城下町へ
「はじめまし・・・・・・?」
はじめて城下町へ行く日
陛下に紹介された護衛さんに、挨拶しようとして
(はじめまして、じゃない。会ったこと、ある・・・・・・よね?)
騎士の制服じゃないし、髪の色が違うけれど、どこかで見たことある
(うん。見覚えある。だけど、どこで?)
大人の男性と会うことなんて、ほとんどない
わたしを担当してくれる護衛さんはさすがに覚えてるし、パティシエさんもコックさんとも違う
(そもそも、護衛してくれるんだから、『騎士』だよね)
わたしを担当してくれる護衛さんはだいたい女性だし、たまに男性もいるけどさすがに覚えてる
レオンさんと同じくらい背が高くて
レオンさんと同じくらいの年齢で
(あ、瞳の色が微妙に違う)
青色なんだけど、左右で瞳の色の濃さが違う
(こんな特徴ある人、いたっけ?)
なんだか居心地悪そうに身じろぎして
困ったような顔をしているけど
じいいっと見つめて、なんとか記憶を辿って
「あ!」
(思いだした!)
「レオンさんの護衛さん!」
「アルは兄上の護衛騎士もしてるから、会ったことあると思うよ」
しびれを切らした陛下とわたしの声が重なる。
目の前の男性は、また困ったような顔をして
「アルツィードと申します」
そう言って、綺麗な動きで頭を下げた
「わぁ!人がいっぱい!」
あれから、陛下が用意してくれた服に着替えて、アルツィードさんに案内されながら人気のない道を通って、城門の外に停まっていた馬車に乗って街へ来た
(すごい!お祭りみたい!)
アルツィードさんと乗ったのはいわゆる乗合馬車だったみたいで、降りたところは露店がたくさん並んでいる広場
休息日だから人が多いかな?とは思っていたけれど、想像以上に人がいて
(すっごく活気がある!)
広場では小さな子どもたちが駆け回っているし、ベンチに座って露店で買ったものを食べたり、楽器を演奏している人もいる
わたしまでわくわくしてきて、ふらふらと引き寄せられそうになるのをぐっとこらえて、アルツィードさんの横をキョロキョロしながら歩く
「ひとまず、どこか話が出来る場所に・・・・・・こちらへ」
「はい」
アルツィードさんもこの人の多さは予想外だったのか、ちょっと驚いたような顔をしたあとに住宅地っぽい区画へ入って
(なんだか・・・・・・見たことある?)
石造りの似た家が立ち並んでいて、懐かしい感じがする
(テレビに出てきそうな、ヨーロッパとかの街並みに似ているからかな?)
アルツィードさんと並んで歩くと、ときどき街の人が「こんにちは」と声を掛けてくれるから、「こんにちは」って返して
アルツィードさんは広場からそう離れていない、お庭のあるお家へと入って行く
「ここは?」
「・・・・・・・・・祖父と暮らしていた家です。人に貸していたのですが、先日出て行ったので」
キッチンに入ると椅子を勧められて、お礼を言って座る
前もってお掃除してくれていたのか、廊下にもテーブルにも埃とかはなくて
「町へ出るときは、ここを使います。その、こういった場所があると・・・・・・・便利なので」
「わかりました」
アルツィードさんは口下手なのか、わたしが頷いたことでほっとしたように小さく笑って、向かい側に座る
「陛下から、だいたいのことは聞いております。ですが、優愛・・・・・さまからも、改めて聞かせていただいても?」
「はい」
陛下に話した内容をアルツィードさんにも話す。
陛下たちの知らない、わたしだけの知り合いが欲しいだなんて、我がままだって思われて理解されないかと思ったけれど、アルツィードさんは嫌な顔をすることなく最後まで真剣に聞いてくれて
「なるほど。優愛・・・・・さまだけのご友人が欲しいと言うことですね」
「友人と言うか・・・・・・まぁ、はい。そんな感じです」
「たしかに、城にいる者たちは陛下の意向には逆らえません。そういった意味では、本心から優愛さまが信頼できる者はいないかもしれませんね」
意外にもすんなりと理解してくれて、あっさりとそんなことを言う。
「陛下から伺っていた内容と違いはありません。具体的にどうなさりたいとお考えですか?」
「それが・・・・・・・なにをどうするかまでは・・・・・・」
(そもそも、お友だちってどうやって作るものなの?)
日本では同じクラスで席が近い子と話して、そこからだんだんと話す子が決まって
(お友だちの作り方なんて、改めて考えたことなかった)
街に行って、何人かと顔見知りになって
そうやっていくうちに、いつのまにか仲良くなれるかなって漠然としか考えてなかった。
「とりあえず、この世界の人たちがどんな生活をしているのかを知りたいと思ってはいますけど・・・・・」
さすがに何も考えてないなんて言えなくて、ぼんやり考えていたことを言うと、アルツィードさんも頷いて
「そうですね、優愛・・・・・さま。では、とりあえず街を散策いたしましょう」
最後までお読み下さり、ありがとうございます。
すっかり間が空いてしまって、すみません。
次話もお楽しみいただければ幸いです。




