条件
「とりあえず、掛けてよ」
「失礼します」
思った通り、陛下にはすんなり会えた
とは言っても、わたしが少し確認したいことがあったから、3日後だけど
「こないだは、ツィーアとお茶してくれてありがと。喜んでたよ」
「陛下にお礼言われることじゃないです。わたしも楽しかったですし、それに、わたしがシスツィーアさんと会いたかったんですから」
なんとなく、陛下のお礼が気に障って、可愛げがないと分かっていても反発してしまう。
陛下は特に気にした様子もなく
「学園はどうだった?馴染めそう?」
「リオンが気を配ってくれますから、大丈夫そうです」
テーブルにお茶が置かると、陛下の指示でふたりきり
「それで?なにか用があるんだろ」
カップを持ち上げながら、陛下が尋ねてくる
「兄上じゃなくて、僕のところに来るくらいだ。よっぽどのことだよね?欲しいものとかできた?」
「ええっと。まぁ」
同じようにカップを持ち上げて、お茶に口を付ける。
(・・・・・陛下も綺麗な顔立ちだよね)
シスツィーアさんと同じ髪色くらいしか気にしてなかったけど、レオンさんやリオンとは違って陛下は中性的な顔立ち
切れ長な目のせいか冷たい感じがするけれど、綺麗な顔をしている
(陛下をまともに見るのは、はじめてかもしれない)
あの日はじっくり見る余裕なんてなかったから、ちらっと陛下を盗み見る
レオンさんよりも低いけれど、たぶん陛下も背が高い
細身だけれどひょろっとした感じではないし、長くて綺麗な指をしていて、ただ無関心そうにお茶を飲んでいている姿だけでも、なんというか絵になる。
(冷く見えるのは、雰囲気のせいもあるかも)
あのときもだったけど、淡々とした話し方やちょっとまわりに無関心そうなところが、冷たそうな印象を与えるのもあると思う
だけど
(忙しいはずなのに、急かしたりしない・・・・・・)
シスツィーアさんは陛下のこと大好きだし、レオンさんもリオンも陛下のこと悪く言わない
きっと、根は良い人なんだと思う
(わたしの印象が悪いだけで)
カップを静かに置いて、陛下をまっすぐ見る
「お願いがあるんです」
「うん。言ってみて。だいたいのことは叶えられると思う」
陛下も同じようにカップを置くと、わたしをまっすぐに見つめ
「自由に、行動したいんです」
「いまも特別制限してないだろ?」
陛下が怪訝そうにする
「そう、なんですけど・・・・・・護衛さんも外して欲しくて」
「それは無理。けど、どうして?」
「・・・・・・街に出てみたくて・・・・・ひとりで」
「は?」
怒っているわけではなさそうだけど、微かに眉を寄せ
「学園で、えっと、貴族以外の人たちを見ました・・・・・・・・わたしとそう変わらない容姿の人、結構いますよね?」
「あ、ああ。うん。君の容姿は、この国の平民たちとほとんど変わらないからね」
お昼休みを利用して、図書室とか身分関係なく利用できる場所を見てまわった
(一般の人たちに、わたしが紛れても大丈夫か知りたかったから)
図書室にいる職員さんのなかにも、黒っぽかったり栗色の髪の人がいたし、大丈夫だって思えた
「わたし、ここに来るまで自分のことは、自分でしてました。もちろん、全部じゃないです。親がしてくれたこともあります。だけど、ここだと・・・・・・それに、どこかに行こうとしても、ずっと、メイドさんや護衛の人がいて・・・・・・」
「ああ。四六時中、そばに誰かいるから息が詰まるんだ」
「・・・・・・・・はい」
納得したように陛下が頷く
「その気持ちは分からなくはない。だけど」
「それに!全部、陛下たちの指示でわたしのお世話をしてくれる人たちだし」
「?」
さすがにわたしの言っている意味が掴めないのか、陛下は首を傾げる。
「君の指示に従うように言ってあるけど?」
「そうじゃなくて・・・・・・・・・!」
わたしのそばにいる人たちは、わたしの出会う人たちは
「全部・・・・・・・陛下の知ってる人たち・・・・・・ですよね?わたしの・・・・・・・『篠崎 優愛』の・・・・・・・知り合いじゃない」
「まぁ、会ったことないメイドや騎士たちはいるけど・・・・・・その通りだね」
「・・・・・・・・・・・・わたしを・・・・・・・・陛下たちを通してじゃない、『わたし自身』の知り合いを作りたいんです・・・・・・・・」
「・・・・・・・・・」
言いたいことが伝わったのか、陛下は難しそうな顔をして腕を組む
「・・・・・・・・・ようするに、僕たちの息がかかってない者たちと交流したいってことだよね?」
「・・・・・・・・・えっと・・・・・その、息がかかってないって言うか・・・・・・・」
陛下の言い方だと、ちょっと違うなって思う
「・・・・・・・・・わたし自身で、友だちとか知り合いとか作りたいんです」
陛下やレオンさんたちに与えられたコミュニティじゃなくて、わたし自身が友だちや知り合いを増やして、新しいコミュニティを作りたい
(じゃないと・・・・・・ルリさんたちみたいな人たちばっかりなのは)
ルリさんたちに不満があるわけじゃない
だけど、自分たちの不利益になることから、わたしを遠ざけようとする
(シスツィーアさんと仲良くなりたいって思っても、ルリさんたちがいたら自由に出来ない)
交友関係に口を出して欲しくない
結局、自分たちの都合のいいように、わたしを・・・・・・・・・・
「わたしは・・・・・・・・あなたたちの都合の良いように、使われたくないんです」
「・・・・・・・・・・・・・・」
陛下は何か思うところがあるのか、黙ってわたしを見つめるだけ
「与えられた知り合いや友人じゃなくて、自分自身で友だちはつくりたい。わたしが誰と交流したって、陛下たちにとやかく言われたくない・・・・・・・・わたし・・・・・・・・」
もっと、自由に過ごしたい
協力しないといけないなら、せめて
「この世界の人たちと『わたし自身』が関係を作って行かないと、じゃないと、協力、できない」
陛下はわたしをじっと見つめたまま
「兄上と」
「ダメです。レオンさんも・・・・・・」
秘密にするのは無理だと思う
だけど、せっかく仲良くなった人がいたとしても、レオンさんが気に入らなかったら?
レオンさんがなにか言うとは思いたくない
なにか言ってくるとも思えない
だけど、そんなことを考えながら、友だちを、知り合いを作りたくない
だから
「できるだけ、一人で、行動したいんです」
「・・・・・・・・・・・・・・」
陛下は顔を顰めて、黙ってなにか考え込みはじめ
どれくらい時間がたったのか分からない
「君の言いたいことは分かった。だけど、護衛なしというわけにはいかない。それは、許可できない」
「っ」
「だけど、城下町に出ることは許可する」
「え・・・・・・・・・」
言われた言葉が理解できなくて、ぱちぱちと瞼を瞬かせる
「護衛は付けることになるけど、一人だけ。それに、城下町に詳しい者にする。警護上必要なこと以外は、君の行動に口を出させない。それなら良いだろう?」
「・・・・・・・・・・・・」
唇を噛んで、俯く
たぶん、陛下は最大限の譲歩をしてくれてる
(それは分かるけど)
誰かそばにいたら、結局
「護衛からの報告も、最小限にする」
「えっ!?」
「それに、そいつが認めた場所なら、多少の単独行動も許す」
「でも!」
弾かれたように顔をあげる
ひとりで行動して、わたしになにかあったら
「君になにかあっても、そいつを処罰しない。約束する」
「あ・・・・・・」
真剣な瞳
(本気、なんだ)
わたしになにかあっても、護衛の人に責任はない
こくっと喉が鳴る
(どうして?)
どうしてそこまで
(わたしにばっかり、有利な)
陛下がなにを考えているのか、分からない
(なにか、言わないと)
でも、なにを言えば良いの?
黙ったまま、呆然と陛下を見つめる
(好きにしていいの?)
自由に行動していい
それなら
「ただし、条件がある」
急に気持ちがしぼむ
(そう、だよね)
そんな、わたしにだけ都合の良い話、あるわけない
「まずはひとつめ、君の身に危険が迫ったときは、護衛の指示に必ず従うこと。君の身の安全が最優先だし、指示に従わないことで護衛に余計な負担、掛けさせないで」
こく
これは理解できるから頷く
陛下はちょっと肩から力を抜いて
「ふたつめ、なにかちょっとでも気になったことや、なにかあったりしたら、必ず話して。勝手に自分で考えて、相談もなしに行動しないこと」
これも、陛下たちに迷惑かけたいわけじゃないから、頷きたいけど
「その代わり、君がなにをしようと、君自身に害が及ばない限り、口は出さない」
「っ!?」
「言ったろ?報告も最小限って。もちろん、君もいちいち報告する必要ないから。なにか気になることがあったり、話した方が良いって思ったことだけで良いよ」
「!?」
驚きのあまり、声が出ない
「みっつめ・・・・・・これは、必ず守ってもらう」
ふっと、陛下の顔が曇って
「黙って居なくならないで」
「え?」
「君にとっては不本意でも、ここが、君の家だから」
「あ」
「必ず、帰ってきて・・・・・・それが、条件だ」
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