レオンさんの過ち ①
その日、レオンさんが珍しくメイドさんたちに下がるように言って、お茶の時間に二人きりになった。
と言っても、レオンさんが連れてきてくれたガーデンルームはガラス張りだし、お庭側には護衛さんが、扉の外からはメイドさんが控えているから、会話が聞こえない距離には、だけど
「すまない。君に尋ねたいことがあって」
「なんですか?」
向かい合って座っていてもレオンさんは視線を落としているし、目の前にはお茶とお菓子が置かれているけれど、手を付ける雰囲気ではなくて
(珍しい、よね?)
迎えに来てくれた時から、レオンさんはどことなく硬い雰囲気でいつもと違っていたし、思いつめてるみたいでもある
レオンさんは顔を上げるとわたしを真っすぐに見つめて
「シスツィーアとなにかあったんだろうか?」
シスツィーアさんの名前が出て、どきっとすると顔にも出たみたいで、レオンさんが少しだけ顔を曇らせた。
「・・・・・・・・・・シスツィーアさんが、なにか言ったんですか?」
「いや、彼女はなにも言わない。ただ、君が俺以外と交流をしていないと聞いて。シスツィーアと、その、以前打ち解けたように思ったから」
「・・・・・・・・・」
そういえば、マナーとか習いたいと話した時、「打ち解けたんだな」って言われた気がする。
(レオンさんは、わたしとシスツィーアさんに仲良くして欲しかったってことだよね?それなら、ルリさんたちはどうして反対したの?)
レオンさんの方が立場が上なのに、ルリさんたちが従わずに反対したことも気になるけれど
(会っていいなら、わたしもシスツィーアさんに会いたい)
会って、ちゃんと謝りたい
ルリさんたちもいないし、思い切って聞いてみよう
ぎゅっとテーブルの下で手を握りしめて、バクバクする心臓を押さえて
「あの!わたし、シスツィーアさんと会ってもいいんでしょうか?」
「どういう意味だろうか?」
「えっと、わたしの気のせいかもしれないんですけど、シスツィーアさんに会わない方が良いのかなって思って」
「誰かに何か言われたのか?」
「いえ・・・・・・・そういうわけじゃ・・・・・・・」
レオンさんの目が鋭くなって、メイドさんたちをちらりと横目で見る。
このままじゃ、ルリさんたちが叱られる!
関係なくはないけど、はっきり言われたわけじゃないし、わたしだって結局はルリさんに強く「会いたい」って言わなかったから同罪だ。
「えっと・・・・・・・その、シスツィーアさん、怒ってないですか?」
「怒る?彼女が?」
本当は言いたくなかったけれど、ルリさんたちに迷惑かけるのも嫌だから、恐る恐る聞いてみる。
首を傾げるレオンさんは、シスツィーアさんとのことは本当に知らないみたい。
「えっと、陛下と初めてお会いした後、お話ししに来てくれたんですけれど、八つ当たりしちゃって・・・・・」
この世界に理由を陛下に聞いたあと、引きこもっているときにシスツィーアさんが会いに来てくれて、だけど頭の整理ができてなくて、散々八つ当たりしてしまったことを話す。
レオンさんは初耳だったらしく、驚いた顔をしていたが
「そうか・・・・・・そんなことが・・・・・」
「すみません、迷惑かけて」
「いや。優愛が謝ることじゃない。それに、シスツィーアが君に会いに来たのも、俺が頼んだからなんだ」
「え?」
レオンさんの思いがけない言葉に、目をしぱしぱさせる
「すまない。引きこもってしまった君のことがどうしても心配で、シスツィーアなら君も話しやすいのではないかと頼んだんだ」
「そうだったんですね」
シスツィーアさんと会うことを反対なら、どうしてあの日は良かったの?と不思議だったけど、これで納得できた。
(レオンさんからの頼みなら、誰も断れないよね)
ルリさんたちが反対する理由まではわからないけど、少なくともシスツィーアさんと会うことをレオンさんは反対してない
それが分かっただけで、少しだけ心が軽くなる。
だけど、シスツィーアさんだって頼まれただけなのに、わたしからさんざん八つ当たりされて、いい迷惑だったと思うと、また自己嫌悪で落ち込んで
「シスツィーアは君が来るのを楽しみにしていたし、仲よくしたいと言っていた。怒ることはないと思う」
「そうでしょうか?」
あのあと会えなかったのは、シスツィーアさんが『会いたくない』って言ったからなら?
今度はそんな不安が湧き上がったわたしだけど、レオンさんは安心させるように笑ってくれて
「ああ。心配は要らない」
レオンさんの言葉に安心したからか、ちょっとだけ泣きたくなった
最後までお読み下さり、ありがとうございます。
次話もお楽しみいただければ幸いです。




