表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
36/52

夕涼み

「優愛とのこと、言わなくて良かったの?」


夕食会のあと、アランはシスツィーアとすぐには部屋に戻らず、中庭にあるベンチに腰かけて夕涼みをしていた。


「ええ。レオリード殿下に心配かけるわけにはいかないわ」


シスツィーアは「黙っていてくれて、ありがとう」と笑う


優愛がシスツィーアに言った言葉は、アランだけしか知らない


シスツィーアがアランに話したことを「話さなければ良かった」と気にするから、アランも誰にも話していないのだ



「ツィーアがそれで良いなら良いけど」

「ええ。優愛が言ったことは、この世界に来た不安からよ。怒って当然だし、わたしは気にしてないわ。それに、優愛は一生懸命お勉強しているのに、余計なこと言って邪魔しちゃ悪いわ」

「それにしたって、兄上には何も言わないし、リオンとだってお茶会するのにさ」


アランとしては優愛の不安は理解できるし、懸命にこの世界に慣れようとしてくれているのも分かるけれど、ほんの少し時間を作って一言くらいシスツィーアに謝って欲しいのだ。


「ツィーアをお茶会に誘って謝ってくれたら、僕だってそれでよかったのに」

「ふふ。アランもお茶会に誘って欲しかったのね」

「ちが・・・・・わないけど・・・・・・」


クスクスと笑いながら口をとがらせるアランへ手を伸ばし、シスツィーアがアランの頭を撫でる。


アランとシスツィーア、レオリードと優愛


それぞれ想い合う者を伴って、楽しい時間を過ごす


アランはそんな日が来ることを、ずっと楽しみにしていたのだ


「今はわたしより、レオリード殿下との交流が優先でしょう?殿下、きっと優愛と新しい関係を築こうと一生懸命よ?」

「そうだけどさ」

「二人が幸せになれれば、一番良いじゃない。ね?」


このまま学園に通うようになれば、優愛はどんどん交流の場を広げていく。


同世代の令嬢たちと交流して、お友だちを作って


レオリードがいる手前、令息たちとは表立って親しくなれたくても、学園内で話すことだってあるだろう


シスツィーアのことなんて、きっとすぐに忘れてしまう


いや、さすがに忘れることはないだろうけれど、自分の立場を受け入れて生活が充実していくにつれて、気にすることはなくなる


そのことが、ほんの少し寂しいと感じる


けれど、それと同じくらい


(ほんとうは、もう少し『おねえさん』と仲良くなりたかったわ)


傷つける言葉ではなく、親愛のこもった言葉を交わして


泣いたり怒ったり悲しい思いをするのではなく、笑いながら楽しい時間を過ごしたかった


(そうすれば)



『だったら、わたしがレオンさんじゃなくて、陛下が良いって言ったら、あなたはどうするんですか?』



シスツィーアのなかに優愛から言われた言葉が蘇る


(そうすれば・・・・・・・・・・言われなくてすんだのに)


心に浮かんだ考えに、シスツィーアははっとする


この国のために優愛の気持ちが最優先されて、シスツィーアの気持ちなんて簡単に踏みにじられる


それを目の当たりにして、シスツィーアの心は暗く沈んで


だけど勝手に呼びつけておきながら、「傷つけられたくなかった」なんて


(わがままだわ・・・・・・・)


優愛はこれまでのすべてから切り離されたのに、いちばん傷ついているのは優愛なのに


(アランをとらないで・・・・・・・・)


シスツィーアにとって一番大切なアラン


側にいれなくなると、考えただけでシスツィーアは涙がとまらなくて


自分勝手な考えに、シスツィーアはますます自己嫌悪で泣きたくなる


(こんなの・・・・・・・アランが知ったら)




嫌われちゃう



心のなかでも言葉にするのが怖くて、シスツィーアは隣に座るアランへと手を伸ばしてぎゅっと抱きつく


気にしたらダメだって分かっていても、優愛から言われた言葉はシスツィーアの心から離れずに、気を抜いたらどんどん侵食していって


「ツィーア?」


アランの優しい声にシスツィーアの心はぎゅっと締め付けられて、なにも言わずにアランに抱きつく手に力を込める


アランもシスツィーアへと手を伸ばして、肩を抱き寄せる。


シスツィーアの心が不安定なことに、当然ながらアランも気づいていた




優愛とのお茶会から数日後、アランはリオリースが戻ってきてから行くはずだった視察を前倒しして王城を離れた。


「リオン殿下が戻ってからじゃなかったの?」

「ん?それだとゆっくり視察できないからね。予定変更した。ついでに父上たちにも会っていこう」


王領には先代国王がいるから視察は必要ないと今回は行くつもりはなかったが、視察先であるヘルドヴィッツの街へ行く途中、少し迂回して立ち寄った。


『魔物の森』の様子も見ておきたいからと足を延ばして


王城を長期間空けるわけにはいかないし、移動にも時間がかかるから滞在先でゆっくりすることはできなかったけれど、アランはシスツィーアをできるだけ離さなかった。


そのおかげか、王城に戻るころにはシスツィーアもずいぶん安定していたのだけれど


(ごめん、ツィーア)


シスツィーアが不安定なのは優愛の言葉だけでなく、王宮におけるシスツィーアの立場が不安定なこともあるとアランは分かっている。


だけどいま周囲の反対を押し切ってシスツィーアと婚姻を結んだとしても、貴族たちから祝福されることはないし、いま以上にツライ思いをさせるだけなのだ


(早く、優愛が兄上を受け入れてくれればいいのに)


そうすれば、アランは誰が反対してもシスツィーアと婚姻する


優愛とレオリードが一緒になることを、他の誰よりも切望しているアランだった




最後までお読み下さり、ありがとうございます。

次話もお楽しみいただければ幸いです。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ