・・家では、飾る習慣がなかったので」


お兄ちゃんとお母さんが花粉症で、生花が飾ってあるのは、誰かから貰ったときかお祝いのときだけだった。


そんなことを話そうとして、けど、家族のことを思い出すと鼻の奥がツンとして


「・・・・・・綺麗ですよね」

「お気に召していただけたのなら、レオリード殿下もお喜びになりますわ」


ルリさんが変に思わないように誤魔化した。


そんな日が数日続いて


「レオリード殿下から「お会いしたい」とお申し出がありましたが、如何なさいますか?」


レオンさんとまた会うことになった。






「こんにちは、優愛」

「こんにちは」


レオンさんはお茶の時間より少し早めにやって来て、また花束をくれる。


「ありがとうございます」

「今日の花も気に入ってくれると良いが」


今日のお花は、花びらが中心に向かって青色が薄くなって真ん中が黄色い芯のお花


香りがバニラエッセンスみたいに甘くて


「・・・・・・甘い香り」

「どうだろうか?」

「え?えっと、好きですよ?」


なんだかそわそわしているレオンさんに、首を傾げながら答える。


「良かった」


ふっと相好を崩すレオンさんは、やっぱり仔犬みたいなのとカッコ良さとが入り混じって


「ぷっ」と聞こえて顔を向けると、後ろにいる護衛の人が肩を震わせている。


(この人、この間も)


吹き出すのを堪えていた護衛さんと同じ人


(えっと・・・・・・レオンさんの様子に吹き出してたの?)


レオンさんの方が偉い人なのに、笑ったりして良いの?


そう思うけれど、レオンさんは気にしていないのか気づいてないのか、わたしに笑顔で手を差し出す。


「良ければ、庭に出ないか?そこでお茶にしよう」


そう言って、外に連れ出してくれた。








「いま着ている服は君の世界の服だな。みんな、そのような服を着ているのか?」

「え・・・?あ、そうです。同じ年頃の子は、こんな感じです」


前もって用意してあったのか、お庭にはいつの間にかテーブルと椅子とおっきなパラソルが置いてあった。


またルリさんにお茶を淹れてもらって、レオンさんが持って来てくれたお菓子も一緒に出してくれる。


今日のお菓子はこの時期にしか食べられない、果物のタルト


一口サイズに作ってあるタルトは、ベリーみたいな赤い色の果物がのっていて、果物の甘酸っぱさがクリームチーズみたいなクリームと一緒に食べると、まろやかになって美味しい。


レオンさんは甘いものは苦手なのかお茶だけ飲んでいて、わたしが食べてない絶妙のタイミングで声を掛けてくれる。


(制服だから、大雑把に言えば似たような服だよね?)


首を傾げながら答えて、はっとこの間のメイドさんのことを思い出す。


(もしかして、この世界の服を着ろって言いたいの?)


思わず警戒してしまうけれど、レオンさんは「そうか」と頷いただけでそれ以上は何も言わない。


(考えすぎ?)


ルリさんも他のメイドさんも、あれから服装のことは何も言わない。


だから、今日も制服を着ている。


(これが一番落ち着くし)


ルームウェアやパジャマは仕方ないし、下着も用意してもらったものを着させてもらっているけれど、やっぱりこの格好が一番落ち着つく


そんなことを考えていると


「優愛、君がどうしてここに来たのか、知りたいことは多いと思う」


改まった口調でレオンさんが切り出す。


もちろん、知りたいことだらけ


(なんで・・・・・・勝手に)


勝手に呼び出して、何の説明もされなくて


レオンさんがこうやって気にかけてくれるし、ルリさんたちが親切にしてくれるけれど


(・・・・・・・帰りたいのに)


両手を膝の上で握りしめて、ぎゅっと唇を噛みしめて


少しだけ顔を伏せたわたしは、レオンさんがどんな表情をしているのか見えてない。


だけど、レオンさんの声はとても悲しい響きで


(なんで・・・・・・?)


恐る恐る顔を上げると、悲痛そうなレオンさんが目に入る。


「だが、すまない。俺も全ては知らされていないんだ。すぐには無理だが、近いうちに国王陛下と会う機会を設ける。それまで待っていてはくれないか?」


そう言って、頭を下げるレオンさん。


「えっ!顔上げてください!」


いろいろ聞きたいことは多いけど


「レオンさんが謝ることじゃないんでしょう!?だったら、顔上げてください」

「すまない。だが、君に迷惑をかけているのは事実だ。できる限りのことはするから、しばらく待って欲しい」

「・・・・・・・わかりました。だから、謝らないでください!」


なぜだかレオンさんに謝られると、心が鷲掴みにされたみたいに痛くて


わたしのほうが泣きたくなって


「ちゃんと・・・・・・・説明してくれるなら・・・・・・少しくらい、待ちますから」

「ありがとう、優愛」


なんとかそれだけ言って、唇をぎゅっと閉ざす。


レオンさんから申し訳なさそうに微笑まれて、またぎゅっと胸が苦しくなる。


(なんで?本当なら、わたし怒っても良い立場だよね?)


怒ってもいいはずなのに、どうしても怒ることができない


(なんで・・・・・・・・・?)






《だって・・・・・・・・・・レオンも》






(え?)


頭のなかに、ふわっとなにかが浮かびそうになって、だけどそれがなんなのか分からないうちに消えてしまう


(・・・・・・・・・・疲れてるのかな?)


知らない世界で知らない人たちに囲まれて、精神的に疲れていてもおかしくない。


レオンさんも黙ったままでいるから気まずい雰囲気が流れて、何にも言えなくて俯きながらぼんやりしかけていると、さっき吹き出した男性がレオンさんに近寄って来た。


「殿下、お時間です」

「ああ。すまない、優愛。今日はこれで失礼する。また明日来てもいいだろうか?」


名残惜しそうに言われて、嫌とは言えなくて「はい」と答えたけど


(会いたく・・・・・・・ないな)


なんでだろう?


すごく切ない感じがして、気分が落ち込んでいる感じがして


(誰にも会わずに、一人で過ごしたい)


そう思うけれど



翌日、わたしはレオンさんだけじゃなくて、他の人とも会うことになった。



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