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「あの、川上さんはお母様にどんな気持ちを伝えたいとか、ありますか?」
我ながら『いきなり質問かよ!』とは思ったけど、これが何よりもいちばん大切なのだから仕方ない。
「母に伝えたい気持ちですか…
母には、まず感謝を伝えたいです。僕をここまで育ててくれてありがとうっていう感謝ですね。
それから、いつまでも健康に長生きしてほしいっていうのも伝えたいです。
母は、家事でも町内会の役員でもなんでも、とにかく働くのが好きなんです。
休むよりも、常に動いていたいっていう人なので。
それが病気で寝たきりとか、車椅子生活とか、母にとっては一番辛いと思うんです。だから、いつまでも健康に、幸せに長生きしてほしいです。」
うん、聞いててなんか泣きそうになったわ。
すごくお母様を大切になさってるんだなあっていうのが伝わってくる。
これはぴったりな花を選ばないと。責任重大だ。
「あの、一応質問なんですが、お母様のお誕生日って何日なんですか?」
「誕生日ですか?6月12日です。」
あー、12日かー。残念。
「あの、どうしてですか?」
あ、知らないのか。まあそうだよね。なかなか知ってる人もいないしね。
「『誕生花』というものがあることをご存知ですか?」
「あの、一応質問なんですが、お母様のお誕生日って何日なんですか?」
「誕生花?誕生石なら知ってますけど…」
お、そっちは知ってたのか。なら話が早い。
「誕生石と同じように、花も誕生花というものがあるんです。
月全体の誕生花もありますが、日にちごとにも誕生花があるんです。」
「え、そうなんですか!?知りませんでした。
でもそれなら12日の誕生花を贈れば…」
「あの、それでもいいと思うのですが、お母様は花言葉に詳しい方でしたよね。」
「ええ、そうです。」
「その、12日の誕生花というのは『レセダ』という花なんですが、その花言葉が『見かけ以上の人』という意味なんです。」
「あー…」
「控えめな花ですが匂いもいいので、うちの店でも鉢植えとかは人気なんですけど、ちょっと贈り物には意味的にどうなのかなと思ってしまって…」
そうなのだ。『見かけ以上の人』って…
ちょっと失礼に感じそうな花言葉だ。
「そうですよね。僕もそれはちょっと…」
「じゃあ6月の誕生花で良さそうなものを候補に挙げますね。」
「あの、アジサイってどうなんですか?」
ん?どうなんですかとは?
「6月って梅雨じゃないですか。それで僕、梅雨時期はアジサイのイメージがあるんですよね。」
「確かにそうですね!アジサイは6月全体での誕生花です!アジサイいいですね!」
アジサイはレースフラワーやカスミソウなんかに比べると比較的派手めな花なので、花束にもぴったりだ。さらに花言葉もアジサイ全般では『和気あいあい』、『団らん』、『家族』という意味がある。はっきり言って、川上さんのお母様へ贈るのにぴったりの花なのだ。
「それじゃあアジサイでもいいですか?」
「はい!もちろんです!色とかたくさんありますけど、何色がいいとかありますか?」
「色ですか…基本母は何色でも好きだったと思います。」
「そうですね…。実は、アジサイは色ごとにも意味があるんです。それで選びますか?」
「え?色ごとにちがうんですか?」
「ええ、そうです。」
そうなのだ。実は色ごとにも意味が違うものは意外とたくさんあるのだ。
アジサイ以外にも、薔薇、ガーベラ、カーネーションなどが代表的なものとして挙げられる。花をプレゼントとして贈るときは、意味に気をつけて贈らないと、勘違いして困ることも多々ある。
例えば赤の薔薇には『情熱』や『あなたを愛しています』という意味がある。これは有名だが、黄色の薔薇には『友情』や『ジェラシー』という意味がある。だからと言って黄色の薔薇を贈ってはいけないわけではないが、プロポーズには向かないだろう。
「アジサイの場合は、紫色が『神秘』、青色が『辛抱強い愛』、白色が『寛容』、ピンク色が『強い愛情』『元気な女性』、それから緑色が『ひたむきな愛』ですね。アジサイの色は他にもあるそうですが、今うちにあるのはこの4色だけなので、この中からということになります。」
「そんなにあるんですか…
うーん、でもそれだと紫色とかはちょっと違いますよね…
母は『死ぬまで現役で働く!』ってよく言ってるのでピンク色にしようと思います。」
「そうでしたね。お母様は働くのがお好きと仰ってたので私もそれがいいと思います。」
というより、これ以上にぴったりの花言葉はないと思う。
「ありがとうございました。母に喜んでもらえると思います。」
「ご満足いただけて良かったです。
お母様にもよろしくお伝えください。」
次話あたり最終話になると思います。
ここまで読んでいただきありがとうございます。
もうすこしお付き合いください!