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「おはようございます」


シスツィーアさんへ散々八つ当たりした翌日。


目は覚めていたけど、まだベッドでぼんやりしていたら、いつの間にかルリさんがやって来た。


カーテンを開けてくれると、さぁっと朝日が入ってきて一気に部屋が明るくなる。


「ご気分は如何でしょう?」


にこにこといつも通りに接してくれて、じわっと泣きそうになる。


「少し、落ち着きました。ありがとう、ございます」


まだ顔を上げられないけど、ちゃんと返事したからかルリさんの声も弾む。


「良かったですわ。朝食のご用意をいたしますね」


いつもなら食事を載せたワゴンが扉の外に置かれて、それをわたし一人で食べるのだけれど、わたしの様子から大丈夫と判断したのか、ルリさんはテーブルの上に食事を並べ始める。


わたしも「出て行って」とは思わずに、待たせたら申し訳ないと急いで顔を洗いに洗面所へ向かう。


鏡を見ると目が赤くて腫れてて、顔もむくんで恥ずかしくて頬まで赤くなってしまう。


誤魔化すようにごしごしと顔を洗って、制服に着替えて


部屋に戻ると食事の用意が終わっていて、ルリさんが椅子を引いて座らせてくれる。


「どうぞお召し上がりください」

「・・・・・・いただきます」


なるべく顔を上げないように、俯き加減に食べ始める。


昨日までは無理やり食べていたし食べることすら苦痛に感じていたけれど、今日はふんわり焼かれたオムレツやあたたかいパンやスープが美味しいと思えて


「ごちそうさまでした」


お腹いっぱいになったら、心のなかまで満たされた感じがした



朝食後、ソファーに座ってぼんやり外を見ていたら、片付けをすませたルリさんが話しかけてくる。


「優愛さま、良かったらお顔をマッサージさせてくださいませんか?新しいクリームが手に入りまして、香りが良いと評判なんですよ」

「え?」

「さあ、こちらへ」


珍しく強引にドレッサーの前に座らされて、顔にクリームを塗られてマッサージされる。


首とか肩とかも揉んでくれて、思ってたより凝っていたみたいで、クリームの香りも薄荷みたいなスーッとする香りで、終わると身体と一緒に気分まですっきりして軽くなった。


顔のむくみも目の腫れもずいぶんとれて、ついでに軽くお化粧してくれたから、泣いてたことがすっかり誤魔化されて


「あ・・・りがとう、ございます」


おずおずとお礼を言うと、ルリさんはにこりと笑ってくれた。




お茶の時間になると今日もレオンさんが訪ねて来てくれて、ルリさんが綺麗にしてくれたし、少しだけ会うことにした。


「会えて良かった」

「あ・・・・・・・」


嬉しそうに微笑まれて、また小さな花束を手渡されて、お礼を言おうとしたけど言葉に詰まってしまう。


やっぱりレオンさんの顔を見ることができなくて、ずっと顔を伏せたままで、すごく失礼な態度だけど、レオンさんは気にしていないのか


「この間は、異母弟(おとうと)がすまない。アランが言ったことは気にしないでくれ」

「・・・・はい」


気づかわしそうに言われるけど、なんて答えたらいいか分からなくて


話そうとしては口を閉じてを、何回も繰り返す


お茶とお菓子の用意をすると、ルリさんはいつも通り扉辺りに下がっていく。


レオンさんはわたしがなにか言いたそうなのを察してか、お茶にも手を付けないで待っていてくれて


(先に、進まないと)


まだ顔を上げる気持ちにはならないから、伏せたままだけれど


意を決して、ドキドキする心臓を抑えて切り出す。


「あの・・・・・」

「うん」

「わたし・・・元の世界に帰れないなら・・・・この世界のこと・・・・知りたい・・・・です」


起きてから、ずっと考えてたこと。


戻れないなら、この世界で生きるしかないなら、この世界を知ろうって


知りたくない気持ちと、知りたい気持ち


いまは知らないといけないって、無理やりな気持ちが強いけれど、少し進もうって


レオンさんも緊張していたのか、ふっと空気が緩んだ気がして


「決めてくれたんだな」

「えっと・・・・・知ってから、考えてからで・・・・・・・良いなら・・・・」

「もちろんだ。ありがとう」


ちらっと上目遣いにレオンさんを見ると、嬉しそうに笑ってくれている。


それがいたたまれなくて、また顔を伏せて


「すぐに教師を手配しよう。優愛に希望はあるか?」

「えっと・・・・いちからなので・・・・文字とか・・・・・マナーとか」

「そうだな。まずは簡単な学問と礼儀作法から始めよう。そう言えば、優愛はいくつだ?」

「え・・・?じゅうな・・・・あ、18歳になりました」


この世界に召喚されてきた日が、わたしの誕生日だったことを思い出す。


(家に帰ったら、ケーキ買いに行こうって)


朝学校に行く前にお母さんと話したことを思い出して、鼻の奥がツンとして


またじわっと涙が出てきそうになるけれど、レオンさんは気付かないのか気づかない振りをしてくれるのか、何も触れずに頷いて


「なら、リオンと同じ年だな。教師について学んだあとは、学園にも通ってみないか?勉強だけでなく、友人も必要だろう」

「あ、シスツィーアさんにも言われました」

「シスツィーアが?そうか、打ち解けたなら良かった」


どこかほっとしたように肩の力を抜くレオンさん


(昨日の事、知らないのかな?)


シスツィーアさんはレオンさんに告げ口するような人じゃないと思うけれど、レオンさんが知らないみたいでほっとする。


(知られたくないな)


なぜだかシスツィーアさんに八つ当たりしたことを、レオンさんには知られたくなくて話を逸らす。


「あの、リオンさんって?」

「ああ。俺のもう一人の同母弟(おとうと)だ。近いうちに会わせよう」


その後も、「教師に希望はあるか?」とか色々聞かれて、「さっそく手配しよう。ああ、学園の制服も必要だな」と、なんだか張り切ってレオンさんは帰っていった。


ちゃんと言えてほっとしたからかレオンさんの勢いに圧倒されたからか、どっと疲れてベッドに横になることにした。



まだ明るいけれど、カーテンを閉めて一人にしてもらって



横にはなったものの、意識は冴えて眠れそうにはなくて


(レオンさん、喜んでくれてた)


一歩先へ進んで、ほっとする気持ちはあったけれど


それと同時に、なぜだか後戻りできない気持ちが強くなって



(・・・・・これで、良かったんだよ・・・ね・・・)




不安な気持ちが膨らんで、お布団の中でぎゅっと丸くなって自分を抱きしめた


最後までお読みいただき、ありがとうございます

次話は7月5日投稿予定です。

お楽しみいただけると幸いです。

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