馬子にも衣装
「明日は、優愛に案内したい場所があるんだ」
「案内したい場所、ですか?」
「ああ。この部屋からは少し離れているが、優愛はこの部屋からほとんど外へ出ないだろう?城の外へは無理だが、良ければ」
首を傾げると、レオンさんににこりと微笑まれる。
シスツィーアさんの記憶がないことを聞いて、ルリさんにあのメイドさんを罰しないように頼んで、10日ほど経ったお茶の時間
あれから、ルリさんはいつもと変りなく接してくれるけれど、あのメイドさんの姿は見ることはなくなった。
(大丈夫だよね・・・・・・・・・?)
わたしのせいで誰かが処罰されるなんて、どうしても嫌
だけど、その話題を持ち出すのも気が進まなくて
サラ先生とオルレン先生は何も知らないのか、授業も変わったと感じることはなく、いつもと同じ日常
わたしからルリさんへはあえて触れずにいたけれど、心のもやもやはずっと続いたままだったし、それがレオンさんに伝わってしまったのか、気分を変えようと気にかけてくれてくれたのだろう。
「えっと、わかりました」
「では、明日は少し早く迎えに来る」
そう言ってレオンさんが帰っていくと、ルリさんがお茶のお代わりを注いでくれて
「明日はどちらへ案内してくださるのでしょう?楽しみですわね」
「ルリさんも聞いてないんですか?」
「ええ」
リさんはうきうきと楽しそうに笑いながら
「優愛さま、明日はドレスをお召しになってはいかがでしょう?」
「え?」
「そろそろ、優愛さまのお召し物を洗濯させていただければと思いまして」
「えっと、ブラウスは毎日洗ってもらってますよ?」
オルレン先生の授業はともかく、サラ先生の授業は「裾さばきも必要だから」とドレスで行うようになっていたし、洗濯するとどうしても服が傷むからって、ルリさんがブラウスは数枚仕立ててくれていたから、それを使わせてもらっている。
「ええ。ですが、スカートもお洗濯させてくださいませ。それに、ドレスを着ての所作もずいぶんと上達されました。レオリード殿下にお勉強の成果を見ていただいてはいかがですか?」
いつになく引かないルリさん
(やっぱり、この制服だとダメなのかな・・・・・・・・)
通う予定になっている学園も制服って聞いているけれど、それはこの国の制服だから許されて、わたしが着てきたこの制服は嫌がられてるってことだよね?
(それとも、レオンさんを喜ばせたいのかな・・・・・・・・・・)
レオンさんにはドレス姿を見せたことはない。
恥ずかしいって言うのもだけれど、この世界に馴染んでますよって宣言しているみたいで抵抗があって
だけど、この世界に早く馴染んで欲しいって、ルリさんたちの気持ちが透けて見えるようで
俯いてしまったら、ルリさんは慌てたように
「申し訳ありません。その、優愛さまのお召し物はわたくしたちにとって見慣れないものですから、いくら王宮内とは言え、優愛さまのことを知らぬ者たちも多く、好奇の目を避けた方が良いと思いまして」
「あ・・・・・・・・」
そう言われてみれば、もうすぐ学園が夏季休暇に入るから、学園に通うのは休暇明けにしようって、レオンさんに言われていた。
(それに、王宮内でも限られた人しかわたしの存在は知らないし、学園に通うまでは秘密にするって)
説明されていたのに、すっかり忘れていて
悪い方へ考えていたことに、かぁぁって顔が赤くなる。
「えっと・・・・・・・お洗濯、お願いします」
「お任せください。そうですわ。よろしければ、これから衣裳部屋でドレスを選びませんか?」
にこにこと言われて、衣裳部屋へ案内してもらう。
授業で使うドレスはルリさんに選んでもらっていたから、はじめて入る衣裳部屋は想像よりも広くて
(わたしの部屋の半分くらいあるよね?)
今使わせてもらっているお部屋も十分広いのに
「広いですね・・・・。それに、こんなにあるんですか・・・・?」
それだけじゃなくて、ドレスも何着もあって驚いた
「少ない方ですわ。優愛さまのお好みもありますし、私どもでひとまずはご用意いたしましたが、お気に召したものはございますか?」
「えっと・・・・」
どれがどう違うのか分からなくて、ドレスを見て固まる。
(たしかに、色とかデザインとか微妙に違うけど・・・・・・・・)
あまりの数の多さに圧倒されて、どれが良いかなんて分からなくて
「あ、これは?」
一番端っこに置いてあったドレスと言うより、ワンピースっぽい服。
(シスツィーアさんが着ていたのも、こんな感じだったよね)
シスツィーアさんのはこれよりもデザインは凝っていたけれど、似ていたら大丈夫だろうって思うけど
「申し訳ありません。そちらはお部屋着ですので」
言いにくそうにルリさんから却下される。
「えっと・・・・・」
(シスツィーアさんの服に似ててもダメってこと?)
細かい違いは分からないけれど、ルリさんに反対されて他の服を見て見るけれど
「えっと・・・・・・・お任せで」
「かしこまりました」
お手上げ状態でお任せすると、ルリさんが3着ほど選んでくれて鏡の前で合わせてくれる
「この中ではどちらがお好きですか?」
「2番目、かな」
2番目に合わせてもらったドレスは薄い青色で、アクセントに白色のレースが付いていて涼し気に見える
それに、窓の外から見える空の色に似ていて、ここ最近のお天気にも合いそうだった。
翌日
お昼ご飯が済むと、ルリさんがドレスを着せてくれて髪も結ってくれた。
この間は三人がかりで準備してもらったけれど、今日はルリさん一人
それでもテキパキとしてくれるから、時間はそうかからなくて
「よくお似合いですわ。装飾品はいかがいたしましょうか?」
「えっと、やめておきます」
アクセサリーも合わせてくれようとしたけど、失くしたら怖いから断った
だけど、ルリさんは少し首を傾げて考えて
「では、こちらだけ」
ドレスに合わせてか、小さな青色の宝石の付いた髪飾りとネックレスをつけてくれた。
昨日は気にしなかったけれど、靴はどうするんだろうって思っていたら、ちゃんと用意してあって
「ふふ。できましたわ」
ルリさんが満足そうに笑って、鏡で全身を写してもらうと
(この間のドレスより、似合ってるかも)
アクセサリーがあった方がないよりも自然に思えたし、陛下と会うからって着せられたドレスより、わたしにしっくり馴染む感じがして
『馬子にも衣装』
そんな言葉が浮かんだ
最後までお読みいただき、ありがとうございます
次話は7月27日投稿予定です。
お楽しみいただけると幸いです。




