メイド長と
「メイド長に任ぜられております、ローザリアと申します。優愛さまにはご挨拶が遅れましたこと、心よりお詫び申し上げます」
ルリさんと一緒に入って来た、初めて見る女性
まっすぐにわたしのところにやって来ると、わたしの少し前で立ち止まり、両手を胸に当て
ふわりと微かに空気が動いたかと思うと、頭を下げて、身体を落とした姿勢で名乗ってくれた。
(えっと・・・・・・・これって?)
深く腰を落としているから、上位の者への礼だなって想像できる。
だけど、王族への敬意を込めた礼とも違う。
戸惑いながらも、礼をしたまま動こうとしないメイド長さんへ
「えっと、篠崎 優愛です。はじめまして」
「お目にかかれて光栄です。また、この度はわたくしの目が行き届かず、優愛さまにはご不快な思いをお掛けしましたこと、重ねてお詫び申し上げます。今後は優愛さまのお心を煩わせることがないよう、ルリたちとともに、わたくしも優愛さまのお世話をすること、お許しくださいませ」
「えっと、よろしくお願いします・・・・」
(えっと、それは良いんだけど)
メイド長さんはずっと礼を取ったままで、頭を上げることも姿勢を正すこともしない。
そのことに焦ってしまって
(なんで!?どうしたらいいの!?)
サラ先生に習ったから分かるけれど、メイド長さんの姿勢は足に負担がかかって、かなりツラいはず
ちらっとメイド長さんとわたしの間辺りにいるルリさんに視線を送ると、ルリさんもはっとして
「優愛さま、頭を上げるように言ってくださいませ」
すーっと足音も立てずにルリさんが隣に来てくれて、こそっと教えてくれる
「え?」
「臣下が礼を解くには、主の許可が必要ですわ」
(それって、陛下とかだけじゃないの!?)
驚いてルリさんを見上げると、ルリさんも困惑している様子
メイド長さんへ視線を戻しても、やっぱりメイド長さんの姿勢はそのままで
「あ、あの、顔を上げてください」
ドキドキしながらメイド長さんに言うと、メイド長さんは静かに姿勢を正してくれてた。
たぶん、歳は30代半ばくらい
背はわたしより高いけど、ルリさんたちに比べると小さいくて、この国では小柄なはず
キツイ感じはしないけれど、仕事ができるって雰囲気の女性
わたしと視線があうと、柔らかな親しみのある笑みを浮かべてくれる。
「篠崎 優愛です。はじめまして」
改めて挨拶すると、メイド長さんもまたにこりと笑ってくれて
「お初にお目にかかります。この度は、優愛さまのお心を煩わせてしまい、本当に申し訳ございません」
ルリさんをチラッと見ると、緊張しているのか顔が強張っている。
「えっと、なんのことですか?ルリさんたちのお世話に不満とかないですよ?」
「優愛さまの寛大なお心に感謝いたします。ですが、陛下への拝謁のためとは言え、優愛さまのお気持ちに沿わずドレスをお召しいただきましたこと、優愛さまの礼儀作法に関しましても、ご不安を感じさせてしまいましたこと、反省すべきところは多いですわ」
そう言われてしまっては、それ以上何も言えずに
(どうしよう・・・・・・なんだか大事になってない?)
たぶんレオンさんが言ってくれたんだとは思うけれど、メイド長さんの謝罪はなんだか大袈裟な感じもする。
それに、いつもならルリさんしかメイドさんはいないはずなのに、扉の近くにはわたしのお世話をしてくれるメイドさんたちがずらっと並んでいて、ルリさんと同じように緊張の面持ちで前を向いているし、なんだか、わたしにも緊張が伝わって、いたたまれない思いが広がって
「優愛さま?」
「は、はい!えっと・・・・・・・・」
メイドさんたちのフォローをしないといけない気がして、どうにかして言葉を探すけれど
「えっと・・・・・・・・あ!さっきの、メイド長さんの礼って」
口から出てきたのは、さっきのメイド長さんの礼について
いま聞かなくても!って、頭のなかがさらにパニック状態になるけれど、メイド長さんは気にすることなく
「臣下から主への礼ですわ。初めて主への目通りが叶った臣下から、お仕えできて光栄ですとの感謝と、幾久しくお仕えできるようにとの願いを込めて」
「そうなんですね・・・・・・・・でも、ずっとするんですか?姿勢ツラいですよね?」
「お気遣いありがとうございます。ですが、主の許しをいただいて姿勢を正すことには、主の命に従うとの意味がございますわ」
(なるほど、だから「主の許可」が必要なんだ)
わたしが言うまでメイド長さんが姿勢を崩さなかった意味が理解できて、すっきりしたわたしとは対照的に
「ルリたちは、優愛さまに臣下の礼を取らなかったのですわね」
「え・・・・・・・・・?」
思いがけないメイド長の言葉に、両目をしぱしぱさせてしまう。
ルリさんたちにも、さっと緊張が走って
「あの・・・・・・・・?」
「レオリード殿下より、優愛さまのご負担になることは避けるように、と申し付かっております。ルリたちはその命を守ったのでしょう」
そう続けられた言葉からは、なんの感情も読み取れないし、怒っている様子もないけれど、ルリさんたちは固まって
「えっと、はい。そうだと思います」
わたしも、畏まった態度を取られると困ってしまうから、メイド長さんの言葉にこくこく頷く
メイド長さんは、にこりと微笑んで
(なんだろう?)
なんだか、なにか起こりそうな
穏やかではいられなくなりそうな、予感がした
最後までお読みいただき、ありがとうございます
次話は8月3日投稿予定です。
お楽しみいただけると幸いです。




