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お茶会を開こう

「お茶会?ですか?」

「ええ。挨拶などの基本的な作法は覚えてしまわれましたし、次はお茶会の作法をお教えしようと思いまして」


変な女性と会った翌日、サラ先生は数冊の本を持ってやって来た。


「学園の夏季休暇が終われば、優愛さまも通うようになると伺いました。そうすれば、ご学友となられる方々からお誘いが来ますわ」

「・・・・・・・・・えっと・・・・・・」


たしかに、「あと一月もしないうちに夏季休暇が終わるから、新学期から学園に通おう」ってレオンさんに言われて、明日には制服の採寸をすることになっている。


「学園に通う前に、貴族たちへのお披露目もする予定だ」とも言われてたけど、その日程はまだ決まっていなくて、ルリさんも「夜会の作法より、お茶会の作法を先にした方が良かったかもしれませんね」と言っていたのは覚えているけれど・・・・・・・・・


(お茶会って、あれだよね?友だちとカフェでお茶するのとは違うよね?)


学校の帰りにファーストフードとかファミレスとか、休みの日にお出かけして、お洒落なカフェでまったりお喋りするのとは違うはず


「優愛さまはご友人の方とお茶会をしたことはありませんの?」

「えっと・・・・・・学校の帰りに友だちとカフェ・・・・・・・・お茶とかケーキとか食べに行くことはありましてけど」

「まぁ!それは楽しそうですわね。では、ご友人を自宅に招いて、おもてなしなさったことは?」

「えっと・・・・・・・・・・」


両親が共働きだったから友だちを家に誘うことはなかったし、友だちの家に遊びに行ったこともほとんどない。


「仕事が忙しい」って夏休みとかも家族旅行に行くこともなくて、そのお詫びなのか、小6のときに仲の良かった友だちを招いて「お泊り会」をしたことはあったけど


(バーベキューして、川で遊んだっけ)


近所のキャンプ場に行って、みんなでお肉を焼いて食べて水遊びして、お家に帰ってからも友だちとずっとお喋りして、夜更かしして翌日はお昼過ぎに起きたことを覚えている。


(そうそう!それで楽しかったから、卒業式のあともたこ焼きパーティーしたっけ)


「中学生になるんだから、自分たちで作ってみよう!」って、今度は友だちの家でたこ焼きパーティーしたことを思い出して、懐かしいのと同時に寂しくなって


「優愛さま?」

「えっ?あ!すみません!」


ぼんやりしそうになって、慌てて顔を上げる。


楽しかったし、またできたら良いなって思うけど、サラ先生が言いたいのは、きっと小説とかのなかにある『お茶会』


「その、サラ先生の言うお茶会みたいなことは、したことない・・・・・・です。レオンさんと過ごすお茶の時間みたいな感じですか?」

「・・・・・・わたくしは優愛さまと殿下の過ごし方を存じませんので・・・・・・」


たぶん、レオンさんとのお茶の時間が一番近いだろうなって思って言ってみたけれど、サラ先生は頬に手を当てて首を傾げて、ちらっとルリさんに視線を向ける。


「ええ。お茶会はお互いのことを知るための交流の場ですから、レオリード殿下と優愛さまのお茶会は私的なものですが、過ごし方としては同じとお考えいただければ良いかと。違うとすれば、招待状をお出しすることと、なにか余興を設けたりするくらいでしょうか?」

「余興?」

「ええ。たとえば、お気に入りの演奏家を招いて演奏させたり、珍しい異国の品を披露したり。もちろん、余興のないお茶会もございますわ」

「なるほど」


気軽に友だちを呼んで過ごすとかじゃなくて、やっぱり小説のなかのお茶会


(なんか、気が重い)


楽しく過ごすというより、お互いの腹の探り合いみたいなイメージが浮かんでしまう。


「実際に、どなたかをお招きすると考えて授業を進めていきましょう。優愛さまがお茶会を開くとして、お招きしたい方はいらっしゃいますか?」

「えっと・・・・・・・・」


この国に知り合いなんてほとんどいないのに、招待したい人って言われても思い浮かばない


途方に暮れていると、サラ先生が明るい声で


「急に言われても困りますよね。申し訳ありません。最初はご招待を受けることになるでしょうし、招待状へのお返事の仕方からはじめましょう」


サラ先生は持って来た本のなかから一冊広げて、わたしの前に置く


ルリさんもテーブルの上にペンとインクと便せんを用意してくれて


「こちらは招待状によく使われる文章ですわ。まず、出席のときは」















(・・・・・・・招待したい人・・・・・)


サラ先生の授業はお返事の書き方だけで終わってしまって、「こちらの本はお貸しいたしますので、目を通しておいてくださいませ」と言って持って来た本を置いて行ってくれた。


夕食のあとにパラパラとめくってみたけど・・・・・・・・・


(うーん。招待する人を決めた方が、授業しやすいのは分かったけど・・・・・・・)


どの本にも『招待したい人』の好みに合わせてセッティングすることって書いてあって、あとは大勢を招くときのポイントだとか、季節に応じたテーブルセッティングとかが絵入りで書かれていた。


(サラ先生のとこのサーリアちゃんとか?)


なんとなく女性の集まりってイメージがあるから思い浮かんだけれど


(うーん。さすがに五歳にもなってない子を招待するって、なんか違うよね)


レオンさんに連れてってもらったお庭で一緒に遊ぶなら良いけど、こっちの都合に付き合ってもらうんだし、なにか余興も考えないと飽きて退屈させちゃう


(余興とかハードル高くするなんて無理!)


それに小さい子しか招待する相手がいないなんて、なんだか情けなくなって


テーマを決めて催しましょう!みたいなページもあったから、いつもお世話になっている人へのお礼の意味を込めてって考えてみるけれど


(準備するのも片付けてくれるのも、ルリさんたちのお仕事だし・・・・・・・)


ルリさんたちへお礼をしたいのに、準備から片付けまでさせるなんてお礼にならないし、それでいうと、招待された本人が教えてくれるなんてやりにくそうだから、サラ先生もダメ


(レオンさんとはいつもお茶してるし、オルレン先生・・・・・・・・は、やめておいた方が良いかな?)


授業の一環だからオルレン先生なら頼めそうだけど、男性だからかお茶会のイメージが浮かばなくて、しっくりこない


(うーん。練習だけど、記念すべき最初のお客さまになるわけだよね)


レオンさんの、まだ会ってない弟さんが思い浮かぶけど


(うーん。弟さんとはいつ会うか決めてるし)


学園に通う前に、作法に問題がないか確認する意味も込めて、レオンさんの弟さんと会うことに決めている。


それに、まったく知らない人を招くのだから、好きな食べ物とか話すときの話題とか、想像しやすい方が良い


(うん。やっぱり、女性の方がおもてなししやすいかも)


そんなことを考えながら、ぱらぱらとページを捲って


「あ」


(そっか・・・・・・・・・)


テーブルセッティングのページを見て、ふと閃く


(うん。良いかも)


ずっと心のなかに引っかかってて、いつかちゃんと謝らないとって思ってた人


(あの人なら、最初のお客さまにぴったりだよね)


思い浮かんでしまえば、それ以外考えられなくなって











「あの、お茶会ですが」


次の日、サラ先生の授業がはじまると思い切って尋ねてみる。


「実際に、お茶会を開いても良いんですか?」

「もちろんですわ。どなたかお招きしたい方がいらっしゃいまして?」


予め決めてあったのか、サラ先生は迷うことなく頷き


「えっと・・・・・・・・・・」


サラ先生はいつもよりにこにこして見えるし、視線の端に見えるルリさんもなんだか顔が綻んで見えて


(えっと・・・・・・・・良いのかな?)


ふたりの笑顔に背中を押された気がして


「えっと、シスツィーアさん、です」


ドキドキしながらも、思い切って言ってみた。

最後までお読み下さり、ありがとうございます。

すっかり間があいて、すみません。

次話もお楽しみいただければ幸いです。

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