お見舞い
「今日は見舞いを許してくれて、ありがとう。体調はどうだろうか?」
「えっと・・・・・・大丈夫です」
翌日、レオンさんはこの世界で「お茶の時間」と言われる時刻にやって来た。
「これを」
優しい笑顔を浮かべながら差し出されたのは、ピンクオレンジの花とかすみ草(?)みたいなので作られた花束
「君の好みにあうか分からないが、良ければ受け取って欲しい」
「あ、ありがとう・・・・・・ございます」
なんだか気恥ずかしくなって、顔が熱くなりながらも受け取ってお礼を言う。
お花からは、微かに柑橘系のすっとする香りがして
「えっと・・・・・・可愛らしいお花ですし、この香りも、好き、ですよ」
「良かった」
どことなく懐かしさを感じながらそう言うと、レオンさんは嬉しそうに微笑んでくれた。
「優愛と呼んでも良いだろうか?」
ソファーに向かいあって座って、ルリさんにお茶を淹れてもらっているときに、レオンさんから改めて尋ねられる。
「その、初対面の時から呼び捨てていただろう?不快にさせたなら、すまない。改めて『優愛』と呼んでも構わないだろうか?」
「えっと・・・・・はい、大丈夫です」
「ありがとう、優愛」
そう言って、目を細めて嬉しそうに笑うレオンさんに、つられて笑ったけれど
(ぎこちない笑いだよね)
なんだかレオンさんの笑顔が眩しくて、どきどきして自然に笑えない。
レオンさんの後ろにいる護衛の人が、吹き出しそうな顔をしているのが見えて
(むー!)
なんだか恥ずかしくて俯くと、ルリさんがお茶とお皿をテーブルに並べてくれる。
お皿の上に置かれたのは、マカロンみたいな可愛らしいお菓子
「こちらのお菓子も、レオリード殿下からの頂き物ですわ」
「ありがとうございます」
「君の好みがわからないから、勝手に用意した。無理して食べる必要はないし、苦手なら残してくれ」
そう言いながら、レオンさんはルリさんが淹れてくれたお茶に手を伸ばして、流れるような仕草でカップを口につける。
(うーん・・・・・・・・・やっぱり、王族って感じ?だよね)
ルリさんはレオンさんが「王族」って言うのは教えてくれたけれど、どんな地位にいるのかまでは教えてくれなかった。
隠す理由がわからないけれど、誰かに命じられているのか本気で困っていたから、それ以上は何も聞けなくて
けど、「王族」って教えてもらわなくても、「殿下」と呼ばれてなくても
姿勢は良いし、お茶を飲む仕草だって綺麗で、育ちの良さがにじみ出るような雰囲気は隠しようがない。
思わず自分のマナーが気になって、ぎこちなくカップを持ち上げてお茶を飲む。
意識したから余計にぎこちなくなって、カップをソーサーにカシャっと当ててしまって、恥ずかしくて顔が赤くなるけれど、レオンさんは気にならないのか、不快そうにすることもなかった。
「優愛?」
「あ!すみません・・・・・・ぼーっとして・・・・・・・・このお菓子、美味しいです」
慌ててお菓子に手を伸ばして、ちょっと
だけ齧る。
(うん。やっぱりマカロンっぽい)
サクッとした食感と甘酸っぱいクリームは、これまで食べたマカロンと同じくらい美味しい。
(美味しい)
懐かしくなって、泣きそうになって顔を伏せると、レオンさんが心配そうにして
「まだ体調が万全ではないのだろう?すまない、無理を言ってしまって」
「体調はホントに大丈夫です!」
慌てて顔を上げると、レオンさんはほっとした顔をして、でもすぐに申し訳無さそうにする。
「そうか。だが、無理はしないで欲しい。横になっていても・・・・・・・・ああ、俺がいては休まらないか」
「え!?」
まさかそんなことを言われるとは思ってなくて、目をぱちぱちとさせる。
レオンさんは苦笑して
「見舞いたいと、無理を言ったのはこちらだ。体調がきつければ、ベッドで横になってくれ。本当ならもっと日を開けて、もっと落ち着いてからと思ったのだが、どうしても・・・・・・・君に会いたくて」
切なそうに見つめられて、思わずどぎまぎして俯く。
「迷惑、だったろうか?」
「そんなこと!・・・・・・・ない、です」
しゅんとした声で言われて、また慌てて顔を上げて否定する。
けれど、結局は「良かった」と嬉しそうに微笑まれて、また顔が赤くなって俯いて
(なんだろう・・・・・・・・仔犬みたい)
身分の高い、しかも年上の男性にこんなこと思うのは失礼だと分かるけれど、嬉しそうに笑うレオンさんが可愛い仔犬に見えて
「あの・・・・・・レオンさんが来てくれたの、迷惑じゃ、ありません」
「ありがとう、優愛」
なんとか顔を上げて、そう言った。
(結局、聞けなかった・・・・・・・・・)
あのあと、何度も尋ねようとしたけれど、レオンさんはずっと嬉しそうに微笑んでいて
その顔を曇らせたくなくて、聞きかけてはやめてを繰り返してしまった。
(あんなイケメンの笑顔は反則でしょ!?)
レオンさんは精悍な整った顔つきで、身長だって高くて、身体つきだってしっかりとしているのに、雰囲気は柔らかくて、威圧するようなところはないし、穏やかな優しい声で話してくれる。
そんな、完璧な大人の男性に、あんなふうに微笑まれて
(緊張するなって方が、ムリ!)
同級生の男子とは違うし、お兄ちゃんやお父さん、親戚のおじちゃんたちだって、あんなにカッコ良い人いなかったんだから、どきどきするのは仕方ない!
お茶を出したルリさんにも「ありがとう」って言っていて、メイドさんたちにも偉そうにしないところも、人柄の良さがにじみ出てて好感度高いし
それに、まだこの世界に慣れてないわたしに負担かけたくないからって、お茶を一杯飲んだら帰っていった。
(そういう気遣い方も完璧なんだけど!?)
わたしに負担をかけないように、さらっと気を使ってくれて、ドキドキしないなんてムリ!
そう自分で自分を慰めて、だけど、聞かないといけないのに聞けなかったことに、なんだか自己嫌悪を覚えて
「優愛さま?お疲れではありませんか?本日はもうお休みの支度を」
「お願いします」
クッションを持って顔を赤くしながら、ルリさんの提案に頷いた。
最後までお読み下さり、ありがとうございます。
次話もお楽しみいただければ幸いです。