金縛り
三題噺もどき―さんびゃくごじゅうに。
「――――!?」
バチ―と、目が覚める。
普段目覚ましを数回鳴らさないと起きないのに。
なった矢先に止めては寝てを繰り返さないと起きないのに。
「―――??」
今までにない異常さで目覚めた上に、心臓がバクバクと言っているから混乱が頭を支配する。
突然激しく動き出したせいで、勢いよく全身に血が巡り、体が熱くなっていくのが分かる。
「―――?」
何か悪い夢でも見たんだろうか…。
ならばその断片でも覚えて居そうなものなのに、そんなこともない。
夢を見ること自体が珍しいので、それが良いモノであっても悪いモノであっても、見たものは割と残るのだ。
でも今回はそれもない。
「―――」
少しずつ、混乱が落ち着いてきた。
とは言え、心臓はまだバクバクしている。
全く……なんでこんな時間に、こんな思いしないといけないんだ……いや、今何時だ?
「……」
部屋の中が暗いから、夜中ではあるんだろうけど。
若干の遮光が入ったカーテンを使っているので、何とも言えない。
そこまで遮光性は高くないが、この時期は特に何とも言えない。
「……」
はてさて、一体全体何時なんだろう―と思い、枕元にある携帯を確認することにした。
少し肌寒かったので全身が布団の中にすっぽりとおさまっている。
その中から、なんとか腕だけを抜いて―
「―――???」
身体が、動かない。
「―――???」
抜こうとしたのに手がびくともしない。
力は入れているはずなのに、ピクリともしない。
他を試みてみると、どうやら他も全く動かない。
腕はガチリと、体に固定されているようだし。
足はピタリと閉じて、布団に縫い付けられているようだし。
指先なんて感覚すらないんじゃないかという程だ。
―動いているのは心臓だけ。
「―――!?」
眼は開いているが、眼球が動きそうにない。
つい数秒前までは動いていたはずなのに。
天井あたりを見つめたままに、止まっていしまっている。
苦しくはないから、息はしているはず。
―だとしても、体が全く動かないのはおかしい。
訳が分からない。
どういう状況なのかまったく理解ができない。
何が、どうして、こうなって。
「―――!!!!!!?」
混乱のままに何もできずにいると、何かがズシリと、腹のあたりに乗ってきた。
意味の分からないままに、訳の分からないものに乗られた感覚に襲われたせいで、思考がろくに働かなくなる。
「「―――?」
肩口あたりに痛みを覚えた瞬間、腹の重みがふっと軽くなった。
しかし、それも一瞬で。
また重みが、上半身にのしかかる。
―今度は先のところより、上の方。
―私の、顔に、より近い方。
「―――!?!?!?」
すると、目の前の暗闇がゆれた。
天井が広がるはずの視界の中にいつの間にかいた暗闇が。
ぬぅ―と、眼前まで迫ってくる。
「―――???」
え??
声こそ漏れなかったものの。
完全に迫ったそれは、なぜか見知った顔だった。
―とはいえ、その顔は酷くボロボロで傷だらけである。
知った顔でなければ、恐怖で叫んでいたかもしれない。叫ぶことは出来ないが。
「―――?」
でも、おかしい。
この人は。
この間―
「―――!!!!」
突然喉が絞まりだした。
くっきりと手形が残ってしまうんじゃないかと思う程の強さで。
息の根を止めようと。
私を殺そうと―?
この人が??どうして??
「―――」
呼吸ができない。
藻掻くことも出来ない。
叫ぶことも出来ない。
ただひたすらに息が苦しいと言うことだけ。
全体重をかけているのか、腹部のあたりの重みは消えている。
いや、そんなことはどうでもいい。
「―――」
どうして?
どうして。
やさしい人…やさしいあなた……どうして?
どうして私に、こんなことをするの。
どうして。
あなたを失って、暮れていたわたしに。
どうして。
どうして。
どうして。
どうして。
「―――」
徐々に視界が暗くなる。
眼前にあるやさしい人の、あの人の顔が歪んでいく。
―真っ暗で、何も映していないような瞳が見つめてくる。
「―――」
あぁ。
もしかして。
「 」
『本日午前〇時頃、人が死んでいると通報がありました。通報のあったアパート内では、1人の女性の死体を発見しました。死因は窒息とみられています。
―なお、この女性は数日前の事故で恋人を失くしたと言われていますが、その事故に関与したのではないかと疑われていました。』
お題:わからない・叫ぶ・やさしい人