目覚め
目が覚めたら、いつもの自分の部屋で
制服に着替えて、お母さんの用意してくれた朝ごはんを食べて、学校へ行って、授業を受ける。
そんな日常だと思ってたのに・・・・・・
(ここ、どこ・・・・?)
わたしのベッドよりふかふかで、滑らかな肌触りのシーツ。
このまま、まだ眠っていたいくらい気持ちがいいけれど、知らない場所は落ち着かないから起き上がる。
まだぼんやりした目を数回瞬きすると、薄いレースで周りを囲まれてて
(えっと、天蓋付きベッド?)
こんなベッドは知らない。
そもそも、眠った覚えもない。
ベッドの上を移動して、レースを持ち上げてみる。
「ひっろ・・・・」
片側しかみてないけど、わたしの部屋が2つくらい入りそうな広さ。
反対側へと移動してみるけれど、そちらも同じくらい広くて、一人用の椅子とテーブルもあるのにそれでも十分に広い。
ベッドも、3~4人は一緒に寝ても大丈夫な大きさ。
(夢じゃなかったんだ・・・・)
ベッドから降りて、置いてあったスリッパを履いて窓に近づく。
そっとカーテンを開くと、小さな池と花壇、それに樹が生い茂ったお庭
花壇には見たことのない花が咲いていて、植えられた樹もだけれど、見せることを意識して綺麗に剪定されている。
だけど、まったく知らない場所
お庭も部屋と同じくらい広くて、景色もとても綺麗だけど
ベッドもふかふかで気持ち良かったけど
(帰りたい・・・・・・)
目にじわりと涙が浮かんで、慌てて手で拭う。
こんな知らない場所、いたくない。
ぼんやりしていた頭が、だんだんとしっかりしてきて
『召喚に応じて下さり』
(あの人、『召喚』って言ってたよね。召喚って)
知らない場所、知らない世界へ呼ばれること
(そんなこと・・・・・・・・・、物語のなかだけだと思ってた・・・・・・)
現実にそんなことが起こるなんて考えたことなくて、これからどうしたら良いのか分からなくて、また涙が溢れてくる。
ぎゅっとカーテンを握りしめて、泣かないように窓の外を睨んでいたら
カチャ
静かに扉が開いて、見覚えのある女性が入ってくる
(えっと・・・・昨日のメイドさ)
「お目覚めでしたか!」
ベッドではなく窓辺にいるわたしに驚き、急いで、けれど足音を立てずに、昨日お世話をしてくれたメイドさんが近づいてくる。
「まだお目覚めではないと思い、ノックもせずに失礼いたしました。ご気分は如何でしょう?」
「えっと・・・・・・大丈夫です」
「すぐに医師をお呼びいたします。それまでもう少しお休みください」
昨日はおっとりしている人みたいだったけれど、今日は勢い込んで言われて、なんだか逆らえなくてベッドに促されてまた横になる。
メイドさんはすぐに部屋を出て行き、また一人きり
(・・・・・・・・・)
もぞもぞとベッドのなかで寝がえりを打ってみるけれど、やっぱり落ち着かない。
メイドさんは10分くらいで戻ってきて、「喉が渇いていませんか?」「お腹は空いてませんか?」「何かして欲しいことは?」と、しきりに尋ねてくれて
「あの・・・・・あなたは?」
「申し訳ありません。ご挨拶が遅くなりました。優愛さま付きとなりました、メイドのルリと申します。どうぞよろしくお願い致します」
そう言って、にこりと笑う。
(あ・・・・・)
なにか頭に引っ掛かりを覚えたけど、すぐに消えてしまう。
「えっと、篠崎 優愛です。はじめまして」
「・・・・・・・はじめまして、お会いできて光栄です」
挨拶はきちんとしないとって、ベッドの上だけどぺこりと頭を下げる。
いまさらだからか、ルリさんは少し変な顔をしたけれど、すぐにまた笑ってくれる。
「えっと、ルリさん?お水とかもらえますか?喉が渇いて」
「どうぞルリとお呼びください。いま、ご用意いたしますね」
いつの間に持って来ていたのか、ワゴンの水差しからコップに水を注いでくれる。
渡されたコップに口をつけると、柑橘系の香りがして微かにレモンのような味がする
ひんやりとしたお水が乾いた喉に心地よくて
思っていた以上に喉が渇いていて、あっという間に飲み干してしまう。
「お代わり、おつぎしますね」
そう言われて貰ったお水も、あっという間に飲んでしまった。
「ごちそうさまでした」
「もうよろしいのですか?」
「はい」
まだ喉が渇いた感じはするけれど、これ以上はお腹がきつい。
グラスをルリさんに返すと
「本当にお腹は空いてませんか?」
「・・・・大丈夫です」
不思議とお腹は空いてなかった。
ここへ来てから紅茶とクッキーを頂いたけれど、ちゃんとしたご飯は昨日のお昼食べたっきりだ。
(たぶん、緊張してお腹空いてないんだよね・・・・・)
用意してもらったとしても、きっと喉を通らない。
(そう言えば)
「あ・・・・あの、わたしが着ていた制服」
「お召し物でしたら、洗濯も終わりましたので衣裳部屋にございます。優愛さまに許可もとらず、勝手をして申し訳ありません」
「あ、構いません。ありがとうございます」
ぺこっと頭を下げる。
(良かった。制服、しわになったら困るしね)
いま来ているのは、ふんわりとした肌触りのワンピースタイプのウェア。
たぶん、この世界のパジャマ?だと思う
誰が着替えさせてくれたのかも気になるけれど、そこは敢えてスルーしよう。
(考えたら、恥ずかしいし)
いつの間にか眠ってしまって、着替えさせてもらったなんて、小さな子どもみたいで恥ずかしい
じわっと顔が赤くなるけれど、ルリさんは何も言わずに距離を保ってくれている。
コンコン
扉をノックする音が聞こえて、ルリさんが急いで扉を開けに行く。
(あれって、往診カバン?)
テレビで見た、お医者さんが持っていそうな、黒色の大きなカバンを持った女性が入ってきて
「初めまして。医師のリーリアです。ご気分は如何ですか?」
「あ、大丈夫です。あの、篠崎 優愛です。はじめまして」
「優愛さまは3日ほど眠ってらしたので、一度診察させて頂きますね」
「3日!?」
「ええ。異世界より来られたんですもの、身体が疲れていたのね。失礼します」
(そんなに眠ってたの!?)
喉が渇いていて当然だし、ルリさんがお腹空いてないかとか、気にかけてくれたのも仕方ない。
リーリア先生が身体を触って、いくつか質問されて。
「お身体に異常は見られません。しばらくは、この世界に馴染めず疲れやすいかもしれませんから、ゆっくりお過ごしくださいね。今日はまだ出歩かず、お部屋で、できればベッドでお過ごしください。また明日参りますわ」
そう言って立ち上がり、ルリさんにも
「今日は、胃に優しいものを召し上がって頂いて」
そう言って、リーリア先生は出て行った。
「3日・・・・・」
よくそんなに寝ていられたなぁと、我ながら感心する。
「お身体に異常がなくて良かったです。スープでもお持ちしますね、すこしお待ちください」
そう言って、ルリさんも出て行った。
最後までお読み下さり、ありがとうございます。
次話もお楽しみいただければ幸いです。