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便利屋ジン。  作者: マメ電9
序章
1/6

第0話その1 運命?出会いは突然に 前編

ジリリリリリ!!



 電話端末から大音量のベル音が狭くて物が散乱している空間に響き渡る。


 糸がほつれまくっているソファで横になっている女が一人。


「う〜ん」と不機嫌そうに唸り声を出しながら、寝たまま手探りで物の中に埋もれて鳴っている端末を探しだす。



「・・・はぁい。こちら何でもお任せ便利屋ジン・・・ってなんだ、またあんたかよ」


『またとは何だ、客に失礼な奴だな』


「へいへい〜・・・んで?今回は何の仕事?猫ちゃん探しならこりごりだからな。しんどすぎ」


『俺は猫アレルギーだ』


「うっそw可哀想にw」


 上半身をなんとか起して黒髪を乱雑に一つ結びした頭をポリポリとかく。


『ふざけてないで、早速本題に入るぞ』


「うわ〜その言い方。絶対めんどくさい仕事なんだろ」


『ふん・・・そうだな。だが簡単な事だ、今からいう場所に行ってある物を取ってくる。それだけでいい』


「やだな〜。詳細は聞くなって雰囲気で言うじゃん・・・危ねぇ仕事なんかじゃねぇだろうなぁ?」


『便利屋なんだろ?金で頼めば何でもするのがお前の仕事だ』


「おっしゃる通りですともお客様〜」




 うんうんと相槌を打ち、分かったと一言言うと電話を切った。


 端末をジーパンのお尻側ポケットにしまうと立ち上がり背伸びをする。


「あ〜〜めんどくさいなぁ〜〜」


 大きな独り言を呟き、物が散乱している床の隙間を縫って出入り口に向かうと、壁に掛けてあったゴーグルを額につけ、茶色い革手袋を装着するとドアノブに手をかけ外に出た。


「うっし。仕事のお時間ですよーと!」



 気合いを入れると近くの建物の屋根までぴょんっと飛び、まるで重力がないように街の上を駆け出していく。


 先ほど言われた場所はそんなに遠くはなく、ジンの足で10分もしない場所だ。


「着いたーっと。ここか」



 屋根から地面に飛び降りると、使われなくなった工場が目の前あった。

 しかし、潰れたとは言っても、人の出入りがあった形跡が見られる。



「とりあえず、バレないように侵入しないとなぁ」



 どこかいい場所がないか探すと、工場の屋根付近に窓がいくつも並んであって、そのうちの一枚だけ換気目的なのか窓が開いている、

 そこに目をつけたジンは「ラッキー」と悪い笑みを浮かべ軽やかに近くに生えている木のてっぺんまで登って行った。





⭐︎





「また君はこんなくだらない記事を書いてきて、こんなんじゃダメに決まってるでしょ〜」


「・・・すみません」


「はぁ、謝られても困るんだよ」



 僕は、小太りの上司の顔を見たくなくて自分の足ばかり見ていた。


 上司の表情はきっと、眉間に皺を寄せて、僕を残念そうな目で見ているに違いない。


 はぁ・・・そろそろ首が凝りそうだ・・・。


 すると別のジャンルの記事を編集しているデスクの方からキャーキャーと声が聞こえてくる。

 ちらっと目を流すと僕の上司は呆れ顔で指をさす。


「ほら見ろ。今月入社してきた新人はもうとくダネを引っ張ってきてるぞ?君はもう5年目だろ?新人に追い抜かれてどんな気分なんだ?ん??」


「・・・すいません」



 返す言葉も無い。


 キラッキラの新人に全部持ってかれて、僕のこんなつまらない記事じゃ・・・・


 上司は突っ立ている僕にイライラしたのか、さっさとネタ探しに行けと外につまみ出された。


 簡単にとくダネとくダネって言うけど、そんな簡単に見つかってたら苦労しないよ・・・。



 とぼとぼと落ち込みながら空気の悪い街の路地を歩いていると、空き缶に躓いて顔から盛大に転んだ。



「いっったぁ〜〜〜もぉ──!!僕だって好きでこんな風になってるわけじゃ無いんですけど!!」



 ぶつけた顔を手で押さえながら、イライラを抑えきれず反対の手で空き缶を拾い地面に叩きつけようとしたその時、路地の傍から住民の世間話が耳に飛び込んできた。

 ピタッと振り上げた手を止めて、その会話を立ち聞きする。


 ただの世間話でしょうもないことが多いけど、意外とこういうところからいいネタに繋がることもある。僕は息を殺し、もっと聞こえやすい位置にサッと移動する。



「三十二番地のあのおじさんね、一昨日から行方不明らしいのよ」

「え〜またぁ?その前は四十番地の奥さんだったでしょ?これで何人目かしら・・・」

「最近行方不明事件が多いわねぇ。もしかして私たちも狙われてるのかしら」

「こんなおばさん攫って何になるのよ。子供だったら言い値で売れるでしょうけど」



 行方不明事件・・・。


 確かに最近よく耳にするネタではあった。行方不明者の数は約20名。全員未だに発見できておらず、足取りも全く掴めていないとか・・・でもそれは探偵や警察の仕事であって僕の出る幕ではな・・────


「でも最近子供達の声がよく聞こえてこない?子供の声って妙に高くて耳障りなのよねぇ。うるさくて仕方ないわ」



 その場を立ち去ろうとした僕の足は、子供達の声というワードで止められた。

 この辺一体は託児所などはなく、複数の子供が集まる施設はないはず。


「あ〜あそこね?昔、鉱石加工工場してたところ。でももう倒産して空の建物しか無かったんじゃなかった?」

「最近はよくトラックが走っていくところ見るけど?あれ、倒産してたの・・・?」

「やだ〜急に怖い話みたいじゃ無いのよ!」



 使われなくなった工場でトラックの出入り。

 

 子供の声。


 住民の行方不明者。



 なんとなく僕は、何か全部関係があるんでは無いかと思い。その場から離れると例の工場へと向かった。


 これは・・・とくダネの匂いがする!!



 突然舞い込んできたとくダネの予感に浮かれ、足は軽やかで風のように走っていた。




 工場に着いた僕は周りを見渡し、誰もいないことを確認すると堂々と正面のドアから工場に入った。


 偶然にも鍵が開いており、そのまま機械が立ち並ぶ影に隠れて2階へと繋がる階段を登る。

 


 やっぱりおかしい。潰れた工場にしては、機械に埃が被っていない。

 つい最近まで使われていたような機械が視界に広がる。


 やっぱりだ・・・ここは何か事件の香りがぷんぷんする。

 きっととくダネに間違いない!


 

 えへへ〜と自然に笑みが溢れる。でも、その笑顔は一瞬で引っ込むこととなった。


 一階で人が現れたのだ。それも複数人の男達。何か会話をしているようだが、ここからだとよく聞こえない。

 何か金のやり取りをしているようにも見えるが・・・。


 男達に視線を向けていると、そのすぐ側にある機械が気になった。

 しゅ〜っと蒸気をあげてポンプが動いている。機械の中心部には大きな円状の鉄製ステージがあって、上部に何やら禍々しく青く光る鉱石が埋め込まれていた。


 初めて見るものに目を奪われていると、僕の体に大きな影が包み込む。



「あーー!!どけどけ──!」


「へ?」


 

 2階の狭い通路の外に面している壁には何枚か空気循環用の窓があり、その一枚の窓から突然、靴が僕の顔面に飛び込んできた。



「ふんグゥ〜〜〜ッっ!?!!」



 猛烈な痛みと衝撃が走り、僕は吹っ飛ばされ埃煙を巻き上げながら転がり悶えていた。



「あちゃ〜やっべ、速攻人に見られちゃったじゃん」


 謝る素振りもない飛び込んできた張本人。

 鼻が折れ曲がったかと思うほどの痛みに耐えながら見上げると、そこには・・・僕よりも男前な女性が立っていた。




 その後、まさか僕の記者人生が大きく変わってしまう事態が起きてしまうなんて・・・



 この時の僕は、全く思いもしなかった。




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