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優愛の目覚め

「優愛さまがお目覚めになりました。リーリア医師が診察なさいましたが、お身体に異常はないとのことです」

「そうか、良かった」


メイド長からの報告を聞き、執務室にいたレオリードはほっと息を吐く。


召喚されてから、ずっと眠り続けていた優愛。


この三日間、レオリードは「このまま目覚めないのではないか」と気が気ではなく、生きた心地がしなかった。


「しばらくは、ゆっくりお過ごし頂くようにと指示が出ております」

「ああ、急にこの世界に来た・・・・・・いや、我々が呼び寄せたんだ。身体が馴染むまでは無理をさせるな」

「かしこまりました」


メイド長が一礼し静かに退出すると、レオリードは椅子に深く座り直し肩から力を抜く。


(本当に良かった)


勝手に召喚しておきながらまた『彼女』に負担を強いたと思うと、眠り続けている優愛への申し訳なさで胸が締め付けられ


このまま目が覚めることがなかったらと思うと、やっと会えた『彼女』をふたたび失う恐怖に心が支配されて


(また、彼女を失うようなことがあれば、俺は・・・・・・・)


前回のときもだが、今回もレオリードたちの都合で優愛をこの国へと呼び寄せた。


平和に暮らしているのに家族から無理やり引き離し、そして優愛へこの国のために献身を尽くして欲しいと、これから頼まなくてはならない。


「身勝手にも程がある」と、レオリードですら思う。


けれど、「この国のために必要だ」と言われれば、王族であるレオリードには優愛に懇願するしかない。


(せめて、優愛に少しでも穏やかに心地良く、この世界で過ごしてもらいたい)


レオリードにできることは、それしか考えられなくて


その日の執務を早めに終わらせると、レオリードは温室へ向かう。


『優愛』の好みが分からないから『彼女』のときと同じように、自ら香りが強くない花を数種類選び小さな花束を作ると、優愛の部屋へと届ける。


本当なら見舞っていきたかったが、さすがに目覚めたばかりの女性の部屋へ行くのは非常識だと耐えた。


もちろんこの三日のあいだも幾度となく見舞いたい衝動にかられ、その度に「非常識だ」と自分を戒めていた。


(『彼女』のときは、躊躇わずに行ったのにな)


若かりし頃の自分を思い出し、レオリードは苦笑する。


まだ10代だったころは、目覚めたばかりの『彼女』がどう思うかなど考える余裕なく、そればかりか、眠ったままの『彼女』を見舞ったことすらある。


今思えば、「迷惑極まりなかったな」と思いだすだけで恥ずかしくなるが、レオリードにとってはそれでも『彼女』との忘れがたい想い出。



「これを、彼女に。俺からだとは伝える必要はない」

「かしこまりました」


部屋に入ることもしないから、そっとルリを廊下に呼び出して見舞いの花束を渡す。


ルリも心得たもので、余計なことは何も言わずに受け取る。


「彼女の様子は?」

「食欲はあまりないようですが、それでもお出ししたスープやサラダ、パンは残さず召し上がっておられました。ただ、身体がまだお疲れのご様子で、食事がすむとまたすぐにお休みになられました」

「そうか。何かったら知らせてくれ。時間は気にしなくていい」

「かしこまりました」


ちゃんと食事を摂れたことに安堵し、レオリードも自室へと戻る。


ただ、同じ王宮にいるだけ。


それでも彼女が目覚めてくれたことが、また近くにいることが嬉しくて


レオリードはその日、何年かぶりによく眠れた。













「そっか、良かった」


レオリードが報告を受けた少しあと


アランも「優愛が目覚めた」とメイド長より報告を受けていた。


「どんな様子?」

「お心のうちは分かりかねますが、取り乱されることはないそうです。優愛さま付きとなりましたルリとは穏やかにお話し下さり、リーリア医師の診察も大人しく受けられたと」

「そう。身体に異常はなかった?」

「はい。ただ、リーリア医師も異世界の方をはじめて診察いたしましたので、「はっきりしたことは言えない」と申しておりました」

「それは仕方ないよね」

「当分の間は「疲れやすいだろうから、ゆっくりとお過ごしいただく」とのことでございます」

「そっか。ひとまず慣れるまではそっとしておく。また報告して」

「かしこまりました」

「ああ。あと、これからも優愛のことは兄上に一任するから。何かあったら兄上にまず報告して指示を仰いで。ただし、僕への報告も怠らないように。メイドたちにも、そう伝えといて」

「はい」


メイド長は深く一礼すると、足音を立てずに部屋を出て行く。


アランは起していた上半身を、うしろに置いてあるクッションにぽふっと埋めて


「良かったわ、目が覚めて」


アランのそばに控えていたシスツィーア。


メイド長とアランの会話に口を挟むことなく黙っていたけれど、嬉しそうに微笑む。


「うん。早く会いたい?」

「そうね。すっかりわたしが『お姉さん』になっちゃったけどね」


シスツィーアはアランの横に座り、彼女の長い髪をアランがくるくると手にかけて遊ぶのを嬉しそうに見ている。


「体調はどう?」

「昨日より良いよ」


言いながら、アランはシスツィーアを引き寄せて一緒にベッドへもぐる。


「わたしも一緒?」

「ダメ?」


くすくすと笑いながらシスツィーアがアランに抱きつくと、アランも嬉しそうにシスツィーアの髪を撫でて、またふたりで笑い合う。



ここはアランの私室。


アランは優愛を召喚した翌日から、ずっと臥せっていた。


「執務、兄上に任せきりになったけど大丈夫かな?」

「レオリード殿下なら問題ないわ。むしろ、お仕事があって良かったんじゃないかしら?」

「優愛のこと考えないように?」

「考えすぎないように、よ」


『優愛』の召喚の為には大量の魔力が必要で、通常なら数人から10人程度の魔力を使用するのだが、今回はアランの魔力だけを使った。


確実に『篠崎 優愛』を召喚するために


もちろん、問題ないと魔道術師長たちが判断した上での『召喚の儀式』だったし、万が一のためにアランと魔力性質がほぼ同じであるシスツィーアも待機していた。


それでも思った以上に魔力は必要で、アランはまだ体内の魔力が回復せず、シスツィーアもずっと側にいて、時々自分の魔力をアランへ流したりと看病しているのだ。


「それもそうだね」


言いながら、アランが「ふわぁ」と大きなあくびを漏らす。


「無理しないで。寝ていて良いのよ?」

「うん。ごめん、心配かけて」

「ふふっ。わたしはアランに頼りにされて嬉しいわ」


シスツィーアはふわりと花が綻ぶように微笑むと、アランの手をとり布団のなかへ入れる。


しばらくすると、アランの規則正しい寝息が聞こえてきて


シスツィーアはそっと起き上がると、アランを起さないように静かに寝室を出た。



ご無沙汰しておりますが、最後までお読み下さりありがとうございます。

次話もお楽しみいただければ幸いです。

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