最初のお客さまは
「・・・・・・・・・・・」
「・・・・・・・・・・・・」
思い切ってシスツィーアさんの名前を言って、ドキドキしながらふたりの反応を見てみる。
サラ先生は驚いてはいたものの、すぐに困ったように首を傾げるだけだったけれど
「ルリさん?」
「っ!も、申し訳ありません」
ルリさんは「そこまで驚く!?」って聞きたくなるくらい、目を見開いて固まっていた。
(なんだろう?)
お辞儀のときの、レオンさんとキアルさんの反応と同じ
「まったく予想してなかった」と、驚くのは分るけど
「あの」
「失礼ながら、優愛さまはなぜシスツィーアさまをご招待なさりたいと思われましたの?」
「えっと・・・・・・・・お茶会だから、女性の方が良いかなって」
探るような目でサラ先生から聞かれて、咄嗟に答える。
(本当は、謝りたいから・・・・・・・なんだけど)
八つ当たりして酷いこと言ってしまったって、謝らないといけないってずっと思ってたけど、あれからシスツィーアさんと会うことはなかった。
(陛下に会うこともなかったけど)
わたしのことは全面的にレオンさんに任せてあるらしく、陛下に会ったのはあの日だけ。
陛下はともかく、シスツィーアさんに会って謝罪したかったけど、わたしから「会いたい」って言って断られたらって思うと怖かったし、それにメイドさんたちがシスツィーアさんのこと良く思ってないのは分かったから、言い出しにくかったのもある。
レオンさんもわたしがシスツィーアさんに酷いこと言ったって知らないままみたいだし、そうなると知られたくない気持ちも出てきて、謝るきっかけもないまま、ずるずると先延ばしにしてしまっていた。
だから、今回のことは良いチャンスかなって思ったんだけど
ちらっとルリさんを見るとほっとした顔をしていて、サラ先生もさっきより表情が柔らかい
「それでしたら、お気になさる必要はありませんわ。お茶会は交流の場ですもの、男女関係なく行われるものですわ。ですから、優愛さまが本当にお招きしたい方にいたしましょう」
「え?」
にこりとサラ先生に言われて、今度はわたしが固まる。
「学園に通われるようになれば、ご令嬢方とのお茶会が多くなりますわ。もちろん、優愛さまのお気持ちが優先されますが、気の合わない方とも交流が必要になるでしょう。ですから、今回は気心の知れた方がよくありませんか?」
サラ先生が諭すようにわたしに言う。
いつもは控えているルリさんも、わたしとサラ先生のいるテーブル近くにやって来て
「僭越ながら、優愛さま。レオリード殿下をお招きしては如何でしょう?」
「レオンさん、ですか?」
「ええ。サラ先生のおっしゃる通り、やはり最初は、近しい、よく知っている方がよろしいかと」
わたしを見つめるルリさんの目は、困ったように下がっている。
「今でもしょっちゅうお茶してますよ?明日だって」
「ですが、正式なお茶会ではありませんわ。失礼ながら、シスツィーアさまとはほとんど交流もありませんでしたし、お好みを把握して準備なさるのは、優愛さまのご負担が大きいかと」
「えっと?」
いつになく食い下がってくるルリさん。
(歓迎されてないんだ・・・・・・・・・)
シスツィーアさんと会うことを、どうにかしてやめさせようとしていることが伝わってきて
(そう・・・・・・だよね。酷いこと言ったんだもん)
メイドさんたちからしてみたら、わたしがまたシスツィーアさんに酷いこと言って、取り返しのつかないことになったらって、巻き込まれたら困るって、避けたい気持ちも分かる。
それに、陛下が命令して、わたしとシスツィーアさんを会わせないようにしているのかもしれない
そんな考えが浮かんで
サラ先生は王宮内のことだからか発言するつもりはないらしくて、成り行きを見守るようにしている。
気持ちがどんどんしぼんでいって
ルリさんは引かないって、なんとなく思えて
「・・・・・・・・・・・・わかりました」
いつの間にかピンと張り詰めていた空気が、ほどけていくのが分かる。
「レオンさんを、招待します」
声が掠れないように、できるだけいつも通りに言う
ルリさんたちの表情が、心からほっとしたものへ変わって
「ええ!優愛さまの最初のお客さまになられるのですから、やはりレオリード殿下が相応しいですわ」
「殿下もきっとお喜びになりますわ!お勉強の成果も見ていただけますわね」
にこにこと笑っているふたり
だけど、もやもやとぽっかりしたものが心に広がって
(・・・・・・・・・・・・・・・)
せっかく、シスツィーアさんに謝ることができるって思ったのに
招待したいって思ったのに、な
ふたりとは正反対に、わたしの気持ちは落ちていって
「さっそく、招待状をお出ししましょう。まずは、書き方をお教えいたしますわ」
うきうきと楽しそうなサラ先生に促されて、重くなった身体をなんとか動かしてルリさんが用意してくれたペンを持った。
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