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レオンさんの過ち ③

レオンさんは、わたしから目を逸らし


「アランに渡した『護符』・・・・・・・それはアランの魔力を・・・・・・俺へと流すものだった」

「え?」

「幼いアランの魔力が多かったことも、王妃さまの魔力が少なく、それによって、生まれてくる子どもの魔力量も少ないことを危惧した者たちによって、強制的に『女神の魔力』を与えられるよう画策されたんだ」


吐き出すように、それでいて、泣くのを堪えるような震える声


いつものレオンさんからは、想像できないその姿に、どれほどの後悔を抱えてきたのか伝わってくる。


ドクリドクリと、心臓からの嫌な音も止まらなくて


「どうして・・・・・・そんなこと・・・・・・」

「いまとなっては、彼の・・・・・・いや、彼らの真意は分からない。関わった者は皆、亡くなってしまったからな。だが、俺に教えてくれた『おまじない』。それが、アランの魔力を奪うものだと知ったのは、俺が18歳の時だった。弟は自分の意思に反して魔力を与えられ、そして必要以上に奪われ、生きるのが精いっぱいになったんだ。俺は、良いように使われ、知らないうちにアラン(おとうと)を、苦しめていた」


話してくれるレオンさんは、深い後悔や罪悪感で、今にも押し潰されそうに見えるけれど、レオンさんの話はまだ終わらない


「シスツィーアもそうだ。俺が行った『おまじない』のせいで、彼女の人生まで狂わせた。本当なら、アランは死んでいたかもしれない。けれど、シスツィーアが身体を張って助けてくれた。そのせいで、彼女には5歳から18歳までの記憶がないんだ」

「え・・・・?」

「それだけじゃない。彼女は記憶がない間に両親と決別せざるを得なかった。そして、記憶を失っている間のことで、貴族たちからも快く思われていない」


思いもよらなかった


(シスツィーアさんも、そんなつらい目にあってたなんて)


記憶がないことは聞いていた


けれど、そこにそんな理由があったなんて


(あんなに、幸せそうに微笑んでいるのは、きっとみんなから愛されているからだと思ってたのに)


鼻の奥がツンとして、じわっと涙が溢れてきて


「この国の貴族は、15歳になったら学園に通い卒業することになっている。君が今度から通うところだ。アランは寝たきりで、学園に通うことができなかった。かろうじて最終学年に通い卒業はできたが、それはアランの血の滲むような努力があったからだ。そしてシスツィーアは反対に、1年しか通えていない・・・・・・中退し、卒業できなかったんだ・・・・・俺のせいで。なのに、このことは緘口令が敷かれて、俺の罪は明るみにはなっていないばかりか、ふたりとも貴族たちからは『正式な貴族ではない』と軽んじられ・・・・・全部、俺のせいだ。だが、ふたりとも俺のことは責めない。俺も幼かったからと、利用されただけだからといって」


レオンさんは歯を食いしばると、絞りだすような声で


「あと一人、俺のせいで人生を狂わせた人がいる」

「その人は・・・・?」

「・・・・・・・・・・俺の前から、去っていった・・・・・黙って・・・・・・・死ぬかもしれない。そんな、苦渋の決断をさせたんだ」


いまにも泣きそうなレオンさん


両目は潤んでいるのに、泣くことを必死に耐えている姿に、わたしの胸がますます締め付けられて、苦しくなって


思わずレオンさんの握りしめられた手に、自分の手を重ねてぎゅっと握る。


「君のことも、だ。この国の・・・・・」

「もう、言わないでください」


いつのまにか、わたしは泣いていた。


ぽろぽろと零れる涙はそのままに、レオンさんの手をしっかりと握って


「この国に・・・・・・召喚されたのは、許せることじゃないけど、シスツィーアさんと陛下のことは理解、しましたから。それに!レオンさんが悪いわけじゃない。だから、」


これ以上、自分を傷つけないで欲しい


少しでもレオンさんを慰めたいと思うけれど、嗚咽がとまらなくて


ただ、ぎゅっとレオンさんの手を握りしめる。


(レオンさんのせいじゃない)


伝わって欲しくて、ぎゅっと手を握って


レオンさんの手が動いて、わたしの涙を拭ってくれるけど、涙は止まらなくて


「ありがとう。慰めてくれて」


何も言えなくて、無言で首を振る。


まだ、口を開くと泣きそうだったから


「俺の犯した罪は大きい。だが、アランとシスツィーアが赦してくれるから、二人の力になりたい。学園で、二人のうわさを聞くだろう。だが、二人がどんなふうに言われても惑わされないで欲しい。そう思って話したんだ」


涙と嗚咽が止まらないから、黙ったままこくこくと頷く。


陛下もシスツィーアさんも、ただ幸せなんだと思ってた。


人生全部上手くいって、なにも不満なんてなくて


だけど、違った。


八つ当たりじゃなくて、シスツィーアさんたちを蔑む人たちと同じように、追い詰めたんだって


(恥ずかしい・・・・・・)


つらいのは自分だけだって、シスツィーアさんの幸せを壊そうとした自分が恥ずかしくて


シスツィーアさんに申し訳なくて声をあげて泣きたくなるけど、泣く権利なんてないって、必死に泣き止もうとして


レオンさんはわたしの涙が落ち着くまで、そっと頭を撫でてくれた





最後までお読み下さり、ありがとうございます。

日増しに寒さが厳しくなって、冬の訪れを感じますね。

みなさま、お身体ご自愛くださいませ


次話もお楽しみいただければ幸いです。

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