川の流れのように(物理)
何事も、まずは挑戦が大事だと言う。
これは格言だろうか。
それとも蛮勇を見せつけるための決まり文句である可能性も高い。
だが、一つ言える事実ならばある。
「…………この状況に陥った相手に、使う言葉ではないよな」
『言葉選びが間違いだったのでしょうか、マイマスター』
メガヘルツがしょんぼりしているが、まぁ今回は仕方ない節もある。
この状況で『慰めて』と言っても無理があるだろう。
「そもそもなんで今、僕はこんな地獄みたいな谷底にいると思う?」
『目的地を目指したからでは?』
「そういう煽ってる感じの言い方やめろや」
そう、確かに目的地を目指してこんなことになっている。
時は、1時間前に遡る………
☆★☆
「っていうか、『ナビ』なんて言ってるけど、どっかアテがあるのか?メガヘルツ」
今の僕らは、安定した拠点発見のために旅を続けていた。
『アテならありますよ、マイマスター。元緊急用軍事基地なら、食料もあり、危険から身を守ることも容易です』
「え、なんでそんな流暢に喋れてんの?さっきめっちゃ機械音声だったじゃん!!」
『最初の登場はAI感を出した方がいいかなー、と思いまして……』
「最初の登場?どゆこと?」
『そんなことはどうでもいいんですよ。私のナビによれば、直近でもあと数十キロありますから、徒歩なんですし適度に休憩を挟んで進んでくださいね』
「忠告ありがと。まだもうちょっといけるはず…….っとと」
足元がおぼつかない。
ここ数時間は無言で歩き続けてきた。
『そろそろ休憩を挟みましょう。このままだと危険です』
「危険って、具体的には?」
『無傷約62%、転倒約28%、転落約3%、死亡約2%、その他約5%です』
「さすがだメガヘルツ。超細かすぎてびっくりしたよ」
『それほどでも』
「褒めてねぇからな?早めに休憩場所を探そう」
『付近をスキャン………西南西側にある河辺がおすすめです。安全性約97%』
「よっしゃ、行くかぁ」
河辺に近寄り、手近な小岩に腰掛ける。
その瞬間、なんか、グラッときた。
(なんだろ……貧血………………?)
その思考を最後に、俺の思考が途切れた。
☆★☆
「とりあえず、今まで歩いてきた道のりが、川の流れに乗ったせいでリセットされた。と?」
『約数キロと推測されます』
(まずまず、なんで俺はあそこで倒れた?それに、川の流れでそこまで………?)
いや、今はそんなこといい。
川に流されて一命を取り留めている方が奇跡に近い。
こんな世界に俺を転生させた神様だが、そんな鬼畜な神様でも少しは良心があったらしい。
まぁ、無神論者だから神様とか気にしてないけどね。
「じゃあ、また基地に向かうんだろ?まずここから這い上がらないとダメじゃないか」
『そのことですが………』
空中モニター的なものにマップが映し出された。
「うおっ、すげえ。SFの世界観じゃん」
『前時代的ですね、マイマスター。こんなもの、230年程度前でも当たり前でしたよ』
「らしいな。俺には目新しい物だが」
空中モニターに表示されたある場所。
『ここが基地なんですが………』
立体画像に変化し、土地の高低差が露わとなる。
「つまりこりゃあ………」
『ええ。迂回して遠回りしないと辿り着けません』
「川の流れに沿っていくんじゃ………」
『ダメですね。川が深すぎて人が通れるものじゃありません』
じゃあ、本当に今生きてるのって奇跡なんじゃないか?
足がつかないほど深いって、それ普通に俺沈んで窒息しそうだけど。
「壁よじ登る感じのやつじゃダメなのか?川が深いところは谷の壁面に張り付いて行ったりとか………」
『まさかマイマスターは命綱なしでそんなことできるのですか?』
「…………わかったわかった。そして遠回りしたら、いったい何日かかる?」
『予測ですが最低でも…………休みなし、24時間歩き続ければ2週間程度で到着するでしょう。どうしますか?』
「………もういいよ。一旦休憩だ」
初の一人(+1機)旅、至難極まる旅路になりそうだ…………。