学園初日 ②
「疲れたー!!」
午前中のふたつの授業が終わり、昼食のために王族専用の食堂へ移動する
学園では身分ごとに食堂が分かれていて、高位貴族用の食堂の二階が王族専用のお部屋
ここへは王族と王族に招かれた人以外は来ることができないって言われて、お行儀悪いけど机に突っ伏した。
「お疲れ。ずいぶん疲れてるね」
「うん。疲れた。座って授業受けるだけなのに、なんでこんなに疲れるんだろうね」
「知らない人たちに囲まれてるし、授業にだってついていくのに必死だから疲れて当然だよ」
リオンが笑いながら向かい側に座ると、給仕の人がすかさずサラダとスープを持って来てくれて、さすがに身体を起こす
「ま、初日だし仕方ないよね。ね、アリシアさまたちと話すときって、リオンなんだか王族って感じだね。わたしと話すときとは違う気がする」
「そりゃあね。一応、足元すくわれないように威厳のある姿も見せないと」
「王族って大変だね。いただきまーす」
運ばれてきたお料理は、日替わりランチ
王宮から料理を運ぶことも出来るって言われたけど、せっかくなら食堂で出されているものを食べてみたいってお願いしておいたのだ。
食堂のメニューはどの食堂でも共通で、日替わりランチの中身もほとんど同じって、給仕さんが説明してくれる。ほとんどっていうのは、高位貴族にはデザートと食後のお茶がつくから
もっとも、その分お値段は高位貴族が一番高くて、下位貴族や庶民には優しい設定だとか
まだ、食べながら話が出来るほど食事の作法に自信がないから、音を立てないように気を付けて黙々と食べる。
リオンもわたしにあわせて黙って食べるから、シンとした部屋に食器とかの音だけが響いて、なんだかかえって緊張してしまう
だけど、話しかけようにもどんな話題が良いか思い浮かばなくて
(聞いてみたいことはあるけど、聞いて良いのか分からないし)
日本の友だちになら気軽に聞けることでも、ここでは大丈夫なのか分からないから難しい
あっという間に料理を食べ終わって、紅茶と小さいサイズのデザートが出される。
こちらもすぐに食べ終わって
「ごちそうさまでした」
無事に食事を終えると、ふーっと肩から力を抜く
食べるときくらい自由にしたいけど『食事時間も作法のお勉強と思いましょうね』と言われているし、まだ合格をもらってないから気が抜けないし、なにより、食べ方が綺麗なリオンと一緒だと「リオンが嫌な思いように気をつけないと」って、余計に緊張してしまう
「そんなに気を使わなくて良いのに。綺麗な食べ方だよ?」
「ありがと」
まだお昼休みは十分あるから、リオンとふたりお茶のお代わりをゆっくり飲む
(やっぱり聞いてみようかな)
給仕の人はお茶を置くと「ご用があればお呼びください」って部屋を出て行ったし、王宮だとルリさんたちの目があるから聞きにくいことでも、ここならリオンとふたりっきりだから気にする必要がない
「ね、リオン」
「なに?」
「・・・・・・・・ん、あのね」
コンコンコン
思い切って尋ねようとしたとき、扉がノックされる
「誰だ?」
リオンが首を傾げながらも「入れ」と声を張ると、静かに扉が開かれて
「アリシア?」
アリシアさまが綺麗な礼をしたまま、扉の外にいる
「顔を上げてくれ。どうかしたのか?」
「よろしければ、優愛さまに校内をご案内しようかと。殿下は生徒会がおありでしょう?」
「いや、今日はレグリスに任せている」
「まぁ」
(レグリス?えっと、たしか侯爵家のひとだっけ?)
レグリス・グレッツアさんは侯爵家の次男で、リオンと同じく生徒会をしているとさっき紹介してもらったことを思い出す。
アリシアさまは軽く目を見開いて、ほんの少しだけ機嫌を損ねたような顔をしたけれど、すぐににこりと微笑む。
「申し訳ありません。余計なことをいたしましたわ」
「いや、優愛を気にかけてくれたんだろう?感謝する」
リオンの言葉に、アリシアさまはまたにこりとする
(うん。まさか、気にかけてくれるなんて思わなかった)
教室ではリオンがいるからああ言ってくれただけで、わたしのことは気に入らないよねって思ってたから、アリシアさまが校内を案内してくれるって言ってくれたことに驚いた。
(なんとなく苦手だなって思うけど、よく知りもしないうちからこんなこと思うのは失礼だよね?)
わざわざお昼休みに誘いに来てくれたのに断るなんて、申し訳ない
教室で向けられたような圧のある笑顔は怖いけれど、できれば仲良くしたいし、せっかくアリシアさまがきっかけを作ってくれたのだからお願いしよう
「えっと・・・・・良かったら、お願いしても良いですか?」
「もちろんですわ」
「オレも一緒に行く」
リオンがちらっと視線を向けて来るけど、「大丈夫だよ」って意味を込めて笑って
「ありがとう。よろしくお願いします」
アリシアさまにも笑いかけた。
「初日、どうだった?」
「疲れた!けど、やっぱ学校って良いね」
午後からの授業を終え、リオンと一緒に馬車に乗っての帰り道
んーっと肩から力を抜くと、リオンがクスクスと笑う
「お勉強はともかく、これならなんとか通えそう。アリシアさまも意外と親切だったし」
「ああ。まぁ、ね」
アリシアさまはわたしが困らないように学園の見取り図を用意してくれていたし、指で差しながら案内もしてくれた
おかげでとっても分かりやすくて
だけど、リオンはなんだか苦虫を嚙み潰したような複雑な顔をしている。
「なに?アリシアさまと仲良くないの?」
「ん?どうだろ?」
リオンがにこって笑うけど、誤魔化すための笑いだって誰だって分かる。
「「どうだろ?」って、婚約者だよね?」
「「候補」だよ。カティアも同じく「候補」」
「カティアさまとは仲良さそうだよ?」
「そう?同じように接してると思うけど」
リオンは苦笑するだけで、はっきりとしたことは言わない
(それって、そう言うことだよね)
「・・・・・・・・・やっぱり、好きじゃない人と結婚なんて嫌だよね」
「え?」
リオンがきょとんとした顔をする
「誰だって、好きじゃない人と結婚なんて嫌だよねって、そう言ったの」
「え!?」
「違う?」
リオンを見上げると、なんだか焦ったような顔をしていて
「いや、オレたちは仕方ないって言うか、そんなこと言える立場じゃないって言うか」
「そうだよね。王族だもんね」
くすっと笑いが零れる。
『・・・・・・アランはこの国の王だもの。あなたが協力してくれるなら、結婚するわ。わたしも受け入れて』
(あれは、シスツィーアさんの本心というよりこの世界の常識)
きっと王族は政略結婚が常識で、そこにあるのは『この国にとって利益があるか』
だけど、そう考えると陛下の行動は矛盾している
だから
「ね、リオンは好きな人いないの?」
「えぇ!?」
ガツッ!!
リオンが勢いよく立ち上がると、天井に思い切り頭をぶつける
「っ・・・・・てぇ」
「大丈夫?」
「だい・・・・・じょうぶ。だけど、急にどうしたの?」
「ん?陛下とシスツィーアさん見てたら、結婚は好きな人とするのが一番だよねって思ったの」
「ああ。あのふたりはね。だけど、アラン兄上たちは」
リオンがほっとしたように肩の力を抜いて、陛下たちのことを話そうとするのを遮る
「うん。理由はレオンさんから聞いた。だけど、だからって代わりに好きでもない人と結婚するのって、なんか違うと思うんだよね」
「はぁ!?え?代り?え、いったいどう言うこと!?」
リオンはさっきよりも焦った様子を見せる
「それに、『好きな人の代わり』にされる方だって苦痛だし」
「ち、ちょっと待って!え!?どういうこと!?」
リオンはまた立ち上がりかけて、天井に頭をぶつけたことを思い出したのか、すぐに腰を下ろして
「ちゃんと話してくれる?」
「陛下がシスツィーアさんと結婚できるように、レオンさんはわたしと結婚しようとしている・・・・・ちがう?」
「はぁ!?」
「もしくは、えっと、罪滅ぼし?」
「はぁぁぁ!?」
リオンはさらに驚いたのか、口を開けて固まった。
最後までお読みいただき、ありがとうございます
次話は12月10日投稿予定です。
お楽しみいただけると幸いです。




