レオンさんとのお茶会 ①
「ようこそお越しくださいました」
今日は、レオンさんを招いてのお茶会の日。
さすがに制服じゃダメだよねって、少しおめかししてドレスとワンピースのあいだ辺りの服を着て、小さな宝石のついた髪飾りをつけてもらった。
少し早めに来たレオンさんも、いつもよりパリッとしたスーツ姿
それに、豪華な花束を持ってきてくれた。
「本日はお招きありがとう」
手渡された花束は両手でやっと抱えることができる大きさで、わたしが好きと言ったピンクオレンジの花とかすみ草みたいな白い花と
「胡蝶蘭?」
胡蝶蘭みたいに連なってはいないけれど、花びらの形がよく似ている花
「・・・・・・・・甘い」
花の色は外側は上品な紫だけど、だんだんなかに向かって白色へ変わっていって、香りはバニラエッセンスみたいに甘い。
「お菓子みたい」
「苦手な香りだったろうか?」
レオンさんが心配そうにそわそわした様子で尋ねてくる
「いいえ。そんなことないですよ」
「良かった」
ほっとして笑うレオンさんはなんだか可愛らしくて、わたしまで笑ってしまう。
小さく吹き出す声が聞こえてちらっとレオンさんの後ろを見ると、いつもの護衛さんがわたしと同じことを思ったのか、小さく肩を震わせていた。
最初は乗り気じゃなかったこのお茶会
シスツィーアさんに謝りたいと思って聞いてみたのに反対されて、「お茶会の開催をしない」のではなく、レオンさんを招待することになったことに、結局はここの人たちの都合で全部決められるんだって、がっかりして気が重くて仕方なかった。
「そんなことレオンさんには関係ない!」って分かっているけれど、「わたしが招待したかったのはシスツィーアさんなのに」って気持ちがごちゃ混ぜになって
だから、レオンさんには申し訳ないけれど「シスツィーアさんとのお茶会の予行練習にしよう」って切り替えた。
それなら気分も持ち直せそうで、それに、せっかくならレオンさんにも楽しんで欲しかったしね
お茶会の会場は、わたしが使わせてもらっている宮にあるガーデンルーム
まだまだ夏の盛りらしく陽差しは強くて外も暑いけれど、ここなら空調装置が効いていて涼しいし、お庭に植えられた樹でちょうど木陰になるように設計されていて、陽ざしの強さも感じない、ここ最近のお気に入りの場所
お出しするお茶もお菓子も、ルリさんに相談してレオンさんの好きな物を教えてもらって、そのなかから季節に合ったものを選んだ。
「大人だし、お酒の入ったお菓子かな?」と思っていたけれど、レオンさんはお付き合いでは飲むけれど、あまりお酒は好きではないと教えられて、だけど、わたしの見たところ甘いものもあまり食べないようだから、甘さ控えめな焼き菓子とフルーツを中心に用意してもらって
「せっかくですから、優愛さまがお茶を淹れて差し上げたら如何でしょう?」って言われたけれど
(シスツィーアさんのお茶、おいしかったな)
あの日のお茶の味が思いだされて、また落ち込みそうになって
それに、シスツィーアさんが淹れてくれたお茶みたいに上手く淹れる自信もなかったから、ルリさんにお任せすることにして茶葉だけ少し渋めのものを選んだ。
テーブルコーディネートも、レオンさんはごちゃごちゃしたのは好きじゃなさそうだから、涼し気な水色のお花を一輪挿しより少し大きな花瓶に生けてもらって
テーブルクロスは白色でレース編み、茶器も食器もオフホワイト色で金色の縁取りがしてあるだけのシンプルな物
レオンさんをイメージして一生懸命選んだ
「どうぞお掛けください」
「ああ。ありがとう」
今日のわたしはホスト役だから、レオンさんに椅子を勧めて先に座ってもらってわたしはそのあと
ルリさんがお茶を淹れてレオンさんとわたしの前に置いてくれると、いよいよお茶会のスタートだ
「どうぞ召し上がってください」
「ありがとう」
いつも通り、穏やかに微笑みながら綺麗な所作でカップを持ち上げるレオンさん。
王族がお茶会に招かれて出席するときには、毒見役の人が最初にお菓子を食べたりお茶を飲んで、異常がないって確認するらしいけど、ここは王宮だから省略されている。
その代わりに、わたしも「心配いらないですよ」って示すために、レオンさんに続いてお茶のカップを持ち上げる。
自分の所作がぎこちないのが恥ずかしくて、せめて音を立てず見苦しくないようにと、ゆっくりお茶を飲んでフルーツに手を伸ばす
一口サイズに切ってガラスの器に盛りつけてもらったのは、桃みたいに瑞々しくてしっかりとした甘みのある、ピルシュと呼ばれるフルーツ。
暑い夏にぴったりで、レオンさんも毎年食べるのを楽しみにしていると教えてもらった。
「美味いな」
「良かった」
レオンさんもピルシュに手を伸ばして、おいしそうに食べてくれる。
(ここまでは大丈夫)
ほっとしながらも、「そろそろ、なにか話題を出した方が良いよね」って話しかけようとしたけれど、レオンさんはじっとあるお菓子を見つめている。
「この菓子は?」
「えっと、カヌレ、です」
レオンさんが珍しそうに手に取ったのは、わたしが頼んで作ってもらったカヌレ
せっかくなら、この世界にはないお菓子もと思って、従姉妹に教えてもらいながら作って、父の日にプレゼントしたカヌレならって思いついたのだ。
作り方や分量は覚えてたし、この世界にも材料はあって、型も小さなカップケーキ用が使えそうだったから、レオンさんの好みからは外れるかも知れないけれど、パティシエさんに頼んで作ってもらったけど・・・・・・・・
「君の世界の菓子か?」
「はい」
(お父さんは美味しいって喜んでくれたし、大丈夫だよね)
試食したときにルリさんもサラ先生も「美味しい」って言ってくれたけど、レオンさんは気に入ってくれるかな?
ドキドキしながらレオンさんを見ると、レオンさんは興味深そうにナイフとフォークで切り分けて
「酒?」
「はい。ほんの少しだけ、香りつけに」
ますます興味深そうにしながら、レオンさんが一口かじる。
「・・・・・・・・・・美味い」
「ホントですか?」
「ああ。初めて食べたが美味い。それに、カリッとしていて香ばしいな」
「良かった!」
お世辞じゃなくて本当に気に入ってくれたのか、レオンさんは残りもすぐに口に入れて二個目に手を伸ばしてくれる。
「お酒はあまり好きじゃないって聞いたんですけど、レオンさんに気に入ってもらえそうなお菓子、これくらいしか作り方覚えてなくて。気に入ってもらえて良かったです」
わたしもカヌレに手を伸ばして笑いながら言うと、レオンさんは苦笑して
「たしかに酒は付き合いでしか飲まないが、嫌いなわけじゃないんだ」
「え?」
「その・・・・・・・・酒でちょっと失敗をして」
レオンさんが教えてくれたのは、お酒が飲める歳になって初めて出席したお祝いの席で、酔いつぶれてしまったという失敗談
「父は酒に強かったし、自分でも大丈夫だと思っていたんだが、飲み慣れなくて適量が分からなくてね。あのときは、アランにまで迷惑を掛けてしまった」
「そうだったんですね」
恥ずかしそうにしながらも教えてくれるレオンさん
やっぱり可愛いって思えて
「レオンさんって、なんでもできて失敗しないって思ってました」
「失望した?」
「いえ?なんだか親しみがわきました」
なんでも器用にこなしてしまうイメージだったけど、失敗するって聞いて身近に感じて微笑ましくなって
「もっとレオンさんのこと聞かせてください」
「ああ。なにを話そうか」
最後までお読み下さり、ありがとうございます。
次話もお楽しみいただければ幸いです。




