迷路
陛下たちとの謁見の翌日
レオンさんはいつも通りお茶の時間に会いに来てくれたけど、会いたくなくて帰ってもらった。
昨日、部屋に戻ってから、ぐるぐるになった気持ちを整理したいけど上手くいかなくて。
それどころか、陛下の言葉一つ一つに考え込んでしまっていた。
『兄上と結婚して』
わたしと結婚して、レオンさんにどんなメリットがあるの?
『女神の祝福を受けた子孫を残した。それが王族』
わたしだけじゃなくて、わたしの子どもも利用されることになる
(王族と結婚して生まれるから、わたしの子どもは「王族」ってことになるんだよね?)
この国の『王族』なら、この国のために尽くすのは当たり前って感覚なのかもしれないけど、生まれてくる子の人生を、勝手に決めるだなんて許せるはずない。
それに、王族の誰かとの結婚が必要ってことなら、レオンさんじゃなくても良いはずなのに、『レオンさん』と指名されている理由も分からない。
(現に、レオンさんだって『俺との婚姻は考えなくていい』って言ってたし)
けれど、初めて会った時から、親切で優しかったレオンさん。
(それが打算からくるものだったら?)
ずっと嬉しそうにしていたのも、わたしと結婚することでレオンさんにメリットがあるからなら、納得できる。
(だから、嬉しくて親切にしてくれた)
ズキッと、裏切られたような気持がして心が痛くなる。
親切にしてくれたことを、疑いたくない
だけど『婚姻は考えなくて良い』って言ってくれたことだって、わたしを騙すためなら?
わたしを無理やり従わせることだってできるだろうけど、人の目があってそれはしたくなくて
優しくして、わたしが自分から協力するように仕向けた
(それなら、納得できる)
ひょっとして、わたしの産んだ子どもが次の王さまとか?
さすがにそれは考えすぎかな?
けど、ルリさんが身の回りのお世話をしてくれるのも
リーリア先生が体調見てくれるのも
ここでこんな好待遇を受けているのは、全部わたしを利用するため。
そう考えたら、みんなに嫌な態度を取りそうで、昨日からずっと一人にしてもらってる。
お風呂はシャワーで良かったし、食事は食べたくはなかったけれど、食べずにいて余計な干渉されるのが嫌で、ワゴンに乗せて部屋の入口に置いて合図してもらって、食べ終わったらワゴンごと扉の外に置いている。
昨日はお休みだったルリさんが、朝から心配そうに扉の外から声を掛けてきたけれど、他のメイドさんから聞いたんだろう。なにも答えずにいたら、それからは話しかけられることもなかった。
心配してくれたのに無視したことで、ちくりと罪悪感で胸が痛むけど
(・・・・・・・・・・誰とも、話したくない・・・・・・・・)
『衣食住の心配はしなくていい』
レオンさんの言葉の通り、待遇は変わってない。
まだ、昨日の今日だからかもしれないけど、いつまで?
わたしが『嫌』ってはっきり拒否したら、きっと待遇は変わる。
だって、利用できないならこんなに手厚くする理由ないもの。
けれど、ここから追い出されたらどうやって生活したら良いの?
元の世界には戻れないって言われたし、この世界の常識とか知らないし生きていけるの?
そんな風にぐるぐるになって、そしたらやっぱり協力するしかなくて
でも勝手に呼びつけて利用されることに納得いかなくて、悔しくて協力したくなくて。
『この世界のことを知って』
この世界を知ってしまったら、なし崩しに協力してしまう。
だって、お世話してくれるメイドさんたちも、みんな親切にしてくれている。
レオンさんも優しくしてくれて、『ほっとけない』とか『できることなら、してもいいかな』とか、一度でも思ってしまったら、協力したくないのに協力しないことに罪悪感を感じてしまう。
(嫌だな)
ここにいたら、『協力しない』なんて選択肢、どこにもないじゃない。
だけど、行く場所なんてない。
そんなことをぐるぐると考えて
ずっと、答えは出ないまま
だけど・・・・・・・・・・・・・
最後までお読みいただき、ありがとうございます
次話は6月25日投稿予定です。
お楽しみいただけると幸いです。




