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レオンさんの過ち ②

「優愛。よければ、少し聞いて欲しい話があるんだが」

「なんでしょう?」


ほっとしたら甘いものが欲しくなって、クッキーをひとつ摘んでお茶を飲んでいると、レオンさんが改まった口調で切り出す。


「本当なら、この話はもっとこの国・・・・俺たちの・・・・・・俺のことを知ってもらい、話すつもりだった。だが、同時に話すことに・・・・・・躊躇いもあった・・・・・それでも、学園に通い他の者から聞くよりも、俺から話しておきたいんだ」


真剣な表情で、少し硬い声で話すレオンさん


緊張しながらカップをソーサーに置く


思わずこくっと喉が鳴って


「大切な話、なんですね」

「ああ。この国・・・・・・いや、この世界に生きる者には『魔力』があり、そして『魔力』がないと生きられない。以前、アランが話したことは覚えているか?」

「はい。えっと、この国の人に『魔力がある』ことは、オルレン先生からも教わりました」


陛下が話してくれたことは、この国の建国神話になっていて「子ども向けの絵本にもなっていますから、読んでみて下さいね」って、オルレン先生に本をもらったのはつい昨日のこと


「けど、『魔力がないと生きられない』ことは、教えてもらえませんでした」


(あのとき陛下も、そのことは話してくれなかった)


もしかしたら陛下は、あのとき話してくれるつもりだったのかもしれないけど、わたしが冷静ではいられなかったし、オルレン先生は「いずれ折を見て、レオリード殿下がお話しくださるそうです」と言って、それ以上のことは教えてくれなかった。


「『魔力がないと生きていけない』。これだけなら、国民は誰しもが知っているが、その理由は明かされていない。国家機密になり、王族でも限られた者しか知ることが許されていないんだ」

「重要なことなんですね」

「ああ。オルレンはとある事情があって知っているが、「本来なら知る立場にないから、話すべきではない」と言って、時期を見て俺から話すことにしていた」


(わたしが『召喚』されたことと、きっと無関係じゃない)


思わす背筋を伸ばすと、レオンさんが少し苦笑して


「だが、今日はその話じゃないんだ」

「え?」

「その話は、君が俺たちに協力してくれると決めてくれたら話す。そう決めている」

「あ・・・・・・」


(聞いたらあとに引けなくなるから?)


聞いてしまったら、わたしが協力せざるを得なくなるから?


レオンさんの気遣いに、まだはっきりと答えていないことにチクリと心が痛む


そんなわたしに気付かずに、レオンさんはふっと視線を彷徨わせ


「君に知っておいて欲しいのは、アランとシスツィーアのこと」


意を決した顔で、まっすぐにわたしを見つめて


「そして・・・・・・・・俺の犯した過ち・・・・・・いや、罪、だな」

「え?」


ドクリと心臓が嫌な音を立てて跳ねる


また、喉がこくりと鳴って


静まりかえった部屋に、レオンさんの声だけが響く


「『魔力がないと生きていけない』・・・・・人が身に宿す魔力は、個人差はあれど、人を脅かすものではないもの。本来、俺たちの持つ魔力はそういうものだった・・・・・・・だが、アランは幼いころ魔力が多くてね。身体が耐えられずに、いつのころからかベッドで寝たきりだったんだ」


(寝たきり?)


尋ねることのできる雰囲気ではないけど、レオンさんの口振りから、それは異常なことだと伝わって


「当時、俺には婚約者がいてね。俺が『そばにいても、なにもしてやれない。だけど、どうにかしてやりたい』と、婚約者と彼女の父親、そして俺の母の前で零したんだ。苦しむアランを少しでも楽にしてやりたくて、助けたいと口をついて出た言葉だった」


レオンさんはテーブルの上で、いつの間にか両手を握りしめていて


「数日後、婚約者の父親から『おまじない』だと護符をもらった。『アランの負担を少しでも軽くするため』のものだと」


レオンさんの顔がだんだん歪んできて、この話がレオンさんにとって、話すことだけじゃなく、思いだすことさえ苦しいのだと


(・・・・・・・・・・)


わたしまで、苦しくなってきて


「それをアランに渡して、しばらくはアランの調子も良かったんだ。気休めの護符だが、アランがベッドから起きて、一緒に遊んだり学ぶようになって。俺も嬉しかった。だが、しばらくするとアランは、また寝たきりになった。今度は魔力が体内に留まれずに、魔力不足で動けなくなったんだ。それから17歳まで、生きるのがやっとだった・・・・・・『死にぞこないの王子』そんな呼び方をされて」

「そんな・・・・・」


一生懸命に生きていたのに、『死にぞこない』だなんて


自分の手が冷たくなるのが分かる


気を抜いたら震えそうになるのを、必死に抑えて


「アランと俺は母親が違う、いわゆる異母兄弟でね。父は結婚して3年子どもができずに、側妃を娶った。それが俺の母親だ。母も嫁いで2年は子どもができずにいたが、俺が生まれて・・・・・そして生まれた頃に、正妃さまの懐妊が分かった。正妃さまから生まれたのがアランだ。この国では『正妃に子どもができない時に、側妃の子どもが即位できる』そう決まっていて、だから継承権はアランにあった。だけど、アランは寝たきりで王になるのが難しい。だが、正妃の子である以上、継承権はアランにある。なかなか王太子が決まらない不安からか、「いっそ死んでくれればいい」・・・・・そう、貴族たちから言われて」

「酷い・・・・・」


どんな理由であれ死んで欲しいだなんて、あり得ない


きゅーっと胸が締め付けられる


「ああ。アランを取り巻く状況は残酷だった・・・・そして、その状況を作ったのが・・・・・・俺が渡した『護符』だったんだ」

「え?」


思いがけないレオンさんの告白に、「うそ」って言いそうになるのを飲み込む


(嘘じゃないんだ・・・・・・・・)


本当だから、レオンさんはこんなに苦しんでる


かける言葉が見つからなくて、ただ呆然とレオンさんを見つめるしかできなかった。

最後までお読み下さり、ありがとうございます。

次話もお楽しみいただければ幸いです。

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