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この世界に慣れるために

レオンさんは、本当にすぐ手配をしてくれた。


翌日のお茶の時間にいつも通りやってきて


「教師が決まった。来週からで大丈夫だろうか?」


楽しそうに言われて、あまりに速い展開にわたしのほうが目を丸くした。


(わたしの気が変わらないように?)


思わずそんなことを思ってしまうくらいの手際の良さだけど、せっかくすぐに手配してくれたんだし、わたしも早い方が余計なこと考えなくてすむからそのままお願いして、翌週には授業が始まることになる。



午前中は礼儀作法、午後から学問をそれぞれ2時間程度教わることになって、先生はそれぞれ違う。



授業はこの部屋ではなくて別の部屋でと言われて、ルリさんに案内されて移動する。とは言っても、二つ隣の部屋。


お勉強用として用意されたようで、テーブルと椅子しかない殺風景な部屋だった。



礼儀作法の先生はまだ20代の女性で、品よく微笑みながら流れるように動いて


「サラ・カーマイトです。よろしくお願いいたします」


カーテシーみたいな礼で挨拶をされて、ぎこちなくお辞儀で返す。


「はじめまして、篠崎 優愛です」

「・・・・・・・・はじめまして」


(また、だ)


一瞬だけど残念そうな顔をされて、すぐににこにこと笑みを浮かべてサラ先生が椅子を勧めてくる。


「よろしければ、少しお喋りしてからはじめませんか?」

「えっと、はい」


予め打ち合わせてあったのか、いつのまにかルリさんがお茶の用意をはじめていて、サラ先生とわたしの前にお茶菓子と一緒に置いていく。


「作法はお気になさらずに。今日は優愛さまのことを教えてくださいませ」

「・・・・・・・・はい」


マナーを気にしなくていいって言ってくれたけど、日本にいたときもマナーなんて特に気にしてお茶を飲んだことなんてない。


(レオンさんとのお茶会でも特に注意されたことないし・・・・・・・・大丈夫だよね)


さすがにレオンさんとのお茶会でマナーがおかしかったら、あとからルリさんが注意してくれたはず


そう思っても緊張して、ぎこちないけれどゆっくりカップを持ち上げてお茶を口に入れる。


「ふふっ。どうか気楽になさってください」

「・・・・・・・・はい」

「なにからお話ししましょう?優愛さまのことをお伺いする前に、わたくしのことをお話いたしましょうか」


サラ先生はわたしの緊張をほぐそうと、楽しそうに話しはじめる。


「わたくしは以前、王宮でメイドをしておりましたの」


結婚して辞めて子育てしていたそうだけど、今回わたしの先生役を打診されて「午前中だけなら」と教えてくれることになったとか。


お子さんは二人で4歳の女の子と2歳の男の子。二人ともお喋り好きで、ずっと喋っていていつも賑やかで


「話好きはわたくしもですけど、主人にも似てしまいましたの」


困ったように笑うけれど、ちっとも困ってなさそう


その旦那さまは以前レオンさんに仕えていて、拗ねると子どもっぽい方なのだとか


「わたくしのことはこれくらいで、優愛さまのことを教えてください」

「えっと・・・・・・・・」


そう言われても何を話せば良いのか分からなくて


(家族のことは、まだ話したくないし)


思いだしたら泣きそうになるから、家族の話はしたくない


黙ってしまったら、サラ先生が気を使ったのか


「優愛さまはお花がお好きと伺いましたわ。どのようなお花がお好みですの?」

「えっと・・・・・・・お部屋に飾ってある、ピンクオレンジの花とか好きですよ」


話題を振ってくれたから、ほっとしてそれに答える。


ときどき、お手本を示すようにゆっくりとカップを持ち上げてお茶を飲んでくれるからそれを真似して、お茶を飲んでお菓子もいただく。


サラ先生の動きをじっと見ていたら、お話が分からなくなるかと思ったけれどそんなことはなく、振ってくれる話題も当たり障りないもので楽しくお話しできた。


「本当なら、もっと年配の方が教師としては良いのでしょうが、優愛さまと歳が近い方が気楽だろうと、今回お話をいただきました。しっかりお教えいたしますから、ご安心くださいね」


頼もしく笑ってくれて、わたしも「お願いします」とつられるように笑って


(朗らかで楽しい方だな)


授業も日本での挨拶の仕方を見せて、先生からここの挨拶のお手本を見せてもらって終わり


帰り際にこっそりと先生がルリさんへ手を振っているのが見えたから、聞いてみたら王宮で働いていたときはルリさんと同じ方に仕えていて、ふたりは仲が良かったそうだ。


「サラ先生は社交好きですから、いろいろな話題を教えてくださいますよ」


くすくすと笑いながら、嬉しそうにルリさんが教えてくれた。




午後からの学問の先生は、この国の『魔道術師団』に所属している魔術師長補佐をしている男性


「オルレン・レザと申します。よろしくお願いいたします」

「篠崎 優愛です。はじめまして」

「はじめまして」


にこりと微笑まれて、綺麗に腰を折って挨拶してくれる。


サラ先生のときように変な顔されることがなくて、わたしもほっとして小さく笑う。


レオンさんとは違うタイプだけれど、物腰は柔らかで丁寧な話し方の眼鏡が印象的な先生


『魔道術師団』?って、初めて聞く言葉に首を傾げたら


「この世界では『魔道具』と呼ばれる道具を使って、人々は生活しています。その『魔道具』に長けた者を『魔道士』。魔道具を動かすための術式を開発する者を『魔術師』と呼んでいて、わたしは魔術師の取りまとめ役の補佐です」

「魔道具?」

「ええ。私たちは『女神の祝福』と呼ばれる魔力を使って生活しています。魔道具は魔力を動力として、私たちの生活が便利になるよう開発されたものですね」


ファンタジー小説のようなことを言われて、この世界がわたしのいたところとは違うんだって思ったら落ち込んでしまったけれど、オルレン先生はそれをどう思ったのか紙に図を描きながら、魔道具とかについて一つ一つ丁寧に教えてくれた。


「言葉では分かりにくかったですね。すみません」


そう言って謝罪されて、なんだか申し訳なくて小さくなってしまったけれど、オルレン先生は気にすることもなくわたしが理解しやすいように、身近なところから教えてくれる。


「最初は、この国の身分制度からご説明しましょう。まず、この国は王制で・・・・・・・」


この国で一番偉いのは国王のアランディール陛下


続いて、王兄のレオンさんと王弟のリオリース殿下と前国王陛下


前国王陛下は退位後、ご夫婦で王家の持つ領地で隠居生活中


その後に公爵・侯爵・伯爵・子爵・男爵と続いて、別枠で辺境伯。あと騎士と魔術師と魔道士が横並びにいて、一番下が平民と呼ばれる一般市民


「オルレン先生は・・・・・その、貴族なんですか?」

「ええ。我が家は侯爵位となります」

「じゃあ、サラ先生も?」

「カーマイト夫人は公爵夫人ですので、私よりも上の身分になりますね」


王宮に出入りできるくらいだから身分の高い人だとは思っていたけれど、オルレン先生もサラ先生も上の身分の人


(もしかして、わたしのお世話をしてくれる人って、みんな貴族なの?)


たらっと、なんだか背中に冷たい汗が流れて


(どうしよう!?わたしが一番身分低いってことだよね!?)


お家に帰れば使用人がいるような人たちにお世話されてるなんて、ものすごく気まずくて仕方がない


「優愛さまは」

「あの!その、さま付けは」


今更だけど「さま」付けで呼ばれることが申し訳なくて、今からでもやめてもらおうと思ったけれど


「優愛さまのご身分としては王族と同等になりますので、私やカーマイト夫人よりも」

「え!?」


(なんで!?)


思い切り顔にそう書いてあるのか、オルレン先生が吹き出すのを堪えるように肩を震わせて


「失礼しました。優愛さまは陛下のご要望によって、我々のためにこの世界へとお越しくださったお方。当然ご身分は王族と同等となります」

「そう・・・・・・・・ですか・・・・・・・・」


わたしの身分が思ったよりも高くて、それだけでもいたたまれないけれど、ちゃんと陛下たちがわたしのことをぞんざいに扱わないと分かってほっとする。


「最初から少し根を詰めすぎましたか?申し訳ありません」

「いえ!大丈夫です!」


オルレン先生が気遣わし気にしているから、慌てて手を振って


「そうですか?今日はこの辺りにしても良いのですが」

「続けてください!」


せっかく教えてくれるのに、はじめてから一時間も経ってない


勢い込んで言ったからか、オルレン先生はふっと微笑むと


「では、この国の文字を覚えていきましょう。基本的に使う文字は・・・・・・・」


そう言って、授業を続けてくれた。





「では、明日の授業までに、ご自分の名前を書けるように練習なさってくださいね」

「はい。ありがとうございました」


オルレン先生にもらったお手本を見ながら、部屋に戻って文字の練習をはじめる


サラさんは「少しくらい休憩なさっても」と言ってくれたけれど、ちょっとでもやる気があるうちにしたかったから、紙とペンを用意してもらって


(でも、どうしてだろう?)


文字は初めて見るのに、まるで知っていたのに忘れていたみたいな感じで、教えてもらったらすんなりと読めた


「古典の崩し文字みたいなのとアルファベットみたいな感じだから、なんとなく読めるんだろうけど」


書くのはそうはいかずに、なんだか文字のお勉強をはじめたばかりの子どもより酷い


それでも、サラさんは「すごいですわ!」と褒めてくれた。


大袈裟だなぁって思ったけれど、それでも嬉しくて


(そう言えば、オルレン先生はそこまで驚いてないみたいだったけど)


わたしが文字をすんなり理解しても、オルレン先生はピクッと眉が上がったくらいで、そこまで大きな反応は見せなかった。


(わたしの気のせい?)


「男の人ってあんな感じ?それとも、あんまり隙を見せないようにしてるのかな?」


お兄ちゃんはどちらかと言えば大げさにするタイプだったし、オルレン先生も物静かだから驚いていても顔にはでないのかもしれない。


それに、レオンさんも陛下もわたしと話すときに声を荒げるとかないし、地位が高い人はそんなものなのかもしれない


深く考える必要はないようで、深く考えたらいけない気もして


また、文字の練習に意識を戻した




最後までお読み下さり、ありがとうございます。

申し訳ありません。今月はなにかと忙しなくて、投稿がゆっくりになります。

次話は来週の投稿予定です。

お楽しみいただければ幸いです。


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