第0話その3 入社
これでプロローグは終わりです♪
『何〜?!仕事を失敗しただと?!あのジンが?!しかも一般人を巻き込んでだと??!』
あの広場にいても仕方なかったので、とりあえずジンは僕を連れて寝泊まりしているトレーラーハウスに戻ってきていた。
ジンと呼ばれている彼女は、汚れたソファーに座って端末で今回の依頼人と会話をしている。
僕は座る場所もままならない汚部屋で、唯一座れるであろうPCデスクのギシギシ鳴く椅子に座った。
「まぁまぁ悪かったって!てゆーかこっちだって聞いてないんですけど?鉱石の力で大人が子供になるなんて、何なんだあの工場は!」
『アレは子供の奴隷を作る工場だ。最近そっちで人が行方不明になってたの知らないか?大人を攫って、他国に子供奴隷を売り払ってたのさ』
なるほど・・・僕が追っていたとくダネの真実はそういう事だったのか。
それだと行方不明者が一人も見つからなかったのも合点がいく・・・。
『・・・これは機密情報だったから言いたくなかったんだが、こちらで所有しているいくつかの貴重な素材が紛失していてな。おそらくその内の一つがその鉱石だ』
「はぁ?杜撰すぎんだろ管理・・・。それがゴロつきの手に何故か渡って悪用されてたってのか?ていうか何だよ、身体が縮む鉱石って!実在すんのそんなもんが?」
『まぁその・・・内緒にしてくれよ?俺だってまだ首が繋がってたいんだ』
「そんなヤベェとこ、さっさと辞めた方が身のためだろうに・・・てかあんたさっきいくつかのって言ったか?他にも厄介なのが世に出ちまってるってことかよ」
『・・・・・そうだ』
はぁ〜〜〜とため息をして頭を抱えるジン。
反応から見るにあたって、きっと依頼者からの無茶ぶり的な依頼がこれで初めてではないのだろう。
「も〜わかったからさ、とりあえずこの一般人さんを元に戻す方法教えてくれよ」
呆れて手を振るジェスチャーをするジンだったか、何故か沈黙が流れる。
「ん?どした?」と続けるジンだったが問いかけに返事が無い。電波が悪くなったのかと疑った直後に申し訳なさそうな呟く声がポツっと聞こえた。
『ない』
・・・・・・・・・・は?
「んっん〜。ごめんよ、ちょっと聞こえにくかったな〜もう一回言ってくんない?」
『すまない・・・わからない』
・・・・・・・・・・。
・・・・。
・・・。
「「ハァァ〜〜〜〜?!!?!?!」」
端末のスピーカーからハッキリと「わからない」の言葉が聞こえた僕はジンと一緒に思わず声が出てしまった。
そのまま居ても立ってもいられず、椅子から飛び降り、ジンが持っている端末の近くまで来て問いただした。
「わからないって何ですか?!僕はこれからこの姿のままどうしろっていうんですか???!これじゃぁ会社にも戻れませんよ!!」
唾が飛ぶほどの勢いで早口で喋り出す少年に、少し動揺したのか、電話先の依頼者が言葉に詰まっている。
『でもアレだ・・・鉱石はまだ少年の手元にあるんだろ?その・・・カケラではあるかもしれないが』
男の言う通り、一応カケラは手元に残っているけれど、コインよりも小さなカケラだ。この部屋で落としたらきっともう一生見つからないぐらいの物。
正直、こんなカケラ一つで僕が大人の姿に戻れるなんて到底思えない。
『もしかしたら、そのカケラと同じ鉱石がどこかで見つかるかもしれない。その鉱石は近くに同じものがあると共鳴して光出す特性があるんだ』
「ほ、本当ですか?!同じものがあれば元に戻れますか?!」
『あ〜・・・』
食い気味の僕に対して、曖昧な返事。
よっぽど自信がないのか、不可能に近い可能性なのかわからないけど一応元に戻れると言ってくれた。
正直僕にとってそれは、まぁまぁな安心感だった。
ただ一つ困ったことがある。
・・・・それは
「元に戻るまで、お前どうするつもりなんだよ?」
ジンがそういえば〜みたいな軽いノリで言ってくる。
正直言って僕がこんなことになったのは、あの時この人が鉄骨を投げて工場を壊したせいでもあるのに・・・!
温厚な僕だけど、ちょっとイラッとした。
ただこれからどうするのか、それが今一番の問題であるのは間違いない。
この姿で会社に戻っても摘み出されるに違いないし、身分証明書なんて意味を果たさないだろう。
会社に宿に寝泊まりしていた僕は帰る家すらない状態だった。
ん〜〜〜っと悩んんでいると、端末のスピーカーから一つの名案が出てきた。
『ジン、お前が巻き込んだんだ。責任もってお前が面倒見ればいいんじゃないか?』
「ゲェ〜〜・・・おれぇ?おれは一人でのんびりしたい人間なんだけどなぁ・・・・」
このトレーラーの惨状から見るに、ジンは今まで一人暮らしだったのだろう。ならここは僕の家事スキルが役立つ時!!
「僕!何でもしますよ!!掃除に洗濯、料理に仕事の手伝いも!やれること何でもサポートします!!だからお願いします!元に戻るまででいいんでどうかっ!!」
突然ジンに向かって頭を下げ出す僕に明らか困っている表情をしている。
無理もないけど、相手は6歳ほどの少年。見た目的にはこの絵面はやばい。
何なら「どうか!」と言いなが土下座までしそうな勢いだ。流石のジンもこれには参った。
「あーもー!わかった!わかったからそれ止めろよ。おれがスッゲー悪いやつみてぇじゃねーかよもう・・・」
降参だと言うように、両手をあげてひらひらさせてる。これには思わず笑みが溢れる。
「たーだーし!お前が元に戻るまでだからな!それ以上は面倒見ねぇぞ」
僕の胸に向かって人差し指を突き出して、ツンと指す。
「あ、ありがとうございます!僕、一生懸命頑張ります!」
頭を再び下げると、ジンはまたため息をして頭の後ろを掻いている。
何とか一件落着した空気が出たところで、依頼者の男はまた連絡すると言って電話を切った。
端末を後ろポケットにいれると、ジンは両手でぱちんと鳴らす。
「ほんじゃまぁ、とりあえず自己紹介がまだだっよな。少年は何ていうの名前」
そこは自分から名乗るんじゃないのね・・・と思いながらも一応答えた。
「ぼ、僕は・・・フィルって言います」
「ほ〜ん」
「な・・・何ですか;;」
僕の名前を聞いて、難しい顔をするジン。
え?なに?
僕の名前ってちょっと有名だったりする感じ??
褒めてくれるのかなと期待した後、ジンはいい笑顔で
「いんや?パッとしな名前だなーって思って!」
と清々しく答えた。
「もう!何なんですか一体!!」
「嘘嘘!冗談だって〜本気にすんなよ助手ファール君」
「フィルです!!」
ケラケラ笑いながら、ジンはソファーの上に飛び乗ると、仁王立ちで腕を組んだ。
「では改めまして、おれの名前はジン!ようこそ!我が社、便利屋ジンへ!これからビシバシこき使ってやるから、覚悟しとけよ助手のチル君!!」
トレーラーハウスの窓から夕陽の光線が入り、ちょうどジンにスポットライトを当てる。
これから新しく僕の人生が始まることを祝福してくれているようだった。
ワクワクしている胸に手を置く。
「ジンさん・・・・・・フィルです」