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馬車のなかで

リオリースがアランから『篠崎 優愛を召喚するための儀式を行う』と聞いたのは、アランが即位すると決まってすぐのころ


詳しいことは話してくれなかったけれど、反対しても強行することは目に見えていたから「わかった」とだけ答えた。


まだ12歳のリオリースにできることなど限られていたし、いつ行うのかも未定だった。


ただ、そのために婚約者は保留としておくように頼まれ、当時の国王である父の許可を得ていると言われたから了承した。


それに、リオリースのなかにも『ツィーア姉さまともう一度会いたい』との想いもあったから



(また会って、今度こそレオン兄上と幸せになって欲しいな)



そんな想いを秘めて、その日を楽しみにしていた




はじめて優愛に会った日



優愛がどんな反応をするか、内心ではドキドキしながら茶会に望んだ


残念ながら、リオリースを見ても優愛はなにも思いださなかったけれど


リオリースが知っている『ゆあ』とは、姿かたちも全く似ていないけど


(ツィーア姉さま)


優愛の纏う雰囲気に、リオリースのなかに懐かしさがこみ上げた



「はじめまして。リオリース・リオン・フォーレストです」



はじめて会う優愛は、茶色っぽい瞳と小さな唇の可愛らしい女性


小柄で華奢な身体つきと心細そうにしながらもなにかと周りに気を使って、会話にしても動作にしても、ひとつひとつ迷惑かけないように慎重に行うところが『ツィーア姉さま』を思い出させて、また懐かしくなった






『優愛は何も覚えていない』



兄たちから繰り返し言われていたからこそ初対面のふりができたし、優愛も警戒せずにすぐに打ち解けてくれたと思う。



夏季休暇のあいだ、王城にいては会いたくなるからと、予てから決めていた通りに友人たちと夏を満喫したことも良かったのだろう。


戻ってきたころには、自分のなかで『ゆあ』と『優愛』は別人だと整理することができた。




兄たちから、優愛も学園に通うことになったと言われたときは


「同じクラスへ編入するから、しっかり面倒見て」


「優愛に学園生活を楽しんでもらいたいんだ。力になってやってくれ」



アリシアとカティアもいるから一抹の不安が頭を過ぎったけれど、優愛が過ごしやすくするための協力を惜しむつもりは全くなかった。



リオリースが不在の間にレオリードと優愛の距離が縮まったと聞いたときは、少しだけ胸がざわついたけれど


(あのときのレオン兄上、もう見たくない)


『ゆあ』がいなくなって『シスツィーア』が戻ってきたときのレオリードは、痛々しくて今にも倒れそうなのに、それでも懸命に堪えてシスツィーアに尽くしていた


姿を覚えているからこそ、レオリードがとても嬉しそうであんなに幸せそうに笑うから、純粋にリオリースも今度こそ幸せになって欲しいと心から思えた





それなのに






「罪滅ぼし・・・・・・いや、それより・・・・・・ど・・・・・ういう、こと?「代り」って」

「え?レオンさんがわたしに親切なのって、いなくなった恋人の代わりでしょう?」


優愛が首を傾げて言った内容に、驚きで言葉がでなかった。


「だ・・・・・誰が、言ったの?そんなこと」

「え?・・・・名前とか知らないけど、王宮に来ていた女の人。なんか、いろいろ言われたけど、結局のところ、レオンさんにはいなくなった恋人がいて『あなたはその方の代わりに優しくされてるだけ』って言われて。その人にしてあげたかったこととか、わたしがここに呼ばれたことへの罪悪感とかがごっちゃになって、あんなに親切なんだなって」


(なんだよそれ!?)


なにも知らないくせに、勝手なことを!


レオリードの妻の座を狙っていた者が、優愛の存在を疎ましく思って言ったのだろうと想像は付く


その女性への怒りが込み上げるが、だけど、そのことに傷つくことなく受け入れるのは


(なんか、納得してない!?)


「優愛は、それ嫌じゃないの!?」

「んー。あんまり?それより、親切にしてくれる理由が分かってほっとしたかな。じゃないと、他に理由があるかもって疑っちゃうし」


あっさりと言われ、リオリースは絶句する。


(え!?伝わってない!?)


レオリードが優愛をなによりも大切にしていて、優愛が過ごしやすいように、負担にならないようにしていることくらい、リオリースだって知っている。


「レオン兄上が優愛のこと気に入って親切って、考えないの?」

「だって、会ってすぐから親切にしてくれてたよ?最初は何か思惑があって親切にしてくれるのかと思ったけど、レオンさん良い人だし。だから、わたしをここに呼んだ罪悪感とかから親切なのかなって」

「・・・・優愛は、レオン兄上のことどう思ってるの?」

「え・・・?親切な人?」

「恋愛的な意味では?」

「・・・・・・なんでそんなこと聞くの?」


警戒するように声が固くなり、眉を顰める優愛


「リオンも、わたしとレオンさんをくっつけたいの?」

「どういう意味?」


今度はリオンが首を傾げる番だ。


「陛下から言われたの。『兄上と結婚して』って。だからレオンさんはわたしに親切なの?」

「なにそれ!?」


ぶんぶんと思い切り手を振る。


(え!?もうその話してるの!?)


優愛がレオリードに好意を持つ前からそんな話をしているとは思わず、リオリースは頭を抱えたくなる。


「いつ聞いたの!?」

「この世界に来て最初の頃。だけど、レオンさんは『俺との婚姻は考えなくていい』って言ってくれたから・・・・・やっぱ、それ建前?」

「え・・・・・いや・・・・・・・」


(って、どうしてこんな事態になってんの!?)


レオリードが「婚姻を考えなくて良い」なんて言ったことに、さらに頭を抱えたくなって


「わたしと結婚することで、レオンさんにはどんなメリット・・・・・・・利益があるの?」



真剣な顔で問い詰める優愛


リオンは答えられず青くなる。


たしかに、アランの中では二人が結婚することが決定事項だが、レオリードはともかく優愛が頷くかは別のことだ。


そして、リオリースが迂闊なことを言って、さらに優愛とレオリードの仲が拗れたら・・・・・・・・


(考えたくない)


レオリードは今度こそ、壊れるかも知れない


ゾッと背筋が冷たくなって、心臓がバクバク鳴って


リオリースにできることなど、余計なことをしないことしかない


だから


「・・・・・兄上に聞いてみるよ」



それだけ言うので、精一杯だった


最後までお読みいただき、ありがとうございます

次話は12月12日投稿予定です。

お楽しみいただけると幸いです。

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