レオンさんとのお茶会 ②
レオンさんはわたしからの質問を、にこにこしながら待っている
「えっと、そうですね」
レオンさんの失敗談も楽しそうだけど、そればっかり聞くのは失礼だし
(好きだった人のことなんて、もっと聞かれたくないよね)
レオンさんが好きになる人だから、相手は素敵な女性なんだろうなって思う
お別れしないといけなかった理由だって、レオンさんが振られたってことは考えにくいから相当な理由があったんだろうって、ちょっと気になるけれど
(あの女性の話からすると、レオンさんはまだ好きみたいだし、傷口抉るようなまねしたくないし)
家族のこと、この世界のこと
わたしが家族や日本を思い出して悲しい思いをしないためか、レオンさんはわたしが尋ねないかぎり、このふたつの話を自分から出すことはあんまりない。
わたしの好きなものや読んだ本や習ったこととかお出かけしたりと、わたしを気遣うことがほとんどだ。
(えっと、レオンさんにも楽しんでもらえる話題は・・・・・・)
せっかく来てくれたのにお仕事の話はどうかと思うし、家族の話はわたしが思いだして切なくなりそうだし
少し考えて
「レオンさんの学生生活って、どんな感じでしたか?オルレン先生と学園で同じクラスだったってことは聞いたんですけど」
あと三週間もすれば学園に通うことになる
レオンさんの学園生活はどんな感じだったのか、教えてもらうくらいは大丈夫だよね?
「ああ。この国の王族や貴族は、学園を卒業するよう定められていてね。とはいえ、さすがに初等科からとなると、領地が遠く幼いころから親元を離れないといけない者もいる。それに、学園を立ち上げた五代目の王妃は『すべての者に等しく学ぶ機会を』と、各地に初等科と中等科を設置してすべての国民が同じ内容を学べるようにした。と同時に『国を担う者たちが狭い世界しか知らないのは赦されない』と、王都にだけ高等科を設置して、すべての王族貴族が通うように決めたんだ」
「そうなんですね。じゃあ、この国の人はみんな文字が読めて、計算とかもできるんですね」
「ああ。それに、この国の成り立ちや魔力について一通りのことは教わる。高等科はそれまで学んだことをより深く学ぶところだ」
(日本と同じだな)
この国の教育の基準が日本の義務教育と同じで、なんだかほっとする。
「レオンさんは学園に通うまではどうしてたんですか?」
「それまでは講師を招いて王宮で学んでいた。だから、歳の変らない者たちと共に学ぶことが新鮮でね」
当時のことを思い出してきたのか、レオンさんの口もとが綻んできて
「王宮で開かれる茶会や夜会で高位貴族の者たちとは交流してきたが、それ以外の者たちと話したことはなくてね。一年生の頃はとにかく身分問わず交流したいと思い、廊下ですれ違うたびに生徒たちに話しかけたんだ。だが、俺が話しかけると相手が委縮してしまって」
「うーん。なんとなく、分かる気がします」
「自分たちとは関係ない雲の上の人」って思ってた人から急に話しかけられて、パニックになるのは分かる。
「ああ。それに、警護上も好ましくないと言われて・・・・・・まあ、それには反発したんだが」
「レオンさんが反発・・・・・・なんだか意外です」
「そうか?」
「はい」
不思議そうに首を傾げるレオンさんに、こくっと頷く
「なんと言うか、優等生なイメージでした」
「優等生?」
「えっと、誰とも喧嘩したりしなくて、穏やかに接すると言うか」
「優等生」って言葉がここにはないのか、レオンさんが不思議そうに首を傾げるから慌ててひねり出す。
なんとなくイメージは伝わったのか、レオンさんは苦笑して
「喧嘩したわけじゃないが『学園にいる間は王族ではなく生徒として扱って欲しい』と、『必要以上の護衛は要らない。その代わり、キアルに側にいてもらう』と言って納得してもらった。キアルは騎士になるために騎士科に所属していたからね」
「じゃあ、キアルさんだけ別のクラスですか?」
「ああ。だが、王族は生徒会・・・・・生徒会は分かるか?」
「はい。わたしのところにもありました。生徒の代表ですよね。学園祭の準備をしたり、入学式でお祝いの言葉を贈ったりする」
「ああ。俺だけじゃなくてキアルとオルレンも生徒会に所属して、ずっと一緒に過ごしていたな」
懐かしそうにレオンさんは続ける。
「周囲も慣れてきたのか、二年生になるころには話しかけても委縮されることは少なくなったが、だからといって打ち解けて話すことはなくて」
「そうですよね」
「今思えば、一人で空回りしている状態だったな」
レオンさんは淋しそうな顔で苦笑するけれど、相手だって王子に愚痴るわけにはいかないから仕方ないと思う
ちょっとだけ空気が重くなって、切り換えないとって視線を彷徨わせる
「あ、お茶淹れてもらいますね」
レオンさんのカップが空っぽになっていたから、ルリさんに目配せして
「ありがとう」
「たくさん話してもらったから、喉渇きましたよね。冷たいお茶で良いですか?」
「ああ」
わたしも喉が渇いるから、ごくごく飲める冷たいお茶を2つ用意してもらう
ルリさんがグラスを置いて離れていくと、レオンさんは少し遠い目をして
「・・・・・・・・・三年のとき、やっと願いが叶ったんだ」
「え?」
「助言してくれた者がいてね。優愛も参加することになるが、『香夜祭』という催し物があって」
「聞きました!生徒同士が交流する学園祭なんでしょう?ダンスパーティーだから、来週からはダンスのお勉強もすることになってます」
「そうか・・・・・・・それで、身分問わずいろんな者から意見を募って、協力して・・・・・・香夜祭を成功させた」
遠い目のまま、わたしをみつめるレオンさん
だけど、その瞳はわたしを見ていなくて
「 がいたから、できたんだ」
「え?」
くしゃっと顔が崩れて
「忘れられない」
レオンさんの呟きは、小さな囁きだったのにはっきりと耳に届いて、胸が締め付けられるくらい切なかった。
最後までお読み下さり、ありがとうございます。
次話もお楽しみいただければ幸いです。




