初のバトルシーン(俺が戦うとは言ってない)
「えっと、えっと……私は水橋花奈です。その、よろしくお願いします」
気弱そうな少女--水橋さんがおどおどしながらもぺこりと頭を下げる。
「僕は天宮翔也、よろしくね。僕にできることがあればなんでもするからさ、困ったことがあったら遠慮無く言ってね」
「私は大城静香です。水橋さん、仲良くしましょうね?」
天宮くんと大城さんも水橋さんに対して自己紹介をして、優しく笑いかける。
するとそれを見た水橋さんは顔を赤くしながら慌てたようにわたわたしだした。
「あぅ……は、はいぃ」
水橋さんは恥ずかしげに身を縮ませながらもなんとか返事をする。
それをみて満足そうに笑う二人を見て俺もつられて微笑む。
仲が良いのは良いことだ。俺がこの国からの脱出を手助けする時に仲が悪くて足を引っ張るなんて事があったら困るからな。
「えっと……その……」
そして水橋さんはチラッチラッと俺の方へ視線を向ける。
どうしたんだ?
俺が頭に?を浮かべていると、大城さんが小声で教えてくれた。
「ほら、飛鷹くん、君も自己紹介しなきゃ」
……ああ、そういうことか。
確かに、俺は自己紹介していなかったな。
俺は誤魔化すようにコホンと咳払いをして、口を開いた。
「俺は、飛鷹勇人だ。よろしく頼むよ、水橋さん」
そして、気の弱そう、というか確実に気の弱い水橋さんを怖がらせないようにできるだけ優しげな笑みを浮かべてみる。
「は、はい。ひ、飛鷹さん、よろしくお願いします」
そんな俺の態度に安心したのか、水橋さんの表情が柔らかくなる。
そんなこんなでお互いの自己紹介を終えた後、クラウスさんが近づいてきた。
「勇者様方、眷獣の召喚お疲れさまでした。それでは、早速ですが勇者様方、モンスターを実際に見ていただきたいのでまた移動をしたいのですが……よろしいでしょうか?」
クラウスさんが確認するように問いかけてくる。
「はい」
「ええ」
それに天宮くんと大城さんが首肯して答えた。
それを確認したクラウスさんは俺たちを部屋の外へ連れていく。
天宮くんは頭にアクアドラゴンを乗せ、大城さんは天狐を腕で抱いて、水橋さんはセイントバードを肩に乗せてクラウスさんの後を着いていく。
……ん?俺は無精霊がフヨフヨ宙に浮いてついてきてくれているから、そのまま着いていった。
向かう場所はわかっている。
モンスターを実際に見せると言っていたからだ。
つまり次に向かうのはこの城の中にある訓練場。
この国から俺が脱出するためには避けられないイベントがある場所だ。
***
契約の間から豪華な廊下をしばらく移動し、訓練場へと向かう。
そこには既に十人ほどの兵士が待機しており、クラウスさんが兵士の隊長と思われる他の兵士達より鎧の傷が多い人に話しかける。
クラウスさんはその隊長と思われる人と少し話すと俺達の方を向き、ニコリと笑って話し出した。
「申し訳ありません。ただいま準備をしておりますので少々ここでお待ち下さい」
そして、クラウスさんがそう言っている間にも、待機していた兵士達が隊長と思われる人から指示を受け、動き始める。
それを眺めて準備が終わるまで俺達はその場で待機して待つ。
そして、十分程待った頃に準備ができたようで鉄格子の黒光りしている小さな檻を四つ乗せた木製の台車を押す兵士達が訓練場に入ってくる。
その小さな檻の中には、青色の少し透明度があるゲル状の物体がいて、その中心にはテニスボールぐらいの石--魔石が浮いているモンスター--スライムが入っていた。
……ゲームの時も度々指摘されてたけど、スライムみたいに自分の身体を自由に変形できるモンスターを檻に入れてなんで檻から脱走されてないんだ……?
現に今もスライムは檻に捕まえられてるのに、檻から抜け出して逃げようとしてないし、暴れてもいない。
まぁ、そんなことを今考えても仕方がないんだけどな。
今はあのリアルで見るとちょっとグロテスクなスライムを見るしかないだろう。
……うん。やっぱりゲームだとそこまで気にならなかったけど、リアルで見るとやっぱりくるものがあるなぁ……
「えっと、これが僕達がこれから戦っていくことになるモンスター……ですか?」
天宮くんが若干顔を青くしながらクラウスさんに問いかけた。
その声は心做しか震えているように聞こえる。
声には出していないが、大城さんと水橋さんも青い顔をしながらスライムを見つめていた。
対して俺は、予想していたからそのフォルムにちょっと驚いただけで、まだ大丈夫だ。
そして、俺達の反応をみたクラウスさんは苦笑いしながらも説明を始める。
「はい。こちらの檻に捕まえているのはスライムと呼ばれているモンスターです。最弱のモンスターと呼ばれているので、勇者様方の眷獣の力を試すとためとしては丁度いいと思いますよ」
クラウスさんがスライムの入った檻を指しながら言ったことに天宮くんと大城さん、そして水橋さんの顔が引きつった。
それはスライムと戦うことになったからか、それともあのなんとも言えないビジュアルのスライムを見たからかはわからない。
ただ、クラウスさんの説明は続いている。
「このモンスターの一番の特徴、それは他のどの魔物よりも圧倒的に弱いということです」
クラウスさんはそういいながら兵士達の手によって台車から降ろされた四つの檻の内の一つに腰に携えた剣を抜き出しながら近づいていく。
「このように……はっ!」
クラウスさんは檻の間から剣をスライムに向けて突き刺した。
そして剣は、簡単にスライムのゲル状の身体を貫き、中心にある魔石にまで到達して魔石を砕く。
すると、魔石を砕かれたスライムは、ゲル状の身体が力が抜けたかのように形を失い、檻の床へと広がった。
「この通り、スライムは魔石と呼ばれるモンスターの核が丸見えになっているのでこの魔石を破壊すれば簡単に倒すことができます」
もう倒したスライムに用はないと言った感じでクラウスさんは剣を振ってスライムに剣を突き刺した時に着いたゲルを払い落とし、鞘に納めて振り返る。
「さあ、勇者様方も契約した眷獣と共にスライムを倒してください。もしなにかあったとしても私がサポートいたしますので」
笑顔でそう告げるクラウスさんを見て、天宮くんと大城さんは決意を固めた表情で、水橋さんはえっ!?えっ!?といったように戸惑っている。
そして、このままでは話が進まないと判断したのか、大城さんと天宮くんはお互いに目を合わせて一つうなずくと、天宮くんと大城さんは一歩前に出た。
「わかりました!……ごめんねアクア、一緒に戦ってくれるかい?」
「ごめんね、コンちゃん。私と一緒に戦ってくれるかしら?」
『ギュラァ!』
『コンッ!』
二人はそれぞれ自分の眷獣に向かって話しかけると天宮くんのアクアドラゴンは頭を縦に頷いて、肯定を示して鳴き声を上げ、大城さんの天狐もコクンとうなずき鳴く。
というか名前着けてたんだな。全然気づかなかった。
「まずはお二人ですか……スライムを二匹出してくれ!」
クラウスさんは二人がスライムと対峙する準備が整ったのを確認してそう叫ぶと、それに答えるようにして二人兵士がスライムの入った檻をそれぞれ一つ台車から持ち上げて地面に置いて檻の扉を開け、檻の中に入っていたスライムを地面に出した。
「よし……勇者様方、準備ができました!いつでもどうぞ!」
クラウスさんが天宮くんと大城さんに呼びかけるようにして言う。
「よし……!頼むよアクア!」
「お願い!コンちゃん!」
『ゴアッ!』
『コーンッ!』
クラウスさんの声を聞いて天宮くんと大城さんはそれぞれの眷獣に声を掛けると、アクアドラゴンはまだ小さいその身体を翼を広げて羽ばたかせ天宮くんの頭から宙に舞い、天狐は大城さんの腕の中から飛び出してスライムに向かって行く。
そして、檻から出されたスライムはさっきまで動いていなかったのに、今は少しグチョリグチョリと言った感じでゆっくりと動き始めていた。
だけど、アクアドラゴンも天狐もそんなの関係ないとばかりに近づいていき、アクアドラゴンは口から勢いよく水流を放出し、スライムを訓練場の壁まで押し流して壁に叩きつける。
天狐は一本の尻尾から火の玉をスライムに向かって飛ばし、見事命中させる。
アクアドラゴンによって壁に叩きつけられたスライムは今の一撃でHPを削りきられたのか魔石を残して消えていった。
そして、火の玉が命中したスライムも同様に魔石を残して消えていく。
それを見た天宮くんと大城さんは二匹とも無事だったからか、それともちゃんと倒せたと思ったのかどちらかわからないがホッとした様子を見せる。
「凄まじいですね……私の想像以上ですよ」
クラウスさんは二人の戦闘をみながら、目を輝かせながら小さく呟いていて天宮くんと大城さんに近づいていった。
「ふぅ……」
そんなクラウスさんを確認した俺は俺は初めて実際に見る眷獣の戦闘を見て息をつく。
正直、俺はそこまで心配していなかった。
天宮くん達が召喚した眷獣達はどれも〔エレパト〕の世界では高い評価を受けていたから、初期も初期のモンスターであるスライムに負けることは無いと思っていたからだ。
だから安心してこの世界に来て初めての眷獣の戦い、それも今まで画面越しにしか見ることのなかった眷獣達の戦う姿を見ていたのだが、やっぱり現実はゲームとは比べ物にならないほどすごいな。
まあ、これからもこういうのを見るたびに感動したり、驚いたりするのかもしれないけど、それは仕方ない。
「それでは、次は……あなた様でよろしいですかね?」
俺がそう考えている内に天宮くんと大城さんと話し終わっていたのか、クラウスさんは俺に近づいていて、話しかけてきた。
さてと……ここだ。
ここの行動で俺がこの国を脱出できるかが決まってくると言っても過言ではない。ここで俺がどう行動しなければいけないかは……もう決まっている。
それは……
「お断りします」
良い笑顔でスライムを倒すことを断ることだ。
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