シスツィーアさんとのお茶会
「ねぇ、このお菓子いただいても良いかしら?初めて見るの」
「あ!わたしが日本で食べてたお菓子です。シスツィーアさんにも気に入ってもらえるかなって、作ってもらいました」
シスツィーアさんが目を止めているのは、ベリーとヨーグルトで作ってもらったシャーベットっぽいもの
レオンさんに教えてもらったシスツィーアさんの好きなお茶やお菓子は、わたしが好きだなって思ったものとほとんど同じで、だったら、きっと気に入ってもらえるかなって作ってもらったのだ
この世界で食べたお菓子は、クッキーやフィナンシェとかの焼き菓子がほとんど。
カヌレを作ってもらったときにオーブンは見たことあったけど、冷蔵と冷凍の技術もあるって、レオンさんに教えてもらった。
(たしかに、パウンドケーキに生クリーム添えてあったっけ?)
冷たいアイスティーに氷が入っていたことも思い出して、考えが及んでなかったことが恥ずかしくて
ただ、冷凍したお菓子はこれまで作られたことがなかったらしいから、パティシエさんに作り方を教えて、試しに作ってもらった
ちゃんとわたしが知ってるお菓子になって、さらに何回か試作してもらって、家で食べてたものより美味しくできた物を今日は出している。
ちなみに、冷凍されたものも冷たいものも、作られた時の状態で保管できる魔道具があるから、お茶会の時は最初からお菓子とか全部テーブルに並べておいて、目にとまったものを好きに食べてもらうのが王宮の流儀なんだとか
他にもいくつか新しいお菓子を作ってもらって、食べやすい一口サイズで置いてある。
もちろん、口に合わなかったことも考えて、シスツィーアさんの好きなお菓子もちゃんと用意して
シスツィーアさんは瞳をキラキラさせて、シャーベットもどきをスプーンですくって口に入れると、目を丸くして歓声を上げてくれる。
「おいしいわ!」
「気に入ってもらえてよかったです。こっちはどうですか?」
勧めたのは、はちみつとレモンを使ったマドレーヌ
「こっちもおいしいわ!優愛が作ってくれたの?」
「えっと、ホントはそうしたかったんですけど、それはダメって言われて。代わりにたくさん試食して、わたしが食べてた味より美味しくなりました!」
試食のし過ぎで、しばらくは食べなくて良いって思ったくらいだけど、こんなに喜んでもらえて嬉しくて
全種類食べてもらう勢いで、どんどん勧める
シスツィーアさんの所作は優雅で、レオンさんと同じで流れるようにカトラリーを動かすし、音もほとんどしない。
うっかりと見とれていたら、不思議そうな顔をして
「優愛も食べましょう?はんぶんこ、ね?」
そう言って、ピルシュのショートケーキをナイフとフォークで綺麗に切り分けて、わたしへ半分取り分けてお皿を渡してくれる。
残った半分を自分のお皿へ取り分けて、美味しそうに食べるシスツィーアさん
それが自然な動作で、たぶん陛下ともしてるなって分かった。
それがなんだか微笑ましくて、陛下とのなれ初めを聞いてみたら頬を真っ赤に染めて
「・・・いつの間にか・・・だから、その・・・えっと・・・・」
「気が付いたら、好きだったってことですか?」
「えっと・・・・・離れたくないなって・・・・・だから」
もじもじしながら、しどろもどろになって教えてくれる様子が、とっても可愛らしくて
他にも質問すると、シスツィーアさんはにこにこと答えてくれる。
陛下と同じお部屋で暮らしていることや、お部屋で過ごすことが多く、だいたい刺繍と読書をしていること
「ごめんね、わたしあまりお部屋から出ないから、話題がなくて」
そう言いながらも、陛下とお出かけしたときの話をしてくれた。
陛下の話をするシスツィーアさんは『恋する乙女』って感じでとっても幸せそうで、お部屋から出ないのも、陛下が出したがらないのかもって勘繰ってしまう。
それに、今日のお土産のハンカチの刺繍はシスツィーアさんがしてくれたって聞いて
「えっ!?お針子さんがしてくれたんじゃないんですか!?」
「えっと、お針子はもっと上手よ?ごめんね、わたしの手作りで」
「すごい!あんなに上手にできて羨ましいです!」
申し訳なさそうに言うシスツィーアさんに、手をぶんぶん振る。
改めて見たけれど、ぜんぜん布がよってないし綺麗に刺してあって、お針子さんみたいに上手だ。
わたしも教えてもらっているけれど、こんなに綺麗に刺せないし、柄なんて見本とはかけ離れたものになるのに
「優愛は随分とこの世界に慣れたのね。招待状も優愛が書いてくれたのでしょう?」
「まだ上手には書けませんけど、一応」
「そんなことないわ!とっても綺麗な字よ」
「まだあやふやな字があるんですよね。せめて学校、あ!学園で使う字くらいは読み書きできないと」
「そうね。十分覚えが早いと思うけれど・・・・・そうだわ!優愛は図書館へは行かないの?」
「ときどき課題するために行ってますよ」
「お勉強も大切だけど、物語を借りて読んだらどうかしら?きっと楽しめるわ」
「そう言えば、この世界に来てから教科書的なもの以外は見てないです。なにかおススメありますか?」
「『恋の物語』かしら?出てくる男性が情熱的で素敵でね」
「陛下みたいに?」
「・・・・・・・・・アランの方が素敵だもの」
うっとりとした顔になったシスツィーアさんをちょっと揶揄ってみただけなのに、顔を真っ赤にして泣きそうになりながら言われて
(ヤバい、可愛らしい!)
時間はあっという間に過ぎて、気が付いたら日が傾きはじめている
そろそろ解散かぁって寂しくなったら
「優愛は、もうすぐ学園に通うのでしょう?」
「えっと、明日からです」
「え!?そんな忙しいときに誘ってくれたの?ごめんなさい。全然知らなくて」
驚いたあとにしょんぼりするシスツィーアさんに、慌てて手を振る
「招待したのはわたしですよ!シスツィーアさんは来てくれただけですから、気にしないでください!」
「ううん。ちゃんと気を付けておくべきだったわ。ごめんなさい。きっとお友達もたくさんできるわ。楽しんで通ってね」
そう言うシスツィーアさんは、笑顔だけどなんだか寂しそうに見えて
彼女もわたしと同じで、もっとお話ししたいって思ってくれてるのかな?
「また一緒にお茶してくれますか?」
「えっ!?いいの!?」
「はい。シスツィーアさんとお茶するの楽しいし。他にもわたしの知ってるお菓子、食べてもらいたいです」
思い切って聞いてみたら、驚いた顔をしたあとに嬉しそうに笑ってくれた。
最後までお読み下さり、ありがとうございます。
次話もお楽しみいただければ幸いです。




