夕食会 ②
「あ、あの」
「ありがと。配ってくれる?」
「デザートは全員そろって食べるから」とのアランの指示に従い、リオリースが主菜を食べ終える頃合いを見計らって、デザートと飲み物を持ってきた給仕
気まずい雰囲気に気付いてたじろぐけれど、アランが指示すると「失礼いたします」と四人の前にデザートを並べていく
今日のデザートは、季節のフルーツたっぷりのタルト
色鮮やかに飾られた果物と、ちょこんとのっている小さな花が見る者を楽しませてくれて、シスツィーアの顔が嬉しそうに綻ぶ
「今日のデザートも素敵ね。美味しそう」
「あ、これ食べられる花?ツィーア、こういうの好きだよね」
「ええ。可愛らしいわ」
さっきまでの不機嫌が嘘のように、アランは機嫌良くシスツィーアと笑みを交わし
話を続けられる雰囲気ではなくなり、レオリードとリオリースもお互いに顔を見合わせると、デザートへと手を伸ばす。
給仕がお茶まで配り終え、給仕が静かに部屋を出て行くと
「僕の半分あげるね」
丸いタルトをナイフで綺麗に半分に切り分けて、アランがシスツィーアのお皿にのせる。
「ありがとう。わたしのも半分分けるわね」
シスツィーアも同じように自分のお皿から半分切り分けて、アランのお皿にのせる。
半分にしたものをお互いに交換
結局ふたりとも一つずつ食べることには変わりないのだが・・・・・・
いつからか始まった「はんぶんこ」
自分の分を素直に食べればいいのだが、アランはシスツィーアに分けたがるし、シスツィーアも「お返しするわね」とアランに分けて
夕食会のたびに目の前で行われるこの「はんぶんこ」に、リオリースはこっそりため息を吐く
さすがに公的な場ではすることはないし、すべての料理を交換することもない
けれど
「アラン兄上、お行儀悪いよ」
アランが「はんぶんこ」をはじめたのは、先代国王が王城を去り、同異母兄弟とシスツィーアだけの夕食会がはじまったころ
見かねたリオリースがアランを咎めたのだが
「そう?こうすれば「同じものを食べてる」って感じがするだろ?」
「でも」
「分かった。リオンと兄上以外の人がいるところではしない。だから大目に見てよ」
と、アランはやめることはなかったのだ
(まあ、使用人がいるところでもしないからマシと言えばマシだけど)
リオリースが子どものときから食事は家族だけで摂っていて、給仕は食事を運ぶだけ
だから、アランがいくらマナー違反をしていても、「家族の前だけ」で大丈夫なのだけれど・・・・・・・
「ふふ。アランからもらった方が美味しいわ」
「僕もツィーアからもらった方が美味しいよ」
にこにこしながら美味しそうにタルトを口に運ぶシスツィーアと、すでにタルトを食べ終えて微笑みながらお茶を飲むアラン
幸せそうな二人を見ながら、リオリースは何とも言えない顔をしてタルトをつつく
シスツィーアとアランの前にレオリードとリオリースが座っているから、そのやり取りをいつも見せつけられて、毎回のことながらうんざりしているのもあるけれど
(よくレオン兄上の前でできるよね)
兄弟の前でいちゃつくのも「恥ずかしくないの?」と思うけれど、想う相手から振られた形で大失恋したレオリードの前で遠慮なくいちゃつけるのは、リオリースの理解を超えていてある意味凄いとしか言いようがない。
そんな思いが顔に出ていたのか、シスツィーアには蕩けるほどの甘い顔を向けていたのに
「なに、リオン?なにか言いたいことあるの?」
「べつにー」
じろっと睨むようにアランから見られて、リオンは慌てて手を振る。
文句なんて言おうものなら次兄からどんな仕返しを受けるかわからないし、レオリードは基本的にアランとシスツィーアのことに口を挟まない。
レオリードが気にしていないのなら、リオリースがレオリードを気遣う必要はないのだけれど
(少しくらい、こっちの気持ち考えてくれたらいいのに)
仲が良いのは良いことだけれど、見せつけられる側の気持ちも考えて欲しい
結局のところ、お行儀悪いとか、レオリードのこととか関係なく、リオリースがアランがシスツィーアを溺愛している姿を見るのが複雑なのだ。
(二人きりのところでやってよね)
リオリースは、いたたまれない思いを吐き出すように内心でまたため息を吐く
「ふふっ。リオリース殿下も「はんぶんこ」する相手が欲しいのよ」
ふわふわと幸せそうに微笑むシスツィーアと「早く相手見つければ良いのに」と肩を竦めるアランへ、曖昧な顔をするしかなかった。
「ねぇ、さっきの話に戻るけど」
全員がデザートを食べ終わり、シスツィーアがお茶のお代わりを淹れてくれているとき
リオリースはどうしてもさっきのアランの態度が腑に落ちなくて、アランの機嫌が悪くなると分かっていても切り出す。
「オレが留守番するよ?頼りないかもしれないけど、半日くらいならなんとかなるし」
「・・・・・・・リオンはまだ未成年だろ」
「だが、シスツィーアが一緒なら優愛も喜ぶと思うが」
優愛にかつての記憶がないことを、アランが複雑な思いでいることは知っている。
けれど、この国のために優愛を『召喚』した以上、新たな関係を築いていかなくてはいけないのだ
アランもそのことは分かっているはずなのにとレオリードが訝しく思うと、シスツィーアが申し訳なさそうにレオリードを見上げる。
「ごめんなさい。優愛とはあれ以来会ってないから、一緒に行くと優愛に気を使わせてしまうわ」
「そういえば」
「え!?あんなに楽しみにしてたのに!?」
思いがけないシスツィーアの言葉に、リオリースが驚きの声をあげる
「え!?なんで!?」
「え、ええ・・・・・・・・・・・・・特に、理由はないけど」
言葉を濁すシスツィーア
リオリースが「信じられない」と呆然とするなか、レオリードは胸がざわつく
シスツィーアと優愛の交流は禁止していないし、お互いが会いたいのなら場を設けるようにと、指示も出している。
(たしかに、あれ以来、シスツィーアと会ったという報告はなかった)
いまさらながら、そのことに思い至ったレオリード
「優愛となにかあったのか?」
シスツィーアが言う「あれ以来」とは、きっと優愛が引きこもっていたときにシスツィーアに頼んで話をしてもらったときのこと
自分がシスツィーアに頼んだせいで、優愛となにかあったのかと、レオリードは焦るけれど
「え、ええ・・・・・・・特に、何かあったわけじゃないけれど、優愛は今忙しいでしょう?邪魔しちゃ悪いわと思って」
どこか腑に落ちない顔をするレオリードに、シスツィーアは答える。
「アラン?」
「ツィーアも僕と一緒に視察に行ったりして、けっこう忙しかったしね。時間が合わなかっただけだよ」
さっきの不機嫌さはないけれど、アランの口調は素っ気ないままで
「それなら・・・・・いいが・・・・・・」
レオリードもそれ以上は何も言えなかった。
最後までお読み下さり、ありがとうございます。
前話ですが、タイトルを付けたつもりが忘れたまま投稿しておりました。
お恥ずかしい限りです。すみません。
タイトル付け&修正できてなかった箇所もあったので修正いたしました。
恥を晒してしまいました。どうぞ、ご容赦くださいませ
次話もお楽しみいただければ幸いです。




