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アランの苛立ち

(やっと、眠った)


シスツィーアが眠ったと感じて、アランは静かにベッドから体を起こす。


泣いてはいないけれど、シスツィーアの寝顔は、いつもより愁いを帯びているように見えて


そっとシスツィーアの髪に触れながら、シスツィーアから聞いたお茶会でのできごとを思い出す。



聞けば聞くほど、アランの知る『しのざき ゆあ』なら決して口にすることのない言葉



それほど優愛は傷ついて、余裕がないのだと分かるけれど



(彼女なら、どうするかな・・・・・・)



アランはゆっくりと、過去の『ゆあ』を思い返す




かつて、シスツィーアのなかには、異世界の『しのざき ゆあ』という少女の意識があった。



異世界で原因不明の激痛で苦しんでいた彼女は、この世界でシスツィーアとして生まれ変わった。


そう誰もが思っていたけれど


実際は、激痛で苦しむ原因が『女神の祝福』であることに気が付いたシスツィーアが、その身体を『ゆあ』へと『貸して』いたのだ。



どうしてそうなったのかは誰にも分からず、憶測の域をでない


けれど、いつしかその事実に気が付いた『ゆあ』は、シスツィーアへの罪悪感から『シスツィーアの身体』から去ることを決意した。


アランたちがそのことを知ったのは、シスツィーアの身体を還すために『ゆあ』が手を尽くしたあと


目覚めた『シスツィーア』のなかに『ゆあ』はおらず、シスツィーアの意識は『ゆあ』へ身体を貸した5歳のころのままだった。


そして、異世界の『篠崎 優愛』が苦しむ原因となったのは




「結局は・・・・・・・・・僕たちの罪、だよね」




アランは生まれつき、膨大な『女神の祝福』を授かっていた。


けれど、それは他国から輿入れしてきたアランの母へ、人為的に『女神の祝福と加護』を授けた代償


幼いアランは『女神の祝福』に押しつぶされ、あのままではいずれ死んでいた。


それをどうにかしようと手を尽くした結果、異世界の『篠崎 優愛』へとアランの魔力が流れたのだ。


シスツィーアと『篠崎 優愛』の意識が繋がった原因ははっきりしていないけれど、アランのことが原因であると想像に(かた)くない。


だから、すべてはアランために引き起こされたことになるのだけれど・・・・・・・・






「だからって、どうしてツィーアを傷つけるのさ」


優愛が不安で、シスツィーアに八つ当たりしたのは分かるけれど、それとこれとは別だ。


いくらなんでも、言って良いことと悪いことがある。



『『陛下と一緒になりたいっていったら、どうする?』って』





シスツィーアからしてみたら、『アランと引き離す』と言われたのだから、恩を仇で返されたも同然だ



(んっとに、腹立つよね)



今日のことだってそうだ


レオリードから頼まれたとき、アランはなんだか胸騒ぎがして、「ツィーアの気が進まないなら会わなくて良いよ」と言ったのだけれど


「ううん。もう一週間でしょう?わたしも心配だし、それにアランたちより、わたしの方が優愛もきっと話しやすいわ」


そう言って、すぐに引き受けていた。



アランが居ないところで、シスツィーアが優愛と会うことへの不安はあったけれど、シスツィーアも優愛と話したいと言ったから、渋々承諾して



だけど、シスツィーアが優愛を大好きでも、記憶のない優愛からしてみればシスツィーアはアランと同じ側の者で、八つ当たりしやすくて文句も言いやすい相手


(傷つくかもってわかっていながら会わせた、僕の落ち度だよね)



アランにはシスツィーアを護れなかった後悔しかなくて、深いため息が零れる。





そもそも、シスツィーアはとてもあやうい


ずっと眠っていて起きたら18歳だったから仕方ないが、誰かに『貴族だから』と言われると、「そんなものなのね」と疑わずに素直に信じて受け入れてしまう。


それが、シスツィーアにとって傷つくようなことであっても、だ。


(素直なとこが、ツィーアの良いとこなんだけど)


他人を疑うことなく、ふわふわと幸せそうに笑うシスツィーアのことが愛おしいけど、柔らかな心は傷つきやすくて危なっかしくて


せめて、アランにくらい感情をぶつけて欲しいのに、シスツィーアは傷ついたとしてもアランの前で泣くことはないし、弱音を吐くこともない。


アランに心配をかけたくないからだと分かるけれど、そんなシスツィーアにアランはいつもやきもきしているのだ。




「・・・・・・・・これからどうしよう」


ため息を吐きながら、アランは眠るシスツィーアへと視線を向ける。


シスツィーアが優愛に言われたことで傷ついたのは事実だ。


アランのなかに、本心から言ったわけではないと分かっていても、優愛に対する怒りがふつふつと湧いてきてもいる。


(ばか)


シスツィーアは優愛にとっての恩人


けれど、そのことすら優愛は覚えていない


仕方がないと分かっていても、アランのなかの苛立ちは止まらない。


(優愛が覚えてくれていたら、こんな面倒なことにはならなかったのに)



アランはシスツィーアの身体にいた『しのざき ゆあ』と、召喚した『篠崎 優愛』が同一人物だと疑っていないけれど、本人が覚えていない以上、違う可能性だって全くないとも言い切れない。



思いだして欲しいとも思うけれど、その反面、シスツィーアが言ったように、優愛にこの世界でのつらい記憶がなかったことに安堵もしている。



いろんなことがごちゃごちゃとして、雁字搦め(がんじからめ)になるけれど



「僕は、ツィーアと離れる気はないからね」



『シスツィーア』の身体に『篠崎 優愛』の意識が入ることになったことだって、アランたちのせい

 


『優愛』がこの国へ召喚されてきたのも、アランたちの都合



優愛がシスツィーアを傷つけたことだって、アランの優愛への配慮が足りなかったことが原因



それが分かっているからこそ、アランに優愛を怒る権利なんてない



だけど、それでも腹の虫はおさまらないのだ。



「やっぱ、優愛のことは兄上に任せよ」



優愛を召喚したことを後悔もしてない


この国のために必要なことをしたのだ。


優愛に対する申し訳無さはあるけど、それよりも愛する人(シスツィーア)の方が大切


少しでもシスツィーアが心穏やかに暮らせるように、シスツィーアの不安を解消したい


そう行きつくと、すっきりとして


アランはベッドへ戻ると、シスツィーアをぎゅっと抱きしめて眠りについた。



最後までお読みいただき、ありがとうございます

次話は7月3日投稿予定です。

お楽しみいただけると幸いです。

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