シスツィーアさんへの謝罪
「今日はお招きありがとう、優愛」
「お越しくださり、ありがとうございます」
リオンと会った数日後の今日は、シスツィーアさんを招いてのお茶会の日
シスツィーアさんは、時間ぴったりに来てくれた
レオンさんからシスツィーアさんたちのことを聞いたあの日
「レオンさん、わたし、シスツィーアさんに、一度きちんと謝りたいです」
無理やり涙をとめて、しゃくり上げながら言うと、レオンさんは優しく笑って
「そうだな。俺にしてくれたように、優愛から茶会に招待してはどうだろうか?これから仲良くなりたいと、招待状に添えて」
そう提案してくれた
(さすがに学園に通う前日は無茶だって、反対されるかと思ったけど)
学園に通い始めたら、シスツィーアさんと会う時間ができるかなんてわからない。
シスツィーアさんには少しでも早く謝りたかったけど、マナーとしてはお茶会当日の10日前に招待状を送ると教わっていたから、あまりにも急に招待しては、シスツィーアさんに失礼になりそう
それに、ルリさんたちのこともある
(理由はわからないけど、もやもやしたくない)
ルリさんたちに気を使って、自分を押し込めたくない
だけど、ルリさんたちを怒らせたら、これから先やりにくくなる
そんなことをぐるぐると頭のなかで考えていると、レオンさんはなにを思ったのか
「一人で会うのが気まずいなら、俺と優愛でシスツィーアを招待するのはどうだ?」
「え?」
気遣わし気なレオンさん
(わたしがシスツィーアさんに酷いこと言ったっていったから、気にしてくれてるんだ)
ほわんと心があったかくなるけど、「ごめんなさい」って謝るときにまでレオンさんにいてもらうなんて、子どもみたいで情けない
(それに、レオンさんも一緒だって知れたら陛下だって来るだろうし)
陛下には、シスツィーアさんに謝るときにいて欲しくない
その気持ちは陛下の過去を聞いても、不思議と揺らがなくて
「えっと、お茶会するのはシスツィーアさんと二人で大丈夫です。だけど、準備は手伝ってもらって良いですか?シスツィーアさんの好きな物とか、教えて欲しいです」
そうお願いすると、レオンさんは笑って引き受けてくれた。
(リオンとのお茶会とか学園に通う準備で、ものすごく慌ただしかったけど)
レオンさんに今日お茶会することは反対されなかったけど、ルリさんたちはレオンさんの手前なにも言わないけど、ちょっと顔を顰めていた。
それに、シスツィーアさんに食べて欲しいお菓子を用意するために、パティシエさんにもずいぶん無理を言ったし
(これだけ迷惑かけてるんだもん。ちゃんと謝らないと!)
わたしは王族に対する礼をして、改めてシスツィーアさんをお迎えする。
シスツィーアさんは嬉しそうに、ふわっと微笑んで礼を返してくれて
椅子を勧めて、お茶をルリさんに淹れてもらっていると、シスツィーアさんが小さな包みを差し出してくれる。
「気に入ってもらえると良いのだけど」
「ありがとうございます。開けて良いですか?」
「ええ」
綺麗に包装された包みを開けてみると、可愛らしいベリーやウサギが刺繍されたハンカチ。
「わぁ!可愛い!ありがとうございます!」
「ふふっ。気に入ってもらえて良かったわ」
「大切に使いますね!」
「ええ」
にこにこと笑顔のシスツィーアさん。
(この間のこと、怒ってなさそう)
ほっとする
お茶がわたしとシスツィーアさんの前に置かれて、その後はルリさんたちには離れてもらってふたりきりに
「どうぞ」
「ありがとう。いただくわね」
シスツィーアさんが美味しそうにお茶を飲んで、カップを置いたタイミングで思いっきり頭を下げる。
「あのっ!この間は、八つ当たりして、すみませんでした!」
「えっ!?優愛!?」
「せっかく心配してくれたのに、酷いこと言っちゃって・・・・」
「頭を上げて!?そんなことされると、困るわ!」
がたんっ!と音が響いて、わたしの身体を上げるシスツィーアさん。
椅子を倒してわたしへ駆け寄り、顔をあげさせて
その時のシスツィーアさんの目は真剣で、いつものふわふわとした彼女からは、考えられない程で
「えっ?」
なんだろう?
怒ってる?
シスツィーアさんが・・・?
思わず息をのむ
わたし、怒らせた?
「優愛?あなたの怒りは、正当だわ。だから、謝る必要、ないわ」
ひとつひとつ区切るように言われて、圧倒されながら頷く。
怖いくらい真剣なシスツィーアさん。
けれど、わたしがこくこくと頷いたことで、いつものふわっとした笑顔に戻って
「ごめんね、優愛。きつい言い方してしまったわ。びっくりしてしまったの。わたしの方こそ、あなたを傷つけてしまってごめんなさい」
そう言って、頭を下げてくれる。
「えっ!?顔上げてください!」
「怒ってない?」
「怒ってません!」
思わず大きな声を出してしまう。
顔を上げて、嬉しそうに笑うシスツィーアさん。
さっきのは見間違い?
「良かった。優愛、怒ったかと思ったわ。謝罪してくれたのに、ごめんなさい」
「えっと、わたしもシスツィーアさん怒らせたかと」
「怒ってないわ。びっくりしてしまっただけよ」
「わたしもです」
良かった。
怒らせたんじゃなくて。
顔を上げたシスツィーアさんは、最初は「本当に?」と疑うようだったけど、すぐに嬉しそうな笑顔に変わって
(きっと、お互い謝罪されるとは思ってなくて、焦ったんだよね?)
ちょっと引っかかるところはあったけど、気にしないことにして、ふたりで椅子にまた座ると、今度はわたしがお茶を淹れる。
そんな様子を、きょろきょろと興味深そうに見ていたシスツィーアさん
なんだかちょっと可愛らしくて、思わずくすっと笑ってしまう
「なあに?おかしいことでもあった?」
「ううん。シスツィーアさん、可愛いなぁって」
きょとんとした顔でわたしを見てくるシスツィーアさんは、なんだか可愛らしい。
「そんなことないわ」って、少しだけむっとした表情も、可愛らしさを引き立てるだけで
「きっと、陛下はシスツィーアさんのこと、すっごく可愛いって思ってますね」
「優愛の方が可愛いわ。今日のドレスだってよく似合っているもの」
「ありがとうございます。これ、けっこう気に入ってるんです」
今日のお茶会用のドレスは、明るいグレイのすっきりタイプ。スカート部分があまり広がってなくて、どちらかと言えばワンピースに近くて、動きやすくてお気に入りだ。
シスツィーアさんは、水色のドレスでわたしと同じワンピースっぽい物。ドレスの色は陛下の瞳の色だなってすぐにわかった。
ホントはお茶会の服装にしては軽装すぎるって、ルリさんには渋い顔された。
けど、わたしに用意されたドレスを着るのは、やっぱり抵抗があって
レオンさんが「同じ王宮に住まう者同士だ。畏まる必要はないだろう」って言ってくれたから、今日は気軽な格好でってことになった。
最後までお読みいただき、ありがとうございます
次話は11月28日投稿予定です。
お楽しみいただけると幸いです。




