お茶会のあと
「それでね、スプーンですくったらしゃりしゃりしてて、氷みたいに冷たくて、それなのに口のなかですぐに溶けてしまうのよ」
「へぇ」
「優愛が考えてくれたお菓子なんですって!甘酸っぱくてね、とっても美味しかったの。ほかにもね、優愛が好きなお菓子をたくさん用意してくれて」
優愛と別れたあと
シスツィーアは迎えに来ていたアランとともに、アランの部屋へと戻っていた
「そう。良かったね」
「ええ!優愛のお菓子はどれも美味しくてね。アランにも食べさせてあげたかったわ」
先日とは、打って変わって楽しそうなシスツィーア
並んでソファに座って、優愛が用意してくれたお菓子やどんな話をしたのか、とめどなく話し続ける
頬は上気して薄っすらと赤く染まり、瞳はキラキラと輝いて
いつもはアランの話を聞くことが多いのに、珍しく興奮しているシスツィーアにアランも笑みを浮かべて頷く。
(良かった。今日はおかしなことはなかったみたいだ)
優愛から届けられた招待状に『これから仲良くして欲しい』と書かれていたし、「大丈夫だ」と思いながらもレオリードにこっそり確認もした。
『優愛はシスツィーアに酷いことを言ったと後悔していた。できれば、招待に応じて欲しい』
レオリードからも頼まれ、シスツィーアは最初から応じるつもりのようだったから、アランは渋々ながら受け入れた
それでも、シスツィーアがまた傷ついたらとの不安がつきまとって
優愛の部屋の前までシスツィーアを送っていき、メイドたちに命じて茶会が終わりそうになったら連絡させて、迎えにも行った
優愛との茶会で傷ついたシスツィーアが、アランとの部屋ではなくシスツィーアの部屋に戻ってしまうのが嫌だったのだ
けれど、それは全て杞憂に終わった
「お茶もお菓子もたくさん食べたから」と、シスツィーアがアランの分だけお茶を淹れようとするのをとめて、アランは話が終わるまで無理をしていないか、シスツィーアの表情をじっと確認して
シスツィーアは「謝罪してくれるなんて、そんな必要ないのに」と、その話のときだけ顔を曇らせたけれど、あとはずっと弾けるほどの笑顔
無理をしている様子はなく、アランはほっと胸を撫でおろした。
「また、優愛と茶会したい?」
「ふふっ。それがね、優愛から「またお茶会しましょう」って誘ってもらえたのよ!」
「良かったね」
「ええ!」
嬉しさのあまり、ぎゅっとアランに抱きつくシスツィーア
アランもシスツィーアを抱きしめ返して
(優愛のことちょっと見直したかも)
どんな心境の変化があったのかは分からないけれど、自分の非を認めて謝罪するのは勇気がいる。
まして、優愛にはアランたちを怒る理由があるのだから、シスツィーアに酷いことを言っても「自業自得でしょう」と突っぱねることだってできた。
遠からずアランはまた優愛と会うつもりだったけれど、そのときにシスツィーアへ言ったことに触れるつもりはなかったから、優愛もわざわざ謝罪なんてしなくて、しれっと何ごともなかったように振る舞うことだってできた
(そういうとこ、やっぱ『ゆあ』だよね)
姿は違っても『優愛』は『ゆあ』だねと、アランが微笑ましく思ったとき
「ふふ。優愛とはんぶんこして食べたケーキ、とっても美味しかったわ」
「え?」
「優愛ったらわたしに勧めるばっかりで、ぜんぜん食べようとしないんですもの。アランみたい」
シスツィーアは懐かしく思いながら、くすくすと笑う
「でも、はんぶんこのおかげで、優愛とも仲良くなれたわ」
「アランのときと同じね」とアランを見上げると、すぐにハッとしてアランから離れる
「そうだわ!優愛、明日から学園に通うって言ってたの。どうして教えてくれなかったの?」
「・・・・・・・そうだっけ?」
シスツィーアが少し怒ったように言うと、アランは興味なさそうに首を傾げる
(たしか・・・・・・・・あ、そんな話したっけ)
お茶会が終わるとの連絡がなかなか来なくて、アランがやきもきしながら待っているあいだ、騎士団長が警護計画を持って来たことを思い出す
「そんな忙しい日じゃなくて、別の日で良かったのよ?優愛に負担掛けちゃったわ」
「優愛が決めたんだから、ツィーアが気にする必要ないよ」
「でも!支度とかあるはずよ?」
学園に通った記憶のないシスツィーアは、たまに出席する夜会や茶会みたいに、前もっての準備や支度が大変だと思い込んでいて
「優愛、大丈夫かしら?」
「その辺りはメイドたちがするだろ。それより」
「え?・・・・・・・きゃ!」
ふわりとシスツィーアの身体を持ち上げると、アランは自分の膝の上にシスツィーアを座らせる
いつもはシスツィーアがアランを見上げるけど、アランの膝の上だからシスツィーアがアランに見上げられてる状態
シスツィーアがびっくりしてアランを見下ろすと、なんだかアランは面白くなさそう
「なんで優愛とはんぶんこしたのさ?」
「え?」
「ツィーアとはんぶんこして良いのは、僕だけだろ」
ぱちぱちと目を瞬かせシスツィーアがアランを見下ろすと、アランは口をとがらせている
「どうしたの、アラン?」
「ん」
アランとシスツィーアが「はんぶんこ」するようになったのは、『シスツィーア』が目覚めてから
アランはシスツィーアが食べるのを眺めるだけで、一緒に食べることはしなかった。
『美味しそうに食べるツィーアを、見るだけで良いよ』
シスツィーアにそう言ったのは嘘じゃなく、最初は5歳の記憶しかないシスツィーアと一緒に食べる気にはならなかったし、だんだんと幸せそうに食べる姿を見ているだけで、アランは満足するようになったから
だけど、シスツィーアは違っていたようで
シスツィーアが「一緒に食べよう?」と、「はんぶんこね!」とアランにお菓子を分けたのが、ふたりで食べるようになったはじまり
アランはひとつのものを「はんぶんこ」して、誰かと分け合ったのははじめてだったし、一人でひとつ食べるよりも美味しく感じて、心がほわんとしてくすぐったくて
だから、アランにとって「はんぶんこ」は特別なことなのに
「ごめんなさい」
「ん」
「お行儀悪いわよね」
しゅんとしたシスツィーアに、アランはがくっと肩を落とす
「そうじゃなくて、ツィーアとはんぶんこしていいのは、僕だけ。約束したよね?」
「え?・・・・・・あ!」
思い出したのか、シスツィーアはまたしゅんとし肩を落として
「ごめんなさい、アラン」
「良いよ」
その様子がまた可愛くて、アランはシスツィーアをぎゅっと抱きしめる
「もうしないわ」
「ん」
少し寂しそうなシスツィーア
アランは心がちくっとしながらも頷いた。
最後までお読み下さり、ありがとうございます。
次話もお楽しみいただければ幸いです。




