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便利屋ジン。  作者: マメ電9
第一章 相棒結成
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第3話 猫探し その2

 挿絵(By みてみん)


 依頼内容の確認が終わり、飼い猫ネズの写真をもらうと、ルキは先にトレーラーを出て行った。


 早速猫探しを始めるために、二人は外へ出て、ジンは「やる気でねーなー」とボヤき背伸びする。




「あ!しまった。ジンさんちょっと待っててくださいね!お弁当作ったんで持ってきます!」


「お前料理もできたのか!そういえば朝早く起きてたな」


「すぐ戻りますから!」



 フィルはまたトレーラーへ戻る。その間、ジンは軽くストレッチをして待つことにした。

 しかしそれも束の間、遠くの方から中性的な声がどんどんこちらへ向かってくる。



「──ん!ね・・・──さーん!姉さ────ん!!!!!」


 声の元がすごい勢いで土煙をあげ走ってきたのだ。土煙はジンの体をすっぽりと包み込み、あたりの視界は茶色一色になった。


 突然の煙を吸い込んだジンは、気管が拒絶反応起こし咳き込む。



「ゲホっ・・・ケホケホ。あーーもーー面倒臭い奴が来やがった〜〜」


 

 ジンにとってこれは日常的にあることのようで、逃げる体制をとるも既にその人物はジンの側まで戻ってきていた。



「ジンーー!貴方また姉さんのことを誑かしていたな!!」


「だーーもーー!違うって毎度毎度言ってんだろうがよ!ルキはただの依頼者でおれは仕事してんの!文句あるなら、まずお前んちの猫を逃がさないようにするんだなレノ!!」


「そうやって口実を作っているんだろう!姉さんの事は騙せても、何人もそんな嘘を吐く犯罪者を見てきた刑事である僕は騙されないからな!」


「キ────ッ!ウゼェ──!ちょっとは頭使えよーー!」



 自分のことを刑事という彼女の名前はレノ。

 ルキの妹であり、極度のシスコンだ。


 黒髪のショートヘアに赤い瞳、しかし、左目は黒い眼帯で隠している。顔立ちは童顔で可愛らしく、中性的。


 ルキの左目元には涙ボクロがあったが、レノは反対の右目元にあり、黒いスーツ姿でベージュの上着を羽織っている。

 羽織からちらっと光を覗かせるのは、右太ももにベルトで装備してある愛銃リボルバーだ。

 


 その出立ちからか、よく青年に間違えられ、同性からモテるらしい。

 まぁ、同性からモテるに関してはジンも負けていないが、とにかく黙っていればイケメン女子である。


 ・・・・黙っていればの話。



「この辺りでヤバい連中の巣があると睨んで張っていたら、姉さんがお前のトレーラーハウスに行くのが見えたんだからな!これは完璧なる現行犯だ!」


「おーまーえーーー!!いい加減そのルキに対してのIQダダ下がりのおかしな思い込み止めろ!!」



「ジンさん?!どうしたんですか?!すごい声が聞こえてきましたけど」


 ジンがイライラしていると、ちょうどトレーラーからフィルが顔を覗かせる。

 どうやらこの騒ぎ声はトレーラー内にも少し聞こえていたようで、焦って出てきたのだ

 

 フィルに気を取られたレノはジンから視線を逸らす。それをジンは見逃さなかった。



「フィル!仕事任せたぜ!」



 そうはき捨てると、ジンは向かいのビルの壁を駆け上り、そのまま屋上まで行ってどこかへ逃げていってしまった。



「待て!この卑怯者ーー!」



 レノはジンの後を追い、その場にポツンとフィルだけ残されてしまい。まるで嵐が過ぎ去った後のような妙な静けさだけがあった。






⭐︎




「こんなの絶対無理だぁぁぁーー‼︎」



 結局どうしてか一人で猫を探すことになってしまった僕は、とりあえず当てずっぽうで猫がいそうな場所をがむしゃらに探していた。


 茂みの中。ゴミ箱の中。車の下。塀の上。路地裏。食品店の周り。


 でも写真に映る猫の姿はどこにもなく、ただただ疲弊していくだけで、時間もあっという間もう正午を回っていた。



「もぉ、ジンさんどこにいったんだよぉ・・・。手がかりも無しに探せるわけないじゃないか」



 写真に映る『ネズ』という名の猫は、白黒の頭部がハチワレ猫で、右頬に特徴的な模様が入っている。


 (なんか・・・ちょっとジンさんっぽい猫だなこの子)


 そんな事を思いながら道を歩いていると腹の虫が鳴った。



 そういえば、朝から何も食べてなかったんだった。いきなり後は任せたとか言われて慌てて出てきてしまったのもあるし、子供の体になってから特に燃費が悪く感じている。


 少ししかお腹に入らないのに、すぐにお腹が減る。こんなところでも自分の変化した身体に戸惑っていた。



「そろそろお昼にしようかな・・・うん。ここに座ろっと」



 広めの道の端に花壇があったので、そこに腰掛けて白い斜め下げ鞄からお弁当箱を一つ取り出した。


 僕は鞄の中を覗き込み、もう一つのお弁当箱を眺めた。



 このお弁当箱は実はジンさんのだ。

 せっかく作ったのに結局本人に渡せずじまい。このまま持っていたら暑さでダメになりそう。


 でもそんな沢山食べられないしなぁ・・・・などと考えているとまた腹の虫が鳴った。



 いやまて?


 今のは僕のじゃないぞ?



 顔をあげ、キョロキョロと周りを見渡すと、目の前に大人の人が行き倒れていた。




 え・・・?


 まさか、この人・・・・・



「・・・・・(ぎゅるるるるる〜〜〜〜〜)」



 

 人通りの少ない道の真ん中で餓死しかけている大人と、ちょうど食料を持て余している僕。



 流石に、無視するわけにはいかなかった。











「うま!めっちゃおいしっっ!こんな美味しいサンドイッチ初めてだよ!!!!」



 行き倒れのその人を僕の隣に何とか座らせて、ジンさん用に作っていたサンドイッチのお弁当を・・・彼・・・?彼女・・・???に渡した。


 顔立ちは可愛いのだけど、見た目がボーイッシュで声も見た目も中性的なのでちょっと自信が持てない。


 その人は、よっぽどお腹が減っていたのかあっという間にペロリと食べ切ってしまい、指についたソースをぺろっと舐める。



「ご馳走様でした!三日前から何も食べてなくて・・・本当に助かったよありがとう。あぁ、僕の名前はレノ」


「フィルです。ちょうど一人分お弁当余っちゃって、どうしようか悩んでたところだったのでこちらこそ助かりました」


「おや、よかったのかい?お友達とかのじゃなかったの?」


「まぁ渡すつもりで作ったんですけど、一人でどっか行っちゃったんで・・・」


「作った?君が自分で?まだ小さいのに偉いね!君いくつ?どこの子?この辺の子じゃないよね?」


「えっと、、まぁ」



 (んんん?)



「ここで何してたの?」


「ちょっと、探し物・・・?な感じで」


 

 (ンンン??)



「へぇ、探し物ねぇ。ちょうど僕もこの辺りで探し物をしていたところなんだよ」


「あぁ、そうなんですね〜」



 (なんか・・・さっきからこの人・・・・めっちゃグイグイ聞いてくるね??!!)



「君の探し物って何なんだい?良かったら僕も一緒に探すよ」



 子供の身体になって思う事もう一つ。

 大人の人が近づいてくるだけで、こんなに圧を感じるものだったかな!


 距離をジリジリ詰めてくるレノ。僕は流石に尋問じみた質問に恐怖を感じ、視線を逸らした。するとちょうどその先で何かが横切った。



 ピンとたった耳と尻尾。軽やかの足取り。白黒模様のそれは「にゃー」と鳴いて路地裏へと走っていく。



「ああああ────!いた──!!」


「え?!なに?!」


「あああ!えっと、ちょっと急用がっ!じゃぁそういうことで!!」


「ええ?ちょっとフィル君ーー!」



 まさか、向こう側から現れてくれるなんて!こんな絶好なチャンス、絶対逃すもんか!



 レノを置いてけぼりにして、フィルは思い切りダッシュして猫を追いかける。


 猫はそのまま裏路地に入り狭い道の中へと姿を消した。



「ま、まじかぁ・・・」



 この先は子供しか入れないほどの狭い通路。そしてこの先の地区は治安の悪くて有名なスポットでもあった。


 記者時代に、ここを彷徨いて危ない目にあったことがあるので知っている。



 でもここで見失ったら次見つけられる保証は無い。


 仕方ない!



 覚悟を決めた僕はお腹をできるだけ凹ませて、狭い通路を横歩きで通り抜ける。抜けた先は日当たりの悪いじめッとした路地で、密集した建物が太陽の光を遮って昼間とは思えない薄暗い空間が広がっていた。



 嫌なところだ・・・早く猫を捕まえてここから離れたい。

 猫・・・猫はどこ?



 辺りを見渡すと、写真と同じ猫が塀に上がり、トタン屋根の上に飛び乗ろうとしていた。



「ネズちゃん!」



 僕も負けじと、猫の後を追い塀によじ登り、屋根に飛び移った。

 すると、それに驚いた猫は屋根の上で暴れてしまい、腐っていたのかトタンが崩れて猫が落ちそうになった。



「危ない!!」



 咄嗟の事だった。でも体が勝手に動いていて、猫を空中でキャッチしそのまま僕も屋根から落ちてそのまま強く尻餅をついた。


 そこまで高さはなかったものの、思い切りお尻から落ちたのでしばらく痛みに耐えていると、野太い野蛮そうな男の声が鼓膜を揺らす。



「なんだオメェ!どっからきやがった!ここはガキが来るところじゃねぇぞ」



 やばっ!



 背筋がゾッとした。


 顔を上げると、そこは薄暗く、数人の男たちがこちらを見て立っている。


 古びた椅子や机があり、木箱が何個か山積みにされていて、その隙間から布袋のようなものが見えた。


 よく見ると、自分の落ちたところも木箱の上で、蓋が壊れて布から白い粉が破れ出ていた。



 僕は、とんでもない所に落ちてしまったことを察した。



「悪いなクソガキ。ここを見られたからには生きて帰すわけにはいかねぇよなぁ?」



 野太い野蛮そうな声の大男が、こちらに近づいてナイフをチラつかせている。




「──ッ!あ・・・っっ!」



(怖い・・・!声が・・・出ない?!)



 バクバクと激しく鳴る鼓動が鼓膜を打ち鳴らす。




 僕と男の距離まで後数歩というところで、もうダメだと目をギュッと閉じた瞬間。この部屋の扉が突然蹴破られ騒音が響いた。


 瓦礫と煙が漂う中、凛と立つ影が一つ。



 「悪党どもそこまでだ!貴様らの悪行の数々全て僕にはお見通し。正義の元ここでまとめて全員牢獄送りにしてやる!!」




 その姿は、先ほどの行き倒れているものとはまるで別人で、とてもカッコよく見えた。



 「レノさ〜〜〜〜ん!!!」


 「危ないから、君は影に隠れてろ」



 僕は言われた通りに、木箱の裏に隠れて巻き添えを喰らわないように身をこれでもかと小さく丸め猫を守る。



 しかし、相手は男数名、こちらは小柄なレノさん一人。どう見てもレノさんが分が悪い。 それでもレノさんは怯まず、仁王立ちで戦う姿勢を示している。



「ハハハハハ!なーにが正義じゃぁ〜wお前たった一人で何ができるってんだ?テメェこそ冥土に送ってやるよ!!」



 ウオォぉぉ!と雄叫びをあげて一斉攻撃を仕掛ける男達。


 全員刃物を所持していてレノさんに飛びかかった。



「レノさん!!」



 しかし、レノはそれを全て見切り身を逸らして避けていく。

 俊敏な反応に男達も驚いたが、たまたまだと思いもう一度襲いかかる。



「大丈夫。僕は殺しはしないさ・・・そう。殺しは・・・ね?」



 レノは右手を素早く太ももにあるリボルバーに手を掛け、引き抜くと同時に相手の足や手に弾丸をぶち込んだ。


 まさにそれは早業で。目の端で捉えるのがやっと・・・。



「ギャァぁぁっ」と痛みで泣き叫ぶ相手は戦意喪失し、手に持っていたナイフを地面に落とす。




 先ほどの餓死しかけていたのとギャップがありすぎて、僕も驚きを隠せず開いた口が塞がらないでいた。




 全員の足を撃ち抜いたことで、男達は痛みでその場に倒れ込み大人しくなっている。 

 レノは終わったと思い僕の元に寄ろうとしたその時。



 野太く野蛮な声の大男がレノの背後に立っていた!


 肉が分厚かったのか、弾丸のメリ込みが浅かったのか、痛みに耐えたのだ!



 まだ男の気配に気づいてないレノ。いち早くそれに気づいた僕は、思わず叫ぶ。



「後ろ!!レノさん危ない!!」



 でもその忠告は遅く、レノが振り向いたと同時に振りかざされたナイフはすでに振り下ろされていた。








「ったくよ〜。だから言っただろ?頭使えってよ」



 

 それは突然だった。



 僕が落ちてきた屋根の穴から人が飛び降りてきて、キラッと銀に光る刃が大男のナイフを受け止めた。


 

「ジン!」

「ジンさ〜〜〜〜〜〜ん!!」



 短めの直刀を扱うジンがそこに立っていたのだ。


 ジンはそのまま大男のナイフをいなして、腹に峰打ちをかます。さすがの大男も強烈な峰打ちに失神してしまい、その場に倒れ込んでしまった。








 結局、ジンさんが美味しいところを全部掻っ攫う結果となった。

 




⭐︎




「まさか、メンテに出してた忍刀を早速使う羽目になるとはなぁ」


「どこに行ったかと思えば、そういうことだったんですね。僕てっきり仕事が嫌で逃げたのかと思いました」


「助けてもらっといてよく言うよ少年」



 男達は全員警察に連行されていき、麻薬取引のアジトとされていた場所は立ち入り禁止のテープが貼られ入れなくされた。 猫も無事キャリーケースに保護され安心したのか中で眠っている。




 とはいえ、まさかレノさんが刑事だとは全く思わなかった。


 後処理に追われているレノがこちらに気づいて駆け寄ってくる。その表情は緩み、出会った時の雰囲気に戻っていた。



「フィル君!怪我はないかい?」


「はい!大丈夫です」


「よかった。驚いたよ、まさかジンのところの助手だったとは・・・何かされたらすぐ僕に言うんだよ?すぐ駆けつけて僕がしょっ引いてあげるからな」


「あ〜?助けられた奴がなーに言ってんのーー?」


「あぁ???」


「ちょ、ちょっと喧嘩はもうよしてくださいって」




 どうやら犬猿の仲のような二人。


 それでも僕は、なんだか二人とも楽しそうで嬉しそうな・・・なんだかそんな雰囲気を感じた。


 ちょっと新鮮なジンさんの一面も見れて僕も嬉しくなったが・・・・・僕はふと思う。




(ジンさん・・・まだちゃんと僕の名前呼んでくれないんだよなぁ)



「あっすまない!そろそろ後始末行かないと!じゃぁな!」


 レノはそういうと、走って元の作業に戻って行った。



 僕たちも帰った後、ルキさんに猫を引渡しにいき、報酬をもらってなんとか今回の依頼は無事に終えることができた。

 ・・・まぁ色々あったけど。


 こうして、僕の正式な便利屋としての初依頼をほぼ一人でこなすことができたのです。




 次の依頼はなんだろうと、ワクワクした気持ちを抑えその夜は静かに眠りについた。










⭐︎





 往来にまたしても怪獣のような腹の虫の音が響き渡る。



「・・・・・・・・・・・・」


「・・・(ぐーぎゅるるるるるるる)」




 僕は、ふか〜くため息を吐いた後、お昼のサンドイッチを半分に割り彼女のもとに寄る。



 まぁ、そんな変な友達が出来たのも、子供の姿になって良かった事かなと思った。

 



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