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城下町へ ③

「ふふっ!大収穫です!」


アルツィードさんと町へ出て屋台を見て回って、シスツィーアさんに気に入ってもらえそうな可愛らしい小花柄のコースターを見つけて


陶器でできたコースターは縁の部分が少し上向きになっていて、クッキーとかおいても良さそう


(良いのがあって良かった!)


薄いピンク色なのも可愛くて、わたしも同じものを買ってしまった


ほかにも、コースターに置くのにぴったりなガラス製のマグカップと、ビーズが刺繍された白いリボンを自分用に買う


王宮で使わせてもらっている物に比べたらどれもオモチャみたいな安物だけど、自分で欲しいと思ったものを買うのは楽しくて


陛下たちのはまだ見つけることはできないけれど、お昼を過ぎたあたりでアルツィードさんおススメのお店に入る。


お店のなかはちょうど空いたばかりなのか、お客さんは2、3人しかいないけど、テーブルにはまだ食べ終わった食器が乗ったまま


「ごめんなさい!ちょっと待ってて!」


長い髪を一つに束ねた店員さんが、わたしたちに気が付くと奥にあるテーブルをてきぱきと片付けてくれる


「はい!お待たせしました」

「ありがとうございます」


お礼を言って座ると、店員さんはすぐにメニューを持って来てくれて


「あれ?アル?」

「ん。久しぶり」


店員さんはアルツィードさんを見て、目をしぱしぱと瞬かせる。


「髪、どうしたの?」

「親戚の子と一緒だからな。目立ちたくなかったんだよ」


アルツィードさんは肩を竦めてそう言うと、わたしが見やすいようにメニューを広げてくれる


わたしはまだ驚いたままの店員さんを見上げて


「こんにちは」

「こんにちは。ってことは、この子も貴族?」

「違う。この子の祖父さんが俺の祖父さんと兄弟で元貴族」


挨拶するわたしににこっと笑いかけてくれたあと、店員さんはアッとした顔になるけれど、アルツィードさんの言葉にほっとして


「良かった。不敬罪になるのかと思ったわ」

「ん。今日のおススメは?」


今日のおススメのランチはもう売り切れていたから、店員さんほかのランチメニューから気になったのを注文する。アルツィードさんはいつも同じものみたいで、「アルはいつものね」と店員さんも聞くことはなく


「美味しい!」

「良かったわ、お口にあって」


わたしが注文したのは「ネルト」という、日本でいう生地にお野菜を練り込んであるパスタで、ソースは日替わりで今日はボロネーゼ


お肉のぎゅっとした味がパスタとよくあって、思わず声をあげる


店員さんはお客さんのいなくなったテーブルを片付けながら、にこにこと嬉しそう


アルツィードさんはトーストされたパンに、お肉とお野菜がたっぷり挟まったサンドイッチ。お肉は揚げてあるみたいで、ぱっと見にはカツサンドっぽい


食事が終わると「これ、他の人にはナイショね」と、店員さんがお茶とクッキーも出してくれる。


お客さんもわたしたち以外はいなくなったからか、店員さんはそのまま色々と話しかけてきて


「ユアちゃんは王都に観光に来たの?」

「えっと、観光もですけど」


返事に困ってアルツィードさんを見ると、アルツィードさんも考えてなかったみたいで


「・・・・・・・まぁ、そんなとこだ」


歯切れ悪く言うアルツィードさん


(学園に通ってるって言ったら、余計に好奇心もたれそうだし)


店員さんはわたしにも視線を向けるけど、説明のしようがなくて、曖昧にわたしも笑うと


「もしかして、アルの奥さん!?」

「ぶっ!!」


まさかの言葉に、アルツィードさんがお茶を吹き出して


「ゲホッ・・・・・・ゲホッ」

「こほっ、こほっ」


吹き出すことはなかったけど、わたしもお茶が変なとこに入って、なんとかカップを置いて口を手で押さえて咳込む


「もしかして、アタリ!?」

「違う!」


目を輝かせる店員さんに、アルツィードさんが力いっぱい否定する


「えー。だって、アルは貴族でしょう?爵位持ちってあとつ」

「ち・が・う」


アルツィードさんの圧に負けたのか、店員さんはそれ以上は何も言ってこないけれど、なんだか楽しそうな


(納得してないよね)


にまにましてる店員さん


アルツィードさんは苦虫を噛み潰したような顔をして


カラン  カラン


「いらっしゃいませー!」


タイミング良くお客さんが入ってきて、店員さんはそちらへ行ってしまう。


アルツィードさんはあからさまにほっとすると、またカップに手を伸ばし


「アルツィードさんは貴族なんですか?」

「・・・・・・・ええ、まぁ。一応、伯爵位を」

「え!すごい!」


伯爵は高位貴族


男爵なら平民とほぼ変わらない生活をしている人もいると教わったけど、高位貴族は違う。


四半期に一度行われる議会にも参加する権利があるし、この国の要職にだって就けちゃう。


平民が気安く話しかけるなんて、本当なら許されないはず


(それなのに偉そうに見えないし、店員さんも気軽に話してるし)


さすがに、どの爵位かは内緒にしてるのかな?


疲れたようにお茶を啜るアルツィードさんに、なんとなく好奇心がうずいて


「独身なんですよね?彼女さんは?」

「・・・・・・・いません」


どことなく気まずそうに視線を逸らされて


(もう少し、聞いてもいいかな)


ちょっとだけ踏み込んで


「好きな人は?」

「・・・・・・おりません」


適当にはぐらかすこともできるのに、アルツィードさんは律儀に答えてくれる。


(いい人だな)


なんだかお兄ちゃんをからかうときみたいな、くすぐったい感じがして


「気になる人は?」

「おりません」


なんでそんなこと聞く?


そんなことが伝わってきそうな顔


「協力しますよ?」

「遠慮します」

「遠慮しないで」

「・・・・・・・・」


そろそろ、この話題をやめろ


そんな、じとっとした目になってきて


「じゃあ、アルツィードさんに好きな人ができたら教えてくださいね」


さすがにやめどきかな?って思って、にこっと笑った

最後までお読み下さり、ありがとうございます。

すっかり間が空いてしまいました。日が経つのは早いですね

まだまだ寒さが厳しい毎日ですが、どうぞみなさまご自愛くださいませ

次話もお楽しみいただければ幸いです。

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