微かな嫌悪感
「よろしければ、明日の午後よりお見舞いに伺いたいと、レオリード殿下よりお申し出がありました。優愛さま、如何致しましょう?」
「えっと、レオリード殿下?」
目が覚めてから3日目のお昼ご飯を食べたあとに、ルリさんから言われて首を傾げる
(えっと、どこかで聞いた覚えが)
聞き覚えはあるけれど、まだぼんやりする頭でははっきりと思いだせなくて
『俺の名はレオリードだ。レオンと呼んで欲しい』
ふわっと優しい声が耳元に聞こえてきて
(あのときの男の人!)
藍色の瞳がとっても綺麗な、背の高い男の人
「レオンさんのことですか?」
「左様です」
ルリさんはほっとしたように頷く。
(あの人なら、説明してくれるかな)
ルリさんはご飯とかおフロとか、親身になってお世話してくれるけれど、なんでわたしが呼ばれたのか、肝心なことは教えてくれない。
『申し訳ありません。わたくしは詳しいことは存じませんので』
そんなことないと思うけど、困った様子で謝罪されて、それ以上は何も聞けずにいた。
「良いですよ」
わたしがそう言うと、ルリさんは更に言いにくそうにして
「それと、護衛騎士を1人同席させたいと。もちろん、優愛さまとレオリード殿下のお邪魔は致しません。ただ、優愛さまのお部屋に入るので、許可をいただきたいと」
「良いですよ?」
身分の高い人にSPが付くのは当然だし、別に構わないけど
(なんでいちいち気にするんだろう?)
あからさまにほっとした様子のルリさんに、なんだかかえって引っかかる。
そんなわたしに気が付いたのか、ルリさんは話題を変えるように明るく振る舞って
「お召し物は何に致しましょう?いくつかご用意してございますので、衣装部屋をご覧になりませんか?」
「えっと」
さすがに今着ているのはルームウェアっぽいから、ダメだとは分かるけれど
(・・・・・・・・嫌だな・・・・・・)
レオンさんは「レオリード殿下」と呼ばれていたから、身分は王族(?)とかなんだと思う。
この世界の服を着てレオンさんに会うなんて、この世界を受け入れたみたいで
「制服・・・・・・わたしが着ていた服で」
「ですが、あちらは」
珍しく、ルリさん以外のメイドさんが口を開く。
「しっ!慎みなさい!」
「構いません。何ですか?」
(きっと、気に入らないんだろうな)
レオンさんは高貴な身分だから、庶民の服では失礼だとか言われるんだろうなぁ
そんなことを思いながら、聞き返すと
「いえ。失言を致しました。申し訳ありません」
「言ってくれないと、レオンさんと会いませんよ」
ルリさんに叱られたからか、メイドさんは謝ってくれたけれど、それはダメ。
(この世界に無理やり馴染ませようって言ったって、そうはいかないんだから)
親切にしてくれるのは感謝しないといけないけれど、勝手に呼びつけたのはこの世界の人たちだ。
流されないようにしないと、うっかり心を許してしまったら、呼びつけられたことまで赦さないといけなくなる。
それに、影で色々言われるのも不愉快だし、はっきりした態度取っておかないと、舐められそうで
「・・・・・・その、別のご衣装を着た優愛さまを、レオリード殿下もご覧になりたいかと」
「わたしが何を着ていようと、レオンさんに関係あるんですか?」
「いえ・・・・・・・その・・・・・・」
わたしがここまで強気で聞き返すとは思っていなかったのか、メイドさんは視線を彷徨わせて
「申し訳ありません。その、この世界の、感覚では・・・・・・・・・」
しどろもどろになりながら、懸命に言い訳しているメイドさん。
(つまり、レオンさんを喜ばせるために、この世界の服を着ろってことよね?)
なんだか、むかむかしてきて、黙ったままメイドさんの言い訳を聞き流す。
むすっとした態度になったからか、メイドさんは真っ青になって黙ってしまったし、わたしも話したくなくて黙っている。
「申し訳ありません。教育がなっておらす、優愛さまにはご不快な思いを。レオリード殿下は優愛さまのお目覚めを、殊の外案じておられました。どんなお召し物でもお喜びになると思います」
「・・・・・・・・・・・・・・」
ルリさんのフォローも、「この世界の衣装を着て欲しかったけど」と仕方ないと思っているように聞こえて、フォローとは思えなくて
(・・・・・嫌だな・・・・・・・・・)
自分が望んだわけじゃないのに
この人たちは自分の世界の常識で、仕事しているだけなんだって
理解はできるけど
(レオンさんに、会いたくない)
せっかく心配して「お見舞いに」って、言ってくれてるのは分かるけれど
こんな不愉快な思いするくらいなら
(誰にも会いたくない)
そんな思いが、芽生えてしまった。
最後までお読み下さり、ありがとうございます。
次話もお楽しみいただければ幸いです。