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シスツィーアの気持ち

「ツィーア、どうしたの?部屋暗いままだよ?」

「え・・・・・・?」


優愛が眠ったあと、しばらくベッドに座って様子を見ていたシスツィーアだけど、深く眠っている優愛の邪魔をしないように、王宮にある自室へ戻っていた。


ソファーのうえでお行儀悪いけれど、足を立てて膝に顔を埋めて


どれくらいそうしていたのかは分からないけれど、いつのまにか陽は暮れていて、灯りがともっていない部屋は真っ暗で、アランの声は聞こえても姿は見えない。


「ん」


ぱっと明かりがついて部屋のなかが明るくなると、シスツィーアは眩しくて数度瞬きをする。


ゆっくりと明るさに慣れてくると、片足をついて、心配そうにシスツィーアを見上げるアランが居て


「おかえりなさい」

「ん。ただいま」


シスツィーアが微笑むと、アランも笑みを返して隣に座る。


「どうかした?珍しいよね、この部屋にいるの」

「うん・・・・・」


いまシスツィーアがいる部屋は王宮で私室として与えられた部屋だけれど、シスツィーアはいつもアランの部屋で過ごす。


シスツィーアは『妃』ではないから、本来なら王宮に部屋を与えられることはないけれど、アランが家臣たちの反対を押し切ってシスツィーアを王宮に招き、そしてアランの部屋で過ごすうちに家臣が折れて、この部屋が与えられたのだ。


「帰ったらいないから驚いたよ。具合悪い?医師呼ばなくて大丈夫?」

「大丈夫よ。ごめんなさい、心配かけて」


アランが帰って来たときに、いつも笑顔で出迎えることがシスツィーアの日課


それなのに今日は部屋にいないし、伝言も書置きもないことにアランは訝しく思い、急いでこの部屋へと来た。


シスツィーアが椅子に座り直すと、アランは彼女の肩を抱き寄せる。


「優愛と会ったんだろ?どうだった?」

「うん・・・・・・」


ぎゅっとアランの腕にしがみつき、シスツィーアが顔を埋める。


今日、シスツィーアが優愛へ会いに行ったのはアランも知っている。


あの日からずっとレオリードの面会を断り、メイドたちの世話も拒否して引きこもっている優愛のことを心配して、レオリードがシスツィーアに頼んだのだ。


「喧嘩した?」

「してないわ。・・・・ただね、わたしはアランが大好きで一緒に居られて嬉しいけど、離れたらきっと寂しくて、泣いちゃうって思って」


顔を上げずに言うシスツィーア。


元気はないし泣きそうな声に、アランは嫌な予感が広がりながらも優しく尋ねる。


「・・・・・なに言われたの?」

「・・・・・・・・『陛下と一緒になりたいっていったら、どうする?』って」

「なっ!・・・・・・ばかなの!?」


思わず立ち上がりかけて、シスツィーアに引っ張られて、アランはまたソファーに座りなおす。


「本心からじゃないわ。わかるでしょう?」

「そうだけど!けど、どうして、自分を追い詰めるのさ」


『記憶がない』から、レオリードのことをなんとも思ってないのは分かる。


だけど、勝手に召喚したアランとだなんて、嫌がらせで言ったにしても、結局傷つくのは自分だと分からないのかと腹立たしい。


「でもね、アランが王さまになった時に『王妃が必要』って、何人か候補の方がいたでしょう?わたしね、その時は『仕方ないわ』って、あんまり悲しいとか感じなかったの。だけど、優愛に言われてね。アランと優愛、両方ともわたしから離れちゃったら、寂しくて悲しくて・・・・・嫌だなって、泣いちゃうなって思ったの」


ぎゅっとアランにしがみ付く。


この部屋に来たのも『優愛とアランが結婚したら、アランの部屋にいることはできないわ』と思ってのこと


アランの部屋でも、一人で過ごす時間はいつも退屈で仕方ないけど、『早く帰ってきて』って思いながら、アランが嬉しそうに「ただいま」って言ってくれるのを楽しみにしている。


だけど、アランが帰ってこない部屋に、一人でいるのは悲しくて


毎日会えなくなるかもって、そう思ったら泣きそうになって


それでぼんやりしていたのだ。


「そんなことにはならないし、僕はツィーアと離れるつもりないよ」

「ええ・・・・・・・・」


シスツィーアの耳元で優しく囁いても、シスツィーアの声は曇ったまま


アランのことが信じられないわけではない


けれど、シスツィーアとの婚姻は反対されていても、アランと優愛の婚姻を反対する者はきっといない。


レオリードのことがあるから、アランが優愛と婚姻を結ぶことはないと分かっているけれど、この国のために必要とあればアランが優愛と婚姻する可能性だってある


そう考えたら、シスツィーアは切なくて、悲しくて


「両親ともう会えないって、会わない方が良いって言われた時には、なにも感じなかったのにね」


目覚めて「両親とは会うな」とアルツィードから言われて、アランも頷くからそれが良いのだと信じて疑わなかった。


シスツィーアも不思議と、そこまで両親に『会いたい』とも思わなかった。


だけど、アランと会えなくなるのはどうしても受け入れたくなくて


「レオリード殿下は、きっと今すごく悲しいでしょうね」


想像しただけで悲しくて、胸が苦しいのに


好きでずっと忘れられなくて


やっと再会しても、優愛は覚えてなくて


結婚も嫌がられて


それでも優愛のことを一番に考えて


すごく一途で、強い人だとシスツィーアは思う。


「そうだね」


アランも頷いて、ぎゅっとシスツィーアを抱きしめる手に力が籠る。


アランの腕のなかはあたたかくて、シスツィーアの不安をゆるゆると溶かしてくれるけれど


(いやって、思ったらいけないのに)


こちらの都合で召喚したのに


いい迷惑なのは優愛なのに


『優愛』を召喚する前の、楽しみな気持ちが薄れていって


シスツィーアの心のなかはざわついて、不安な想いが消え去ることはなかった。








最後までお読みいただき、ありがとうございます

次話は7月1日投稿予定です。

お楽しみいただけると幸いです。

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