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『ゆあ』への想い

「ごめん、兄上。僕・・・・・・・・・」

「いいさ。少し冷静になろう」


優愛が立ち去ったあと、給仕にお茶を入れ替えさせてレオリードはゆっくりと口に含む。


『女神セフィリア』の実を使った、かつての『ゆあ』が好きだったお茶


もちろんレオリードも一緒にお茶の時間を過ごす時に用意させたこともあったが、優愛がなにか思いだした素振りは見当たらなかった。


それは今日も同じで


(『彼女』と優愛は違うと、わかっていたはずだ)


『ゆあ』と『優愛』は同じでも、同じではない


シスツィーアの身体を借りてこの世界で生きていた、レオリードが恋した女性(ゆあ)


彼女はアランのためにその人生を歪められ、その原因をつくったのはレオリードだった。


それでも、彼女はレオリードを責めることなく赦してくれて


だけど、自らの存在が『歪』なものだと、その『歪』さを解消するために彼女はこの世界との別れを選んだ。


そのときのことを思い出すだけで、レオリードを絶望と喪失感が襲い、自分を赦すことなど到底できず


(もう・・・・・・あんな思いはたくさんだ)


『ゆあ』に対して抱いている罪悪感を、『優愛』で贖おうと思っているわけではない。


今度こそ彼女には幸せになって欲しい


それがレオリードの願いなはずなのに、『ゆあ』に対する未練が断ち切れなくてどうしても重ねてしまう


(優愛に対して失礼なことだと、自分を戒めていたはずだったが)


それでも無意識に重ねていたことが情けなくて、レオリードは自嘲するしかなかった。








「けど、これからどうしよっか」

「どうするって?」


アランがお茶の入ったカップを見つめながら言うと、シスツィーアが首を傾げる。


「いや、優愛にどうやって受け入れてもらおうかって話」

「この世界で生きる以外ないんですもの、少しずつ受け入れてくれるわよ」

「それはそうかもしれないけどさ・・・・・・・・・・」


アランが口ごもり、ちらっとレオリードを盗み見る。


『将来を約束した人がいた?』


シスツィーアの言葉に、優愛は返事をしなかった。


そのことがアランは引っかかっていて、けれど口に出せばレオリードが傷つくと思って言えずにいる。


レオリードもアランの様子から言いたいことを察したのか、苦笑して


「アラン、気にしなくて良い。元の世界に恋人がいたとしても仕方ない」


ずきりと心は痛むが、レオリードも理解できないわけではない。


「うん。ホントに好きな人がいたなら、また、彼女を傷つけたなって・・・・・」

「大丈夫だと思うわ。恋人がいたなら、もっと前に分かるもの」

「なんでわかるのさ?」

「好きな人とずっと会えなかったら、悲しくて泣いてしまうもの。レオリード殿下とお茶したりなんて、絶対にできないわ」


妙な自信をもって断言するシスツィーアに、二人はあっけにとられるしかない。


「それよりも重要なのは、レオリード殿下の事を優愛が好きになってくれるかよ」


お茶を飲みながら、シスツィーアがクッキーをつまむ。


「優愛がレオリード殿下と恋仲になってくれれば、解決するわ」

「いや・・・・そうだけどさ」

「記憶がなくても、また同じ人と恋に落ちるなんて素敵じゃない?恋の物語みたいで」


うっとりとした顔で微笑むシスツィーアに、レオリードは戸惑う


「あ・・・いや・・・・」

「殿下の腕のみせどころね」


『ゆあ』はレオリードと、恋人同士だったわけではない。


レオリードは一目惚れだったし、彼女がいなくなってからもずっと忘れられなかった。


だけど、『ゆあ』から好きと言われたことはなく、アランが「兄上のこと好きだったよ」と教えてくれただけだ。


(俺のどこを好きになってくれたのか分からないし、何をしたらいいのか・・・・)


彼女に振り向いてもらいたいが、勝手にこの世界に召喚するなど優愛から恨まれても仕方のないことをしているのだ


(嫌われては・・・・・・・いないと思うが)


けれど、優愛が心からレオリードと打ち解けていないことくらい分かる。


「優愛は不安でいっぱいなのよ。この世界のことが分からないんですもの。わたしたちが言ったことに従うしかないって、きっと考えているわ」

「そうだな」


アランにもレオリードにもそのつもりはないが、優愛がそう考えていても仕方ない。


だけど、生きるためだけにレオリードと婚姻を結ぶことだけはして欲しくなかった。


(そんなことをしたら、優愛を不幸にしてしまう)


かつてのレオリードは『ゆあ』への贖罪だと、彼女と一緒になることを諦めた。


けれど、いまは違う


アランが行った『召喚の儀式』で奇跡的に再会できた。


レオリードは優愛のことがなにより大切で、もう離れたくはないし、一緒に幸せになりたい


これから先の、優愛との関係をどう築いていこうかと考え込み始めたレオリード


「レオリード殿下の頑張りどころね」


シスツィーアが嬉しそうに微笑んだ。





最後までお読みいただき、ありがとうございます

次話は6月27日投稿予定です。

お楽しみいただけると幸いです。

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